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妖怪駅舎の駅長さん  作者: 鬼怒川まとい
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日常という日誌

ピピピッ。ピピピッ・・・

一定の感覚で電子音が部屋に鳴り響く。

手探りでその音源に手を伸ばし、音を止める。

時刻は朝6時。わたし、川島湯乃(かわしま ゆの)はいつもこの時間に起床します。


「・・・ふぁ〜〜」


別にねぼすけというわけではないですけど

朝はやっぱり眠いものです。

もう一度、布団にダイブしたら大分気持ちいいんだろうなぁ。とか考えます。

わかりますよね。この気持ち。

ベットから身体を起こし部屋のカーテンを開ける。

心地よい朝の日差しを受けて伸びをする。


「今日もがんばりましょうかね」



わたしは実家に住んでいます。陽光線の沿線上からは少し離れている一軒家。

父母にわたし、そして高校生の弟が一人の四人家族です。

部屋は二階にあるのでまだ少し寒い階段を降りてリビングに。


「おはよ〜」


「おう、ねーちゃん。おはよ」


返事をしてくれたのは弟の永一(えいいち)

紺色のパジャマに身を包んだ170cm程の姿。

美容院できっとカットしていないその髪の毛は

ボサボサの寝癖がついている。

姉のわたしが言うのもあれですがもっと

しっかり身嗜み整えればいいのに、もったいないです。


「父さんと母さんは?温泉?」


「おぅ。んで、そのまま農場行くってさ」


わたしの家、川島家は農場でりんごを育てています。わたしもすぐに実家で働くと思っていたのですが、

両親から「一回くらい社会には出ておけ」と言われ

今の仕事、陽光温泉駅の駅長をしています。まさか駅長になるとは思ってもいませんでしたけどね。


「あんたは?」


「俺は部活。朝練だよ」


「剣道部も大変だね」


「別に。好きでやってるだけだし」


眠そうにそう答えながら、永一はお茶を出してくれます。

気の利くよくできた弟です。

食事机を見渡すと食事の後はありません


「永一、ごはんは?食べたの?」


「ん?まだ。部活の用意もあるし」


「じゃ、朝ごはん作っとくね」


弟の分も朝ごはんを作ってあげる。

これこそ、よくできた姉ですね。


我が家の朝ごはんは基本的にお米です。

お米に味噌汁、卵焼き、お漬物。

これがスタンダード。ここに魚だったり、山菜だったり昨晩の残り物が加わります。

ちなみに、土曜と日曜はパンが朝ごはんになります。なんでかはわかりませんが

物心ついた時にはそんな感じでした。


さて、そんな我が家の本日の朝食はというと・・・

たけのこご飯(母親が作ってくれてました)

味噌汁〜わかめと油揚げ〜(同じく母親が・・・)

昨晩の残り物〜魚の煮付け〜(〃)

卵焼き(わたし!)

玄米茶(永一)

・・・母は偉大ですね。


ご飯を食べ終えて、熱いお茶を一杯飲んで

一息つきます。時刻は6時45分。


「うん。・・・急がないと」


一息付いてる場合ではありませんでした。

身支度って時間かかりますからね。


「ねーちゃん、行ってくる。戸締りよろしく」


永一の声。高校生、準備早いなぁ・・・

いってらっしゃい。と玄関で永一を見送ります。あ、寝癖立ってる・・・


「まぁ、行っちゃったし・・・いっか。」


さて、わたしも準備をしましょうかね。



わたしには出勤のルートはふたつあります。

1つは自家用車を使い、陽光温泉駅まで向かう。

もう1つは自宅から自転車で最寄り駅に行き、電車に乗って陽光温泉駅に向かう。

まぁ、だいたいは電車で行きます。

自社に貢献しないと。


そんな訳で、

最寄り駅「羽根田町」に向かいます。

時刻は7時20分、

8時には会社に着きたいので

この電車を乗り過ごすとギリギリの到着です。

危ないなぁもう。


この駅から陽光温泉までは15分程。

下り行き二両編成の車両がやって来ました。

あ、ちなみに上りは下田行き

下りは陽光温泉行きです。

車内に入ると満員電車とまでは言いませんが

そこそこに混み合っていました。

活気がある。ありがたい事です。



さて、ここまではいつもの日常です。

何処にでもいる一般の社会人の生活。

でも、駅長業務中は・・・ここは違う。

日常の非日常。いえ、非日常が日常と言えば

これも日常なんでしょうね。

時刻は午前9時。

この時刻に陽光温泉駅は業務開始となります。

駅の受付、観光業務などの駅長業務。

つまり、これがわたしの仕事です。

受付のカーテンを開けて周りを確認する。


「スタンプ台も出したしチラシも良し。今日も1日いい日でありますように」


『朝から元気だね』


ふと、誰かがわたしに声をかけてきた。

残念ながらお客様ではありません。

そして人間でもありません。


「おはようございます。いずみさん。」


いずみと呼んでいるこの存在。

唐傘の付喪神。要は妖怪。


『あぁ、おはよう。いつものことながら元気なものだね』


「来ていただくお客様にはいい場所だったと思って欲しいですから。」


実際、いい場所ですし。それに・・・


「また、来たいって思って欲しいですから」


『殊勝なことだね』


「どういたしまして」


この駅に最初に到着する電車は9時12分。

それまでは暇なものです。

この陽光温泉は古いモダンな建物。

駅舎の中には駅事務所、待合室、御手洗そして観光案内所があります。

なのでこの陽光温泉駅は

鉄道駅と案内所の合わさったものです。

そんな駅舎の現状


駅構内に待ち人・・・0人


「淋しいですね」


『そうだね。人がいないからね』


「まぁ平日で出勤時刻も登校時刻もすぎましたからね。」


都会だとこの時間でも出勤のラッシュが続いてるそうですがどれだけ人がいるんでしょうね。

想像もつきません。

きっと大変なんでしょうね。

お客様も、駅員も。



さて、時刻は16時43分。

下田行きの電車が出発しました。

この車両を見送るとこの駅に次に電車が来るのは17時以降になる為、わたしが見送る最後の車両になります。

後は駅に着いたら運転士さんが切符の確認等を行います。

わたしは駅舎の清掃をして閉めの業務を行います。駅舎自体は深夜まで稼働します。

しかし、無人駅となる為、朝に出したパンフレットやスタンプ台などはわたしがしまいます。そして事務作業等は17時以降に行います。

わたし、ちゃんと働いてるんですよ。


駅舎を清掃を済ませ受付のカーテンを閉めて

駅の業務を終えて事務所に戻ります。

そして報告書・・・日報ですね。

この日報を書いて、会社に提出をして

わたしの一日の仕事の流れです。


ちなみに、この日報に報告できない事・・・

つまり妖怪関連のことは

わたしのこの手記につけています。

まぁ、日記みたいなものですね。


というわけで、本日の妖怪関連・・・0件


平和バンザイ。



川島 湯乃

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