〜わたしの働く駅舎〜
【妖怪駅舎の駅長さん】
陽光電鉄。東海地方の山間部を走る小さな私鉄。
路線距離は11.6km。
市内と湯治で有名な陽光温泉を結び、二両編成の車両がのんびりと走るローカル鉄道。
終着駅の陽光温泉街は縁結びで有名な街で、
観光客の方々が訪れたりします。
ただ、本数の少なさ、山の中にあるという交通の不便さがあり、最近は観光に来るお客様も少なくなっているのが現状。
さて、多くを語るときりがないので細かい説明は
また今度。今はざっくりと説明致しますね。
県内で最古のこの温泉街も年々観光客が減少。
駅の利用者のほとんどが温泉街に住む人々。
かつてはドラマや映画の撮影にも使われたこの駅舎。しかし問題があるんです。
この駅舎には・・・妖怪が出るんです!
「と、言っても誰も信用しませんよ。このご時世」
駅の受付口でわたし、川島湯乃はそんな事をつぶやきます。
わたしは陽光電鉄で働く観光駅長。
あ、観光駅長っていうのは普通の駅員ではなくて、市の観光係なんです。
服装も普通の制服ではなく和服。袴なんですよ。
紺色の袴に桜色の着物。
大正時代の女学生みたいなものですね。
この格好にちょっと赤みがかった茶髪を
肩まで伸ばしてるので自分でいうのもあれですが
よく似合っていると思います。
さて、少し話がそれましたね。
えっとですね、観光係と言っても仕事は切符の販売、出発合図など駅員っぽい事もするので、この両方をしているっていう感じです。
「まぁ、確かにね」
読んでいた雑誌を閉じて返事をしてくれたのはわたしと同じく陽光電鉄で働く下之郷友紀。
ここでは運転士として働いています。
礼服のようなスーツ姿に,社章の着いた帽子を被っている、いかにも駅員というような格好です。
「昔はそういうのも流行ったらしいけど、今はそんなのは流行じゃないからね」
「そうですよね。妖怪なんて、ねぇ・・・」
「さてと、あたしはそろそろ行くわ。お客さんいないけどね」
「はい。気を付けてくださいね」
「あいよ。ありがとね」
指差しと目視で確認。時間を確かめて出発合図を出し友紀を見送ります。次の電車の到着までは
「1時間か・・・さて」
わたし以外に人のいなくなったホームはとても静かで、風が吹いたら木の葉の落ちる音すら聞こえそうな静けさに包まれます。
「・・・いい風」
独り言のつもりで呟いた言葉に
『そうだね。』
彼は返事をした。
「居るなら声掛けてくださいよ。はぁ・・・」
思わずため息。
『いや、妖怪が出る。と言っても信用してもらえない。だろう?』
「友紀は知らないんですから。それにこのご時世に妖怪が居ないっていうのが常識でしょう」
『常識なんて、その人が積み上げてきた尺度の問題さ。それに今の君にとっては妖怪が居る方が常識じゃないのかな』
「・・・まぁ、そうですね」
『それに私は付喪神、妖怪とは少し違う』
"カラン"と下駄の音が駅舎に響き、彼は現れた。
黒い着物、黒の袴を着てその手には赤茶色の和傘を持っている彼。
170cmくらいの彼の姿はよく映えます。
"和傘の付喪神"名前は【いずみ】
この陽光温泉駅に居る人じゃないもの。
「どう違ったとしても、人外にはかわりないでしょう」
『それは心外だね。ちゃんと人の姿をしてるだろう?』
「でも、人とは違う」
『では、人とはなんだろうね』
「はい?」
『・・・まぁいいさ』
それより。と前置きをして彼は駅舎のベンチに腰掛けた。
『この閑古鳥具合は中々だね』
「えぇ。一時期流行したんですけどね。心霊写真が映るって事がよくあって・・・その手の人には受けが良かったんですけど、観光地としては痛手ですよ」
『心霊写真が映るっていうのが、悪い事なのかな?』
「一般の旅行客の方には悪い事ですよ。記念写真にお化けが写りこむなんて」
『喜んで貰えると思ったんだよ、きっと』
心霊写真騒ぎ。その犯人達はこの駅舎に訪れる妖怪達の仕業。そんな突拍子も無い話信じられないですよね。わたしもそうでした。
でも、実際にここにいて、話している。
信じざるを得ません・・・。
『さぁ、今日も働くといいよ』
「全く・・・。」
妖怪がいて、人もいる。
非日常が日常のわたしの日誌。
「・・・今日も一日、いい日でありますように。」
ここは陽光温泉。人と、妖怪が観光に来る不思議な温泉街。この話はそんなわたしのちょっと不思議な日常です。