おじさんは東の開拓団を離れる
王都からの使者と足場を固めるための資料作りの競争は資料作りが勝った。
私の予想では王都からの使者が勝つと思っていたので意外な結果ではあったが、これには強力な助っ人の存在があった。
「資料作りだけで終わりではありません。こういった物は閲覧しやすいように管理せねばなりません。ふぅむ、資料室と管理人が必要と思いますが?」
筋肉の人。バリッシュ・ストロンガーである。
考えてみれば学者であり、今も筋肉について調べてまとめているのだ。開拓団の資料作りはやや系統が違うもののコツを掴めばリリーナやポーラよりも戦力になった。
またバリッシュの妻、ルリの活躍も素晴らしかった。
集中力が切れそうになった人の下に茶を持っていき一休みさせたり、皆がまとめた資料をそれぞれを分類別にまとめたりと陰ながら尽力していた。
おかげで私やグレイが手伝えることはほとんどなかった。大変喜ばしい結果ではあるのだが。
「やることがないってのは暇だな」
まるで隠居した老人の如く、部屋の一室で座り天井を眺める。
「まあ、トモダチは下手に動くと騒動が起きるからね」
友人が、グレイが私の前に座っていてくれるのは幸運だろう。話し相手がいなければボケてしまいそうだ。
根っからの仕事人だったからな。
「騒動を起こしたくて起こしているのではないのだが」
「あっはっは。トモダチ、それは無理だ。召喚主以外に会話が出来ると分かれば、今まで見過ごしていた不平不満が募れば、誰かと話したくなるものだ。ただ話をするだけ。それは召喚主からすれば今までとは違うことで怖いんだから。騒動にならないわけがない」
誰とでも意思疎通が出来る。それだけで騒動の種だとグレイに言われ、私は何も言い返せずに背もたれに寄りかかる。
「まあ、トモダチは騒動を上手く収められるんだし、良いんじゃない? それに、これからも騒動を起こすんでしょう?」
「起こしたい騒動だけを起こせればいいんだ。余計な騒動は面倒な結果を生む可能性があるからな」
「なるほど。それで? 近々騒動を起こす予定でもあるの?」
「ないな。創聖教について少々気になることはあるが、情報が足りない。ただ情報を得る方法は考えてある。真っ当な方法だぞ? 決して騒動にはならない」
だと良いね、と私の言葉を信じていない様子で楽しそうにグレイが言う。
どうしてこうも信用がないのか、と考えて納得した。
学院を出て北に行けば竜の騒動があり、学院に戻れば召喚獣とキノコの騒動。東に行けばルルクス伯爵が黒幕の騒動に、獣人の国の騒動だ。
確かに。私が原因ではない騒動があるとはいえ、少々騒動に巻き込まれ過ぎている。これでは騒動を起こす気はないと言っても信用はされないだろう。
「ならグレイよ。騒動を起こさないコツを教えてくれないか?」
「難しいことを言うね、トモダチ。地雷原で地雷を踏まないコツみたいなものだよ。ううん、そうだな。過去を振り返って、問題ないと確認してから前に進むのはどう?」
「一歩歩くだけで一日かかりそうだな」
それからも他愛のない話をしていれば、開拓団の砦内が徐々に騒がしくなってきた。
何かあったのか、と外を眺めていれば見慣れぬ馬車が入ってきた。
王都からの使者か。
届けられたのは王都への召喚状だろう。
北のボルダー辺境伯の所で功績を上げ過ぎたために東に来たのに、東に来て早々に獣人の国との接点を作る功績を上げてしまった。当然、これ以上功績を上げないようにまた戻されるのだろう。
王都で派閥の調整をしている者は大変だろうな。
しかしこれで王都行きか。特に慣れ親しんだ場所でもないが、友人と離れるのはやはり寂しいし心残りもある。
サラマンダーは和解と言うベストな形に持って行けたが、ケルピーはやや不安が残る関係だ。出来れば見守ってやりたいが、子供ではないのだ。それに私自身やるべきことは多くある。
外で訓練をしているサラマンダーとケルピーに視線を向ける。
「トモダチ、一応ボクらも一緒にいた方が良いんじゃない?」
「そうだな。確実に王都行きが決まったわけではない。折角立場があるんだ。情報をいち早く手に入れられるなら手に入れないとな」
私はグレイと共に部屋を出てリリーナたちの下へ向かう。
届けられたのはやはり、王都への召喚状だった。
よろしければ評価、感想などお願いいたします。




