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おじさんは公爵家の頂点を見た

「お、お母様!」


 ルイス公爵を吹っ飛ばしたのはリリーナたちの母、ルイス公爵夫人であった。

 すらりとした佇まいに引き締まった身体。顔に皺が見えるものの体勢が鉄の芯でも入っているのかと疑うほど真っ直ぐしており、どこにも老いを感じさせない姿だった。


 そして同時に理解した。このルイス公爵家の中で誰が一番偉いのか。


「セイイチさん、夫が失礼いたしました。後できっちりとお話をしておきますのでご容赦ください。リリーナ、その傷について何か言う者がいれば胸を張って言い返しなさい。人を守って出来た傷だと。テレサ、この人の暴走を貴女が止められなくてどうします。殴ってでも止めなさい。……返事!」


「「はい!」」


 ううむ、女傑だな。私は説明や交渉をして相手に納得してもらうことは出来るが、彼女は鶴の一声で終わらせられる人だ。公爵家の力があるなどは関係なく、彼女が言ったから周りが従う。人の上に立つ素質がある人。


 この手の人に下手な粗相は出来ない、とすぐに動く。


「ルイス公爵夫人、お初お目にかかります。私はリリーナさんの召喚獣の本堂誠一と申します。こちらは友人のグレイ。リリーナさんにはいつもお世話になっております」


「……そうでしたね。挨拶をしていませんでした。私はここにいる不肖の娘テレサとリリーナ、あともう一人娘がいるのですが。その母であり、先程愚行を犯したラッツ・ロール・ルイスの妻。カタリナと申し――」


「はあああ! な、なんだ今」


 不運と言うべきか。公爵夫人、カタリナの自己紹介中にルイス公爵が目を覚まし辺りを見回す。

 その目に映ったのは恐ろしい表情を浮かべたカタリナだったのだろう。

ルイス公爵は自らの失態に気付き、震えながら周囲に助けを求めるように視線を向けたが、誰もが目を逸らした。

誰からも助けを得られずルイス公爵は哀れな姿となった。何があったのかはルイス公爵の名誉のために思い出さず考えないようにする。


「誰かいますか? 運んでおきなさい」


 外に控えていた使用人たちが死体とほぼ変わらないルイス公爵を運んで行った。


「お騒がせいたしました。しばらく夫はここに来ないと思いますのでご安心ください。ああ、何か夫に頼んでいたことなどはございますか? 私が代わりに手配しておきますので。……教会への訪問。分かりました、こちらで手配しておきます。明日にでも訪ねてください。さあ、貴女たち。男性が療養している部屋に女性が長居するものではありませんよ。すぐに出ていく」


 見ているこちらの背筋が伸びそうなテキパキとした動きで、カタリナはリリーナとテレサを連れて部屋を出て行った。

 部屋は先程までの喧騒が何もなかったかのように静かになり、残された私とグレイ、不死鳥は互いの顔を見る。


「女は怖い! どうだ、オヤジ!」


「不死鳥。残念ながらそれは私も同じ意見だ。だから言い合いにはならんぞ」


 こういう時でも自分を貫けるのは一種の才能だと思った。


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