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非殺の剣  作者: じゅんき
3/5

村の惨事

 二人は男達の乗っていた馬に跨りラッカ村へと駆ける。エミリーは乗馬ができないのでビリーの背に掴まる。


「こんな時に言うのもなんだけどさ。」

「なんですか?」

「女性と一緒に馬に乗るのは人生で初めてだ。」

「どうかお気遣いなどなさいませんよう」


会話が続かないもどかしさにもやもやしながらビリーは尋ねる。


「村で何があったか聞いてもいいかな?」

「あれは昨日の朝のことでしたわ」


 ラッカ村

 主な産業は牧畜と小麦の栽培。これといった特産のない、自然の広がる風光明媚と言えば聞こえがいいが自然と古い家屋しかない集落である。集落を取り囲むよう木による防柵が施されている都合上出入り口は一つしかない。


 「今日もいい天気だ。こういう日はいいことがあるもんだ。」

 「そうだな雲ひとつないいい天気だ。」


 村人達が農具を手に入口に差しかかった時である。


 「あれはなんだ馬か?こんな朝早くから領主様からの早馬かな。」


 先頭の馬が村人に気がつくとスピードを上げた。

 

 「違う!武器が見えるありゃ盗賊共だ。」

 「早く村長に知らせねえと大変なことになるぞ。」

 「俺達は入口の門を閉めるからお前は早くみんなに知らせてくるんだ。」

 「わ、わかった」


 村人達は入口の門を急いで閉め始める。


 「がっ!」


 ドサ

 盗賊が馬上から放った凶弾によって一人が倒れる。


 「ひいいい」

 

 倒れた男を見たもう一人の作業の手が止まる。その隙に一団が門の内側に入り込む。

 

 「お客様を見るや否や施錠しようだなんて行儀が悪いなあ。」

 

 先頭を走っていた男が槍を突き付けながらそう答えた。

 

 「まあお前らからしたら招かざる客だけどな。」

 「お命ばかりはお助けを。」

 「それはお前次第だ。」

 「俺達を村長の所に案内しな。」

 「わかりました。」

 「ちょっと待った!」


 ここでようやく村側も迎撃態勢が整い、農具で武装した村人達が侵入者を包囲する。

 

 「これは大層な歓迎のされ方だな。」

 「俺達を銀獅子団と知ってのこのおもてなしか?」


 村人達に動揺が走る。


 「銀獅子団ってあの最近この辺りを荒らし回ってるあの銀獅子団か?」

 「極悪非道で逆らうやつ女子どもにも容赦しないって話だぜ。」

 「噂じゃ先の戦争で名を上げた騎士団崩れだって話だが、これが流石元騎士団だけあってめっぽう強くて、今まで何度も討伐隊を派遣されたがことごとく返り討ちにしたって話だ。」

 「そんな連中で俺達だけで勝てるのか?」

 「ごちゃごちゃうるせえな。俺達を村長の所に連れていくのか連れていかないのかどっちなんだよ!」


 リーダー格の男がそう一括する。


 「お前達がノーと言っても無理やりでも行くけどな。」

 

 侵入者は余裕そうな顔で見下ろす。

 

 「どうするやっちまうか。」

 「相手はその辺の盗賊と違って戦闘のプロだぞ。」

 「なに、俺達は何度も傭兵崩れの盗賊を退けてきたんだ。」

 「それに向こうは18人とこっちは30人で包囲してるのはこっちだやっちまおう。」


 村人達はその言葉に同意した後、雑多な農具を手に一斉に侵入者に飛びかかる。

 

 「「うおおお!」」

 「やれやれ」

 

 リーダー格の男が槍を構えると突っ込んできた三人の胸を貫いた。

更に馬を前進させて間合いに入った三人を刺した。断末魔の叫びを言う前に事切れる村人達。


 「早い。」

 「全く槍が見えなかった。」


 リーダー格の動きに目が奪われているうちに、他の団員達の攻撃の前に村人たちが次々に倒れる。一方的な犠牲の前に恐怖が走る。

 「そこまで!」


 大きな声が響く。


 「お前達は私を探していたのだろう」

 「ほうお前が村長か。でもちょっと登場が遅かったみたいだな。こいつらが犬死にする必要もなかっただろうに。」


 辺りを見渡すと村人の死体が無残に転がる。


 「言っておくが先に手を出したのはそっちだ。こっちはなるべく犠牲を出さないように穏便に済ませたかったんだがね。」

 「要件はなんだ?」

 「まずは食料と金だ。村中の食糧と金をここに集めな。逆らうようだと、いらない犠牲が増えるぞ。」

 「ちょっと待ってくれ。今ある食糧を出したら領主様に納める分が無くなってしまう。」

 「領主様と銀獅子団どっちを取るんだ?」

そういうと槍の切っ先を村長に向ける。

 「わかった。みんな言うとおりにしてくれ。」

 「村長こんな連中の言うことなんか聞いていいんですか?」

 「わかってくれ。一過性の災害だと思って諦めるしかないんだ。」

 村長の家の前に続々と運び込まれる食糧。

 「おらおら、テキパキとやれ。」

 「なんだ、その顔はお前もそこに転がっているやつと同じように殺されたいか。」


 村人は不本意ながらも従うしかなかった。


「望む物は出した今すぐ我々を解放してくれ。」

「ほう、あまり期待していなかったが以外と集まるもんだな。ここに集まっている連中共よ、よく聞け今日からこの村は俺達銀獅子団の物だ。毎年収穫量の七割を納めろ。そして俺達が必要とする物を一つの滞りなく供出しろ。出来なかった逆らった時は皆殺しだ。」

「領主様に納める分でもカツカツなのに、そこに更に七割も納めたら我々は生きていけない。我々に死ねというのか。」

「それはお前達の勝手だろ。知ったことか。それに今日からお前達の主人は領主様じゃなくて俺達だ。話は以上だ、さっそく歓迎のパーティを開くとしようか。」

 

 何かの合図のように手をパンパンと叩く。


「お前達何をするつもりだ。」

「村長家を借りるぞ。長旅で俺も部下も疲れているんでね、労って欲しいな。」

「キャー!」

「離して乱暴しないで。」

「こっちに来いつってんだろ。」

「へへへっ。バッツ様女を連れてきやしたぜ。」

「酒もたんまり用意してあります。」


 村長の血の気が引いていく。そこには男達に拘束された村の若い女性達が並んでいた。そこには村長の娘の姿もあったのだ。


「この外道が!我々から食糧と金を巻き上げたばかりではなく、女を慰み物にするつもりか。」

「なんとでも言え。さあ、野郎どもお楽しみの時間だ。」


 家の前に見張りを3人置いて団員達は村長の家の中に入って行った。

 家の外に鳴り響く女の悲鳴と男達の嬌声それをただ聞いて耐えるしかない村人達。こうして長い一日は過ぎて行った。

 二日目になって死体の埋葬許可が出たくらいで、昨日と変わらず村長の家では乱痴気騒ぎが繰り広げられていた。


 「いつまでこんなことが続くんだ。」

 

 村人の間に諦めのムードが漂って抵抗する気すら失せていた。

 夜になった。

 ガーガーガーグギッギ

 団員達は連日の酒と狂乱で疲れ果てていびきをかいて寝ている。


「今がチャンスですわ。」


体中折檻されて悲鳴を上げる体に鞭打ち起き上がる。そこに近くにいたアリシアが声をかけた。


「あなたまさか逃げるの?逃げ切れると思う?見つかったらもっと酷いことをされるのよ。もしかしたら命もないかもしれない。それでも?」

「助けを呼んできますからどうか無事で。」

 

誰にも聞かれないように小声で呟いた。

 服を急いで整えると忍び足で裏口から出る幸い見張りはいなかった。そのまま駆け足で村の外に出た。領主様に助けを乞うためにエミリーは夜を通して走りだした。

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