おじさんはリリーナの怖さを知る
私の願いも空しく、ハイドは見つかってしまいリリーナの前に連れ出された。
見つけた人曰く、倉庫の隅でガタガタ震えていたそうだ。
「今ケープを呼んでいます。ケープが来るまで黙って待っていなさい」
凍えるようなリリーナの冷たい声。ハイドはリリーナに視線を合わせることも出来ず、ただ俯き黙るだけ。
胃が委縮するような冷たく、一分が十分に感じる重い時間は少しずつ流れ誰かの足音共に終わり。
「ハイド! てめえ! 何してやがった!」
灼熱の時間に変わった。
ケープはバリッシュに見事に治してもらったのか火傷の跡もない様子。ただ頭の、焼けてしまった髪までは治せなかったらしく少し奇抜な髪形になっている。
まあ、うん。回復魔法で禿げまで治せるようなら大変なことになっていただろうし、妥当な効果範囲か。
現れたケープはすぐにハイドに掴みかかろうとしたが、後ろから付いてきていたバリッシュに肩を抑えられて前に進めなかった。バリッシュの後ろには医師もいる。ああ、経過観察のようなものか。
「ケープ静かにしてください。これからハイドは自分が何をしたのか話してくれますので、それの真偽の判断をお願いします。ではハイド、今問題となっている召喚獣による暴行事件、そしておじさんに何をしたのか。偽りなく話してください。嘘も、黙秘も私は好みませんよ?」
「ヒィ……! うぅ……。話します。話しますから」
冷気と熱気の怒りを浴び、ハイドは震えながら何をしたのかを話し始めた。
それは別に何でもない衝動のようなもの。
周りの同期は徐々にだが上手く見回りが出来るようになっていく中、自分は上手くことを進めることが出来ない。
その原因は分かっている。召喚獣の有無。
上手く奴には召喚獣がいて、上手くいかない自分には召喚獣がいない。それに友人にであるケープも召喚獣がいないから上手くいっていない。
全部召喚獣が悪い。
そうではないと理解している。ただ何かに擦り付けてしまいたかった。
本当に悪いのは自分じゃないと。他にあるのだと。
そんな時に召喚獣であるケルピーがサラマンダーと共に何かに困る様子なく、砦の隅で寝ているのを見つけて感情が爆発した。
お前たちの所為で苦労しているのに、お前たちは!
気付けば水の球を寝ているケルピー相手に放っていた。しかし敵意に気付いてかサラマンダーがすぐに起きて迎撃の火の球を放ち、水の球を蒸発。そして水の球を貫通した火の球はハイドに迫り。
近くにいたケープに咄嗟に庇われハイドは無傷。ケープは顔半分と腕から肩にかけて大火傷を負い意識を失った。
その後はハイドがケープを医務室に運び、サラマンダーは人を攻撃したとして捕獲、拘束された。
「つまり、心の弱さから衝動的に行動してしまったと?」
「……はい。それから、自分がしでかしたことを言い出すのも怖く、ケープも目覚めなかったのでずっと黙っていました。ですが、砦にいるとケープが起きて自分のしでかしたことを話すんじゃないかと思って。逃げるように見回りに出て。……変なことを考えないように集中して見回りをしていたおかげか、いつもより順調に見回りが出来ました。……結局、自分の実力で上手くいかなかっただけだと、自分で証明して。馬鹿なことをしたと思っています」
ハイドの話を聞いて、バリッシュに無理矢理座らされているケープは今にも殴りたいとばかりに怒る様子を見せ、聞きに徹していたリリーナは冷たくハイドを見ていた。
「なるほど、その一件については分かりました。それで、おじさんには何をしたんですか?」
「ああ、彼はケープが起きたこと教えてくれて、そして自分がしでかしたことを知っていたから逃げなきゃ、と思って魔法で膝を打ち抜いて、態勢を崩したところに額に魔法を放って気絶させた。その後は逃げ場所を探して倉庫の隅の方へ……!」
「おじさんを、攻撃した? はあ? ……何をしたのか」
「はーい、リリーナ落ち着いてねえ。ハイドの罪状は召喚獣の暴行が二件。情報の隠匿などもあるけど、殺すのは駄目だよ」
「……そうですね。上に立つ者は常に冷静でなければ。……とりあえずハイドを埋めて一時間後くらいに掘り返す程度で」
「はーい、全然冷静じゃないね。罰則は後で言い渡すのでハイドはそれまで自室で謹慎と言うことで。逃げたら庇えなくなるよ。じゃあハイドは移動してください」
これは、私は愛されていると思っておけば良いのか。リリーナの過激な一面を見た気がする。
それに今のを見て先程まで激怒していたケープが沈静化しており。
「女って怖いな。俺だってボコボコにする程度で済ませるつもりだったぞ」
そちらもそちらで怖いことを言っていた。ボコボコは素手で行うのか、魔法を使うのかで大きく変化する気がする。
とにかく、一つだけ大事なことは判明した。
「リリーナ。サラマンダーの拘束を解いて自由にしてやりたいのだが、良いだろうか?」
「あ、はい。そうですね。攻撃に対しての迎撃ですし、サラマンダーに非はありません。ではおじさんはサラマンダーに解放すると伝えてきてください。こちらで手続きはしておきますので。……あ、グレイ。おじさんの護衛をお願いします。攻撃してきたら消しても構いませんので」
「証拠も残さないよ」
サラマンダーの解放が決まったことは嬉しいが、護衛に過激なことをさせようとしないでほしい。グレイが本気でやれば本当に証拠を残さずに消せてしまうから恐ろしい。
私はグレイと共に拘束されているサラマンダーの下へ向かった。




