おじさんはハイドへの罰則を確認する
「あの罰則を決めたのはリリーナか?」
「ええ、そうです。罰則も色々とありますから、どれが適切かと悩んでいたら少し手を加えれば丁度良いのではないかと思いまして」
なるほど、と頷きながら外を眺める。
外ではグンズ主導で中継地点を作れる場所を探索するチームの選抜が行われている。
選抜、と言ってもメンバーのほとんどは決まっている。士官経験を積むために来ている貴族たちだ。本当の目的は貴族たちが連れている召喚獣だが。
なので正確には選抜メンバーによる訓練が正しいのかもしれない。何らかの事情で連れて行けないものが出てくる可能性があるので、選抜の名を使っているだけだが。
その訓練の中で一際目立っているのがいる。ハイドとケルピーだ。
「ひぃ、ひぃ」
今は持久走なのかひたすら走っているだけだが、ハイドの後ろにだけケルピーがおり先頭集団から遅れると即座に水球をハイドに向かって発射。無理矢理走らせて先頭集団の中に入れる。
あれこそハイドへの罰則。召喚獣であるケルピーをハイドの指導官に任命して厳しく指導させる。世にも珍しい召喚獣の方が召喚主よりも偉い関係の出来上がりだ。
周囲から見ればケルピーが何を言っているのか分からず、ただひたすら虐められている光景なためハイドに対して同情的な目を向けている者も多い。ただ事情は知っているため、何も言わず自分の召喚獣の扱いを見直す者も多い。
ハイドへの罰則だけではなく、周囲に召喚獣の扱いを見直させるとは。
「良く考え付いたな。実に効果的だ。後は私がケルピーにやり過ぎないように伝えて置けば心配もなくなる」
「おじさんにそう言われると嬉しいです。グンズも東に国に行ってからこちらの指示を素直に聞いてくれて助かっています。バルカもそんなグンズの姿を見て危機感を抱いたのか良く働いてくれますし。あの二人がきちんと協力すれば東の開拓団を任せられますよ」
グンズとバルカが協力すれば安泰、か。それはどうだろう。その考えはルルクス伯爵を甘く見ているな。
「それは、まだ難しいだろう。ルルクス伯爵は獣人の国の発見を遅らせるためにあの二人を選んだんだ。仲が悪い、という部分もあるだろうがもし協力しても決して良い方向にはならないと分かっていたんだろう」
「あの二人が協力しても駄目ですか? ううん、グンズは確かに理想で港を作るなど行動力はあっても計算能力が低いと言いますか、そうなる算段が立てられない人ですけど。逆にバルカは塩田を作りたがっていて現実を見ている気がしましたが」
「理想と現実。それを制御できれば上手くことを進められるだろう。しかしな、この開拓団に、そして港町に塩田を作った者も、働いた者もいなかったぞ」
え? と言い信じられないと言葉がリリーナの表情だけで伝わってくる。しかし事実なのだ。
塩田と言っても適当に海水を撒けば出来るものではない。設備を作るなり、道具や土地を変えるなりする必要がある。それをバルカはまるで考えていなかった。
「理想と現実。確かに重要に見えるな。しかし本当に重要なのはその下準備だ。足元をきちんと踏み固めないと現実も理想もない。現状では足元がグラグラのガタガタだ」
どんな立派な建物も足元が固まっていなければ意味がない。グンズもバルカも足元の重要性を未だに理解していない。
「ど、どうしましょう。私、あの二人に任せるって言っちゃいました」
「そこは大丈夫だ。王都から使者が来るまでまだまだ時間があるだろう。それまでに大量に資料を作り残しておけばよい。一度足元を固めればしばらくは大丈夫だ。本当なら私も手伝いたいのだが、こちらの文字を覚えていないのでな」
私の説明を聞いてリリーナはなるほど、と納得するも最後の方に首を傾げてしまう。
「あの、それって。今の仕事に資料作りも入るってことですか?」
「リリーナがやっても良いし、ポーラに任せても良い。部下に任せても良いが、足場を固めるための資料作りなんて評価がされにくいのに辛く根気のいる作業だ。信用できる人でなければ途中で逃げ出したり適当な数字を書いたりするかもしれないが。どうする?」
「……ポーラと一緒にやります」
後の者がどうなろうと知ったことではない、と投げ出さないのは非常に素晴らしい。貴族としての意識なのだろうか。
勿論手伝えることは私もグレイも手伝おう。この手の作業は慣れている。
ただでさえ東の国に言っていた際に溜まった仕事があって多いのに更に仕事が出来た、とリリーナはぐてっと情けなく机に突っ伏す。
そんな姿につい笑いそうになるが何とか堪える。
グンズは無理だがバルカは派閥間の調整などが終われば少しは手伝わせることが出来るはず。そうなれば少しはリリーナたちも楽になるだろう。
ただしそれを伝えるようなことはしない。こういうことも一つの経験になるのだから。
王都からの使者が先か、資料を作り終えるのが先か。
今はまだ、分からない。
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