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おじさんは公爵邸で追い詰められる

「誠に申し訳ございません。まさか見舞いに来て突撃する馬鹿だとは思いもよらず。いや、馬鹿なのは重々承知していたのですが」


「あー、いえいえ。お気になさらず。焼き鳥のしたことですから」


 腰の痛みが治まってから、リリーナの姉であるテレサと挨拶を交わした。

 グレイは光線銃で焼き鳥を消滅させようとしたが、その前にテレサが回収して地面に叩きつけ、今はテレサに思いっきり踏まれて拘束されている。

 さすがにこの状態の焼き鳥にはグレイも手を出そうとはせず静観している。


「エルフの都では大変お世話になったのに。聞いた話では腰を痛めているとか。幸いこの無能は怪我を治す力がありますので、おそらくセイイチ様の腰にも効果があるかと。えっと確か、生き血だったか羽をむしり取るだったかしら」


「炎! 癒しの炎!」


 切るな、毟るなと焼き鳥は踏まれながらも必死に訂正して身を守る。

 それが功を奏したのか、焼き鳥を踏んでいた足が離れた。だがすぐに首にテレサの手が回る。

 丁寧に抱きかかえるようにテレサの胸元まで運ばれた焼き鳥だが、それはどう見ても締められる寸前の鳥の姿。


「それではセイイチ様。うつ伏せになって下さい。……下手なことしたら折りますからね」


 優しい声の後にぼそりと怖い何かが聞こえた。言われたのは焼き鳥だろうが、背筋が凍るほど恐ろしかった。

 グレイに服をめくってもらい、早速治療を受ける。


 うつ伏せの為何をしているのか分からないが、視界の端に珍しい白い炎が見えた。

 おそらく私の背中に白い炎を吹いているのだろうが、不思議と熱くはない。熱いのは痛みの部分のみで、お灸のような我慢できる熱さだった。

 しばらくしてテレサから良いですよ、と言われたので起き上がる。


 ……ふむ、なるほど。

 ゆっくりと確認するように身体を捻ったり、曲げたりして腰の治り具合を確認する。


「いや、だいぶ楽になりました。これなら歩く分には問題なさそうです」


 かなり良くなった。怪我ではないため完全に治せるわけではないようだが、日常生活を送る上であれば何の問題もなさそうだ。

 気分としては湿布を貼って一晩か二晩経過した程度の回復具合。


「それは良かった。またどこか悪くなったらこれを使ってください。それ以外には喚くしか能のない鳥ですので」


「ははは、そんなことを言ったら私など口が回るだけのおじさんですよ。人を癒せる力があるだけ羨ましい」


「そうだろ、オヤジ! もっとグエッ!」


 下手なことを言いそうになった焼き鳥をテレサが手慣れた様子で絞めた。その顔は今まで通りの笑顔。うん、怖い。


「あっと、失礼しました。実は今日来たのは見舞いだけではなく、ちょっと困ったことがありまして」


 絞められた焼き鳥をその場に投げ捨ててテレサは本題に入る。まあ私も見舞いに来ただけだとは思っていない。治療と言う前払いも受け取っているし。

 どうしたのでしょうか? と話を聞いてみれば。


「実はエルフの都での一件でこれの精神が一時的に壊れまして。それは私としては全く構わないのですが、最近復活したと思ったらセイイチ様に会いたいと喚いて。どうやら精神がおかしな直り方をしたのではないかと」


 頬に手を当てて困った様子を浮かべるテレサになるほどと頷いて返す。

 私も少し気になっていた。以前にエルフの都で出会った時は尊大な態度だったが、今は何故か私をオヤジと呼んでくる。少なくとも私に出会って突撃してくる奴ではなかったはず。

 聖獣否定の一件で恨んでいるのであれば理解できるのだが。


「私への恨み、であれば私に癒しの炎など使わず燃やすでしょうし。何故でしょうね」


「ああ、それは――」


「復活! 聖獣ではないが不死鳥である! 反論しろ、オヤジ!」


 私の疑問にテレサが答えてくれようとしたが、その前に地面に落とされていた焼き鳥が騒々しく復活した。折られた首も完全に治っており、知性や品格はともかく本当に不死鳥なのだと思い知らされた。


「ええっと、テレサさん」


「はい。どうやら舌戦を申し込みたいようで。以前負けたことを気にしているのかもしれません」


 なるほど。前に負けたから今度は勝ちたいと挑んできたと。そして聖獣ではないことも受け入れているのか。それなら復活と同時に意味の分からないことを言った理由もわかる。

 ただ問題がある。


「焼き鳥。いや、不死鳥と呼ぼう。不死鳥、舌戦をするためには互いに意見を違える必要がある。お前は自分を聖獣ではないと言うが、私もお前を聖獣ではないと思っている。同じ意見では言い争うことは出来ない」


「なにっ!」


 こいつ精神が壊れた所為か知性が低下していないか。いや、エルフの都で出会った時もそれほど頭が良い奴だとは思っていなかったが。

 この頭なら言い合いになれば容易に勝てるだろうが、そこに至るまでが難しい気がする。どうしたものかと頭を悩ませていれば。


 キャー、とどこかから女性の悲鳴が聞こえた。


「何かあったのでしょうか?」


「少々確認してまいります。不死鳥、貴方はここで待機。不審者が入れば燃やして構いません」


 応っ、と不死鳥は戦闘態勢を入るかのように鮮やかな赤い炎を纏い棚の上で待機。それを確認してテレサは部屋を出て行ってしまった。

 グレイも光線銃を構えて部屋に緊張が走ったが。


「……待って…………これは…………」


「……な馬鹿なこと…………やめ……」


 しばらくしてバタバタと誰かがこちらに向かってくる足音がした。そして僅かにリリーナとテレサの声が聞こえた。

 声の様子から察するに不審者の類ではない。ただ何か焦っているのは伝わってきた。


「失礼する!」


 バタン、と優雅の欠片もないほど勢いよく扉を開けたのはルイス公爵。ただその表情は怒りに満ち溢れており。


「ええっと、ルイス公爵? どうされました?」


「いや、実はねえ。娘がドレスを選んでいるときに使用人がとんでもないものを見つけてねえ。どうしてもセイイチ殿に話を聞きたくなった」


 今にも胸倉を掴んできそうな近い距離。しかし私は何故ルイス公爵が怒っているのか分からない。リリーナのドレスを選んでいるときに使用人は何を見つけた? それが何故私に繋がるのか。


「リリーナの顔に傷があったんだ。知らないかねえ、セイイチ殿」


 顔に傷? と驚いてルイス公爵の後ろで申し訳なさそうに立っているリリーナを見て見つけてしまった。

 額から生え際にかけて薄い傷跡がある。いつも前髪を下ろしているので気付かない、非常に薄い傷跡。


 あれは確か、ボルダー辺境伯の所で私を助けるために矢を受けて出来た傷。剣で弾き頭を掠めただけなのでそれほど大きな怪我ではなかったので忘れていた。それにあの時は他に色々とあった。


 発覚した原因はリリーナが話していた流行だろう。前髪を上げた所為で使用人に知られ、それがルイス公爵に伝わった。原因は正確には私ではないのだが、娘の顔に傷があったと怒るルイス公爵にそのような説明は無意味。


 怒れる親の宥め方は知らない。久々に打つ手のない追い詰められた状況。誰か助けてと心の中で叫べば。


「馬鹿馬鹿しい! 何をしているのですか、貴方は!」


 いつの間にか部屋に入ってきた成熟した女性がルイス公爵を吹っ飛ばした。


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