おじさんは創聖教の教会で司祭と話す
翌日、不死鳥の癒しの炎のおかげで腰の調子が良くなりグレイと共に協会に赴く。リリーナたちは王城に行き、共に来るはずだったルイス公爵は不幸な事故により動けなくなっていた。
創聖教の教会は意外に小さく、王都に置くには物足りないと思わせる大きさだった。ただ建物自体は非常に綺麗に掃除されており、真っ白な壁には汚れ一つ残っていない。
花壇の花も手入れが行き届いており、来るものを安心させる空間が作られていた。
ここを管理している者の性格が良く分かる。几帳面な綺麗好きか、信仰心に篤い生真面目な人間のどちらかだ。
宗教に関わる人だ。どちらの可能性もある。そしてどちらも非常に話しやすい部類だ。
すでに来ることは伝えてあるので遠慮なく教会の扉を開ければ。
「お待ちしておりました。ルイス公爵家の方ですね。私は司祭のポポロと申します。どうぞ中へ」
司祭のポポロが扉の前で待っていた。こちらが来る時間を知っていたのか、それともずっとその場で待っていたのか。それは分からないが、別のことでいくつか気付いたことはあった。
一つはポポロの若さ。おそらく二十代後半だろう。創聖教についてあまり知らないが、この年齢で大陸を渡った先とはいえ、首都である王都の教会を管理する司祭の地位にいると言うことは出世頭なのではないだろうか。少なくとも創聖教から期待される立場にいるとは思う。
もう一つは連絡の不備。確かにルイス公爵家の者と言えばそうなのだろうが、私はリリーナの召喚獣だ。もし私が召喚獣と知っていればこれほど丁寧な対応はしないだろう。これは単純なミスなのか、それともカタリナからの好意なのかは分からないが利用させてもらうことにした。
案内されるがまま、教会の一室に通された。
机と椅子、他には僅かな調度品だけの小さな部屋。ただ壁が厚く、外に声が漏れる心配のない話をするのに適した部屋でもあった。
「私、本堂誠一と申します。こちらは護衛のグレイ。本日は近々来るであろうエルフに付いてお話をするために参りました」
「話は聞いております。東で問題だったエルフとの仲が改善され、ルイス公爵が所持している竜の牙に参拝に参ると」
知っているなら話は早い。
「その通りです。実はエルフは竜を信仰しています。創聖教の司祭たるポポロ殿には理解しがたいでしょうが、彼らには彼らの信仰があるのです。それを一つ理解して頂きたく……」
「確かに我ら創聖教にとって竜とは悪。それを崇拝するエルフに対して思うところはあります。ですが、それを理由にエルフの方々に悪意ある行動をすることはありえません。私は彼らを理解したい。そして彼らに私たちを理解してもらいたい。互いを理解すれば争いは起きません」
司祭による何とも素晴らしい言葉、などと甘い言葉ではなくこれは司祭の要求だ。
これはエルフとの会談の場を作ってほしいということだろうか? それともエルフに対しての布教許可だろうか。これを行えば争うことはないと言うが、逆に言えば理解しなければ争う可能性があるとも取れる。
とはいえ、こちらも馬鹿正直に二つの条件を受け入れてやる必要などない。
「そうですね。互いに理解し合えれば良いと思います。ですがエルフからすれば初めての王都です。慣れない環境で様々なことを言われても混乱するだけだと思います。まずはエルフが王都を安全な場所、落ち着ける場所だと思ってもらうことが重要だと考えています」
そっちが動くのは勝手。だがその結果でエルフが創聖教を嫌い、王都に寄り付かなくなったらどうするんだ、と暗に伝える。
おそらく創聖教としては信者を少しでも増やしたいのだろう。王都でこの小さな教会程度、まだまだ信者が少ない証。異種族なども取り込んでこの国での影響力を強くしたい考えが見えてくる。
だがそれはこちらには何の関係もない話。そもそもエルフが来ることを教えることはこちらの善意。その善意にとやかく言うのであれば二度と創聖教に善意は訪れない。
「……まさしくその通りです。少し気持ちが急いていたかもしれません。もし私どもに協力出来ることがあれば何でも仰ってください。微力ながらお手伝いさせていただきます」
「その時は是非ともお願いいたします。……これは未来の話ですが、異種族交流が友好的に進めばいずれはエルフもメーゼル魔道学院に通うことになるでしょう。その際にエルフにも召喚の儀を行えますか?」
ルイス公爵への義理を早々に果たしたので、私にとっての本題に取り掛かる。とはいえ、正面から召喚魔法について問うのは危険なので遠回りに聞く。
「それは、……私では答えられない質問です。ですが十分にあり得る未来であることは私も分かります。後程本国に連絡を取ってみます。それとこれは私個人の答えですが、竜を信仰しているからという理由で拒否はないかと思います。ただ異種族という点では分かりません。南の大陸には異種族も魔物もいませんから」
私の質問に驚きながらもポポロ司祭はきちんと考えた上で、返答と共に個人的な意見もくれた。
私にとってその個人的な意見こそが最も重要だった。
「それは、異種族だから駄目なのでしょうか? それとも異種族が召喚魔法を使えるか分からないと言うことですか?」
「……まあ、言っても問題はないでしょう。召喚魔法が使えるか分からないからです。そもそも召喚魔法が使えるのはこちらの国でだけ。何故か本国など南の大陸では一切発動しないのです。ですから、異種族だから使えない可能性はあります。ああ、今度来るエルフに試してもらうのは無理です。召喚魔法の魔法陣は本国が管理しています。召喚の儀の時だけ本国から大司教様と護衛団が来て魔法陣を描いて終わり次第消してしまいます。私程度の身分では関わることが出来ない秘儀ですので」
あまり知りたくない情報だった。召喚魔法の魔法陣は南の大陸にある。この教会に写したものなどがあれば幸いだったのだが、話を聞く限りここにはなく管理はかなり厳重な様子。
まあ、何も分からないよりは良い。今までは推測の範囲だったが、これで改造された召喚魔法の魔法陣は南の大陸で厳重に保管され、ここにいても手に入らないことは分かった。
私が元の世界に変えるために必要な他の二つ、元の召喚魔法の魔方陣と魔方陣を書き換えられる賢人にはまだ出会っていないことを考えればまだ希望のある情報だ。
「そうですか、分かりました。それでは何か分かりましたらルイス公爵家へ連絡をお願いします。本日は――」
「ポポロ司祭! ポポロ司祭はおられますか!」
知りたいことは聞き終わったので早々に帰ろうとすれば、何かあったのかシスターと思われる女性が慌てた様子で扉を開けた。
「どうしたんです。まだお客様が」
「大司教様が、マーティン大司教様がいらっしゃいました!」
大司教。確か魔法陣を管理していたのが大司教だったはず。……もう少し教会に滞在しても良いかもしれない。
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