第8話 異世界でのお買い物
いよいよ町でのお買い物です。
元の世界と同じものがないか、期待がふくらみます。
今、私たち姉弟とシーリスさんは、村長さんのところへ馬車と馬を預けに行ったビリーさんと合流し、すぐ近くのリッタの町へと歩いています。
メイドの二人、リアナさんとカレンさんに建物内の清掃や室内の準備を任せて、ようやく念願のお買い物に出かけることができました。
リッタの町は、ラルフ村の南の出入り口から徒歩5分、私達が住む別邸からだと徒歩15分といったところでしょうか。
「ミユ様。マリク様から生活費を多めに頂いてはいますが、無駄遣いは禁物ですよ」
……とシーリスさんに言われてハッとしました。
(そうでした! こちらの世界のお金について、今まで全く考えたことがありませんでした……)
「え~と……シーリスさん。こちらのお金について教えてくれませんか?」
「あっ! 僕もわからないので一緒に聞きたいです」
優斗も町についたらシーリスさんと一緒に武器屋に行き、訓練用の剣と防具を選ぶことになっているので、値段のことなどが気になるのでしょう。
「はい了解しました。では、硬貨の種類など基本的なことをお教えしますね。私は騎士なので生活用品や食材などの相場などはわかりませんので、別邸に帰ってからリアナかカレンに聞いてください」
◇◇◇◇◇◇
シーリスさんから教えてもらったことをまとめると以下のとおり…
硬貨は全部で8種類あって、一番価値の低い硬貨は「角銅貨」。これ1枚で子供の一番安いお菓子が買えるとのことなので、私達の世界では10円の価値といったところだと思う。
そこから考えて、
硬貨一枚当たりを現代の日本円に換算すると……こんな感じかな?
角銅貨 10円(十円)
丸銅貨 100円(百円)
角銀貨 1,000円(千円)
丸銀貨 10,000円(一万円)
角金貨 100,000円(十万円)
丸金貨 1,000,000円(百万円)
角白金貨 10,000,000円(一千万円)
丸白金貨 100,000,000円(一億円)
名前のとおり硬貨には“四角い形”と“丸い形”の2種類があって、どちらも紐をとおして持ち運びができるように真ん中に穴が開いているとのこと。角白金貨と丸白金貨は一般庶民では生涯を通じて目にすることができない硬貨なのだそうです。
「マリクさんから頂いているという生活費はどれくらいなのですか?」
「私達6名分ということで、丸金貨2枚を一カ月分として渡されています」
(………2百万円!!!!)
「ちょ……ちょっと多くないですか?」
「口止め料も込みだそうです」
(…………………あ~うん。……そんなことだと思いました)
◇◇◇◇◇◇
リッタの町に着いた私達は、二手に分かれて買い物を始めました。
優斗とシーリスさんは予定通り訓練用の装備を買いに武器屋へ向かい、私とビリーさんは食材と調理道具を購入してから、調味料や日用品の調査をする流れです。
(……というわけで、異世界でのお買い物へレッツゴー!!)
私のテンションが上がっているのは、このお買い物で“元の世界”と同じようなものがたくさん見つかれば、料理など色々と再現できて、優斗に「おねえちゃんすごい!ありがとう!!」って言ってもらえる可能性がとても高いからです。テンションが上がらないはずがありません。
「ミユ様。先ほどから顔がにやけていますが……」
「うん。大丈夫! ときどきなるから気にしないで!」
ビリーさんからの指摘を軽く流して、さっそくお買い物を始めました。
◇◇◇◇◇◇
まずは食材---
野菜とイモ類については、元の世界と同様な食材があるみたいで安心しました。
お肉についてもカダイン伯爵邸で食べた牛肉のような『タウ肉』のほかに、豚肉のような『ブヒブヒ肉』、鶏肉のような『パタパタ肉』があってこちらも問題なさそうです。
残念ながら魚については、カダイン領が内陸ということもあり、見つけることはできませんでした。ちなみに豚肉と鶏肉のネーミングが面白いのは、この世界の人が動物の特長から名付けたからとのことです。タウ肉のほうは異世界人がつけた名前とのことです。
ラルフ村を出る際に、リアナさんとカレンさんも村内で食材をいくつか購入しておくと言っていたので、あまりビリーさんの負担にならないように、ここでは野菜と肉を少しづつ購入してみました。
「護衛に荷物持ちをさせるのは、ミユ様くらいですよ……いざという時、どうするのですか?」
……とビリーさんが愚痴を言っていますが、軽やかにスルーしておきます。私が襲われる心配はないし、まして優斗以外の男性を私は甘やかさないのです! この世界は身分が全てに優先されるみたいですが、レディーファーストを少しずつ導入してもいいですよね。うん、たぶん大丈夫。
次に私達が向かったのは道具屋でしたが、こちらは残念ながら欲しかった調理器具はほとんど見つかりませんでした。
泡だて器や、蒸し器はもちろん、お箸や菜箸、フライ返しも無し。しかたがないので、使いやすそうな包丁や小型ナイフ、ボウル、鍋を大きさを変えて3つ購入しました。お箸については手ごろな木をみつけて自作してもいいですよね。
「ミユ様。これから暑くなる季節がやってきますので、この氷を作る魔法具などいかがです? コップに一つ大きめの氷を作って入れるだけで美味しくて涼しくなれますよ」
珍しくビリーさんが推薦してきたので、それも1台購入しました。
(シロップの代わりになるものが手に入ったら、優斗にかき氷も食べさせてあげられるわ!)
と、また一つ目標をみつけて気合が入った私の視界に、一軒の駄菓子屋みたいな外見のお店が入りました。
「ビリーさん……。あのお店は何ですか?」
「えっと、あれは薬屋ですよ。私達騎士や貴族は、治癒の魔法が使える者に直してもらいますので、薬屋は一般庶民用ですね。一般庶民でも商人のようにお金があれば魔法使いを呼べるので薬は必要ありません」
(なるほど……医学の知識は素人だけど、念のためにどんな薬があるか確認は必要よね……)
というわけで、ビリーさんと二人で薬屋へと入っていきました。
「いらっしゃい! 何をお探しで?」
愛想のよい中年の男性店主が声をかけてきました。
私はとりあえず、よく売れているという薬をいくつか見せてもらうことにしました。
「これは、疲れているときに水に溶かして飲む粉薬です。こちらは喉が痛いときに同じように水に溶かして喉を洗うための粉薬、これは気付け薬と、身体が冷えたときに効果が高い気付け薬……売れ筋商品はこの4種類でしょうか」
店主から見せてもらった4種類の薬を見て驚きました。
「……これって、砂糖!!」
思わず大きな声が出てしまいましたが間違いありません。茶色く濁った色をしていますが、味見をしてみて確信できました。2番目は塩、3番目はコショウ、4番目は唐辛子です。どんどん上がっていく私のテンションにビリーさんは完全に引いていますが、他にも何かないかと次々と私は調べていきました……。
◇◇◇◇◇◇
……う~ん、残念です。結局、見た目と味で確信が持てたのは、他に“シナモン”だけでした。全種類を購入して別邸であれこれと試してみれば、粉の種類がわかりそうなものもあるのですが、後ろで様子を見ているビリーさんが「……まだ買うのですか?」って明らかに嫌そうな顔をしているので、判明した5種類だけ多めに購入することにしました。
そしてこれもビリーさんに嫌がられましたが、道具屋にもう一度立ち寄って「鉛筆」と「紙」を購入。お店で探しているものを口で説明してもなかなか伝わらなくて……。道具や原材料の姿をスケッチして見せたらどうかしら? と思ったのです。
(さて、とりあえず今日はこんなものかしら……)
ビリーさんに買い物の終了を伝え、優斗達と合流することにしましたが、恥ずかしながら私はどうしようもない生理現象に襲われてしまいました。
「えっと……ビリーさん。“お手洗い”ってこの町にありますか?」
「はい? ……あ、あぁ“化粧部屋”ですね。あちらの建物の裏手に確かあったと思いますよ……」
「ありがとう。ちょっと行ってきますね……」
どうやらトイレのことは、こちらでは“化粧部屋”というみたいです。カダイン伯爵邸のメイドさんには“お手洗い”や“トイレ”で通じたのですが、もしかしたら私が無意識に行った“身振り手振り”で判断してくれたのかもしれません。
ちなみに、男性の場合は“着替え部屋”というそうです。
私は、たくさんの荷物を持っているビリーさんを置き去りに、小走りで“公衆トイレ”ならぬ“公衆の化粧部屋”へと向かったのでした。
◇◇◇◇◇◇
そんな時、優斗とシーリスさんは、3人のならず者に絡まれていました……
「おい! そこのネェちゃんにボウズ……ずいぶんと金を持っているみたいだな」
「俺たちに置いていけば、痛い目に合わずに済むぜ!」
「ほら! 早くしな!!」
そんな男たちのセリフに臆することなく、シーリスさんは
「あら、あなた達ちょうど良かったです。そろそろ私の凄いところをユウト様にアピールしたいと思っていたのです」
「シ、シーリスさん?」
「大丈夫です。ユウト様……少し下がって見ていてくださいね! 私の雄姿を!!」
シーリスさんが腰のレイピアに手をかけ、一歩一歩前に進んで行きました……
次回は、シーリスさんと優斗の買い物風景。
そして、シーリスさんの活躍が見られるかも…。
お姉ちゃんの活躍もあるのでしょうか?