最初の敵
かつてこの国で戦争があった。皇太子二人による王位継承をかけた戦いであったが、周辺国の介入により泥沼の一途を辿った。二人の王子が即位を宣言してから20年ついに戦争は和平という形で決着する。長い戦乱による兵士不足を補うために、両陣営が外国人による傭兵を多用した結果、国土は荒れ果てまだその戦火の傷跡が残る世界である。
どこまでも続く街道を歩く若者がいた。道の脇の畑で一服している農夫が手を振る。
「見かけない顔だが旅の人か?どこまで行く?」
若者は答える。
「この先のアトリアの街で来月武術大会があると聞いて向かっている最中です。」
「武芸者か随分遠くまで旅をするもんだな」
農夫は若者の腰に差してある剣に気づく
「若いのにいい剣を持ってるもんだ。俺も昔は剣を少し齧ってたんだ。ちょっと見せておくれ。」
腰から外して見せる。
「この鞘の銀細工はなかなかのもんだ」
「みんなは銀翼の剣と呼んでます」
「この先の道は傭兵崩れの盗賊や山賊が出るから襲われないように用心したらええ。なんせ一人旅でそんな立派な剣ぶら下げてたら襲って下さいと言ってるようなもんだ」
「その時は剣を捨てて走って逃げますよ。」
平和で長閑な日常他愛のない談笑の最中突然農夫が前に崩れ落ちる。
「大丈夫ですか!」
農夫の後頭部に矢が突き刺さってる。起き上がらせようと身を屈めた瞬間頭上でヒュンという音がした。どうやら何者かが放った第二射が、たまたま身を屈めたお陰で外れたようだ。矢の音と農夫の倒れた位置から、大体の発射地点を見つめると、30mくらい離れた先にクロスボウを構えた男三人組が立っていた。
「おいおい一人残ったぞ。先の戦争で将兵三人の首を上げたとかいう弓の名手が聞いて呆れるぜ。」
「この距離で俺が外すわけねえよ。たまたまだ。」
「どうでもいいけどさ向こうはこっちに気がついたみたいだぜ。この距離じゃ顔は見られてないと思
うが逃げられるとなかなか面倒だ。再装填の時間が勿体ない追いかけで殺すか。」
リーダー格の男がそういうと、面倒臭そうな顔をしながらも他の二人も渋々従う。
男達は各々の剣を抜刀して若者に向けて走りだした。若者は逃げないそれどころか男達に向けて走り出した。
「俺達と一戦交えようなんて命知らずがいたもんだぜ。」
「逃げる手間が省けてラッキーってもんよ。」
最初にリーダー格の男が若者に上段から切りかかる。それを右に回避しながら後ろを取る、後ろにいたクロスボウ使いが慌てて剣を横に払おうとするが、それよりも早く間合いに入り拳を固めたジャブで顎を撃ち抜く。
瞬く間に崩れ落ちたクロスボウ使いを見て男達に戦慄が走り動きが止まる。
若者が倒れた男か剣を拾うと同時にやや間合いを取って構える。
男達も体勢を整えて剣を構え直す。
「少しはやるようだな兄ちゃんよ。だがその蛮勇が命取りだぜ。」
リーダー格の男はそう言うともう一人にアイサインを送る。
「その若さで命を落とすとはなあ…」
話の途中で二人同時に動いた。二方向から同時の突き二人は取ったと思った、その刹那4つの足首が中を舞い膝をついた。
若者が屈んで突きを交わした後、二人の足首を切断したのだった。
何をされたか理解した男達は、痛みにもがきながのたうち回る。
若者はそれを少し眺め、男達の衣服を破いて布で止血を施し縛りつけ、男達の有り金を懐に入れた。
「てめぇこんなことしでかしてどうなるかわかってんのか、俺達銀獅子団を敵に回してこの生きて帰れると思うなよ。お前の面は絶対に忘れないからな。」
若者は男達の声を無視してまた街道を歩きだした。
それから数時間後、なんとか陽が暮れる前になんとか次の宿場町の入り口に辿り着いた。
すかさず町の入り口の呼び込みがやってきて
「お兄さん旅の人かい今日はうちで泊らない?今決めたら一泊銀貨3枚でいいよ」
正直ベッドの上で寝れればどこでも良かったので深く考えずに了承する。
「宿の台帳に名前を記帳してくれ煩わしいだろうがこれも国が決めた決まりなんでね」
若者はペンで‘’ビリー‘’と記帳した。
「ビリーさん今晩はよろしく。部屋は203号室ニ階の階段上がってすぐの部屋だ。」
「ふう今日は疲れたな。」
荷物を置いてさっそくベッドに倒れ込んで呟いた。
(農家のおじさん気の毒に死体はあのまま放置したままで良かったんだろうか。やつら銀獅子団とか言ったか、ただのゴロツキだと思うが一応明日街で、どんな集団なのか聞いてみるとするか。いろいろ考えても仕方ないから今日は寝るか。)
翌日まだ外が薄暗い時間に目を覚ます。身支度を済ませてチェックアウトを済まそうと階段に向かうと何やら騒がしい。身を隠して様子を伺う。
使い古した汚い雑多な鎧を着込んだ集団とフロントが何やら揉めているようだ。
数は12人一人は顔に包帯を巻いている。
「おい!昨日身長170cmくらいで黒髪のガキが泊りにこなかったか?」
「お客さま他のお客さまの迷惑になりますから。それに国の法律で宿泊者を教えることは禁止されてます。」
「うるせえ」
スキンヘッドのひと際大きい男がフロントの胸倉を掴みナイフを首に突き付ける。
「こっちも急いでるんだ手間を取らせないで貰おうか。」
次の瞬間ナイフを下から振りあげる。フロントの顔に一本の縦線が入った。
「あああぁぁ」
血が床に垂れ顔を押える。
(こいつら昨日やっつけた奴らの仲間か。あの怪我でもう追いついたのか。)
「言うこと言えば本当はこんなことしたくないんだけどな。」
更に追撃をしようとした瞬間
「ぎゃあっ!」
「痛え!」
「なんだあ!」
ビリーの投げたナイフが一味の二人の太ももを後ろから深く刺ささる。
「おい!お前らその人は関係ないだろ。」
大声を張り上げて注意をこちらに逸らす。
「あいつだ。あいつが昨日俺達をこんな目に合わせたやつだ。」
顎に包帯を巻いた昨日のクロスボウ使いが吠える。
「ほうこいつは幸先いいな一軒目からビンゴだ。俺としてもルールを破って縄張りの外で、乱取りして負けたこいつらのケツなんか持ちたくなんだが銀獅子団の面子に関わるんでね。おい、お前こいつをどういう目に合わせたい。」
「殺すお前だけは絶対に殺す。」
「怒りで聞いちゃいねえか。お前らやっちまいな」
階段を駆け上がってきた団員をすれ違い様に二人膝を切る。
「ぎゃあ」
階段を降りながら襲いかかる団員の足を次々に切り刻んでいった。
「うわぁ」
「痛い血が…」
ビリーが1Fに降りフロントに辿りつく間に5人が戦闘不能に追いやられ阿鼻叫喚と化している。
「化け物かよ」
「マジかよ」
ビリーは団員の間に戸惑いが生まれた隙を見逃さなかった。近くにいた3人の足を剣で貫き瞬く間に切り伏せる。ビリーは相手の戦闘能力を奪う上で足を攻撃するのがいいと経験則で知っていた。残りは昨日のクロスボウ使いとスキンヘッドの男だけになった。
「死ねえ!」
大声を張り上げてクロスボウ使いが大きく振りかぶるその剣を上に弾いて右腕を切り落とす。
「俺の腕が、右腕が。」
「うるせえよ!お前!」
スキンヘッドの男が斧で首を跳ねた。
「こんな使えねえやつ仲間でもなんでもねえ。そもそも俺はこいつらの尻ぬぐいするのも嫌だったんだよ。」
一通り言うと斧をビリーに向ける。
「行くぞ」
右足を大きく踏み込んで全力の斬撃をビリーに叩きつける。その必殺の一撃を横に回避したビリーは剣を横一線し両目を切り裂いた。
「ぎゃあ」
視力を奪われたスキンヘッドの男はただただ絶叫するばかりである。
ビリーはフロントに一礼をした後宿を後にした。