第7話 魔力量チート?
ラルフ村のカダイン伯爵邸の「別邸」につきました。
町に買い物に行く前に邸内を見て回ります。
「えっと…すみません。リアナさん……別邸ですよね?」
「はい。別邸です」
馬鹿みたいにアングリと口を開けている私と優斗の目の前にあったのは、木造平屋建ての年季の入った建物でした。昨夜宿泊したカダイン伯爵邸のラルフ村『別邸』ということで、豪華な別荘のような建物を想像していた私達にとっては、かなりの衝撃でした…。
「こちらは、前領主……亡くなられたマリク様のお父様が若い頃に狩りの途中に立ち寄るために作られた狩猟小屋……ではなくて! ……休憩所と言ったところでしょうか」
リアナさんが、私達の反応を見て申し訳なさそうに説明をしてくれた。
(……くぅ~~っ また変態魔術師に騙されたよぉ……)
私達が勝手に想像していただけなのですが、脳裏にマリクさんのニヤリと笑う姿がちらついて何だか悔しくなってしまいました。
「ユ、ユウト様!! ミユ様も!! 外見はともかく、中は部屋数もありますし、魔法具を使った設備も揃っていて生活するのに不便はないと思いますよ!」
カレンさんが慌てた様子で、早く中に入るように促すので、私達は気を取り直して建物の中に入ってみることにした。ビリーさんは馬車と馬を村長の家に預けに行くとのことで別行動となりました。
(あれ? 中は快適そうかも?)
建物内は、食堂兼リビングと、宿泊できる部屋が3室、書斎が1室、あとはキッチンとトイレ、そしてバスタブのようなものが置いてある部屋があります。その他には倉庫や物入れなどが所々にあるみたい。
「ゆ、優斗!! お風呂だよ! お風呂に入れるよ!!」
バスタブの存在に嬉しくなって優斗に声をかけましたが、
「ミユ様……すみません。それは、ただの水溜めです。裏の井戸から水を汲んできて溜めておきまして、食材を洗ったり、食器を洗ったりするのに使うのです。桶に水を汲んで髪を洗ったり、体を拭いたりもできますが……」
リアナさんがまたも申し訳なさそうに説明してくれました。
しかし、私のお風呂への熱意は冷めはしないのです!
「えっと、水を出す魔法具のように、お湯を出す魔法具ってありませんか?」
「はい、あります。冬の寒い時期、食器を洗うのが辛いので桶に汲んだ冷水にお湯を入れて温くするために使うものですけど……少々お待ちください。その魔法具をお持ちしますね」
(よし! グッド!! 私はともかく、優斗にはいつもキレイでいてほしい……町では身体を洗うものも探さないとね)
◇◇◇◇◇◇
しばらくしてリアナさんが持ってきてくれたのは、少し大きい急須のような魔法具でした。急須の中に水色の宝石が、口の部分には大きい赤色の宝石がついています。
「魔力を流すと水が出て、その水が先端の赤い火の魔法具で温められるんです!」
カレンさんが力説してくれましたが、私も優斗も簡単に予測できていました。
ごめんなさい……。
さっそくリアナさんから魔法具を受け取ると、まだ空の水溜めの中に向けてお湯を勢いよく出してみます。
「ザァ――――――――――――――――――ッ!!」
蛇口から勢いよく水が出るように、魔法具の口からお湯が水溜めの中に流れ落ちていきます。トイレの魔法具を使う時のように力加減しないで入れられるのが心地よいです。
(おぉっ……すごい!! これならお風呂入れるよね。ヤッター!!)
そんな風に喜んで、どんどんお湯を注いでいると、周りから悲鳴のような声でストップがかかりました。
「ミ、ミユ様!! 止めてください!!!」
「危険です!!!!!」
「早く魔力を抑えてぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!」
リアナさんも、カレンさんも、そして少し離れたところで優斗と会話をしていたシーリスさんまでが、大声をあげて走りよってきました。
(………どうしたの??)
「……えっと。わ、私……なにか大変なこと……した??」
魔法具に魔力を流すのを止めて三人に問いかけると、シーリスさんが驚いた顔をして確認してきました。リアナさんもカレンさんも恐ろしい目をして私を見つめています。
「ミユ様……大丈夫ですか? あんなに大量に魔力を消費して、『頭が割れるように痛い』とか、『気持ちが悪い』とか、『意識が遠のく』とか……」
「……べつに……なんともないけれど」
「はい?」
「えっ?」
「うそ!!」
三人が私を“化け物”を見るような目で凝視してきました。
おそらく水溜めが一杯になるまで、このペースでお湯を注いでいけると思うのですが、さすがにこの痛い視線を受け続けるのは厳しいので、今は止めておきます。
魔力について三人に話を聞いてみると、魔力量は個人差が大きいとのことですが、一般の人にとっては生活補助の魔法具を一日数回使用するくらいが限界とのことでした。
騎士や魔術師、貴族などで魔力量が豊富な人でも、『魔法』など瞬間的に魔力を大量消費することはあっても、私がしたように“継続的”に魔力を大量消費するのは通常は身体の消耗が激しくて下手すると命にかかわることもあるとのこと。
(……う~ん。そんなに大変なことには感じなかったけれど……)
……と説教じみた魔力の説明を聞きながら考えていると、
後ろのほうから優斗の呼ぶ声が聞こえてきました。
「おねぇちゃん! 僕も平気みたいだよ!!」
ビックリして優斗のほうを見ると、お湯の出る魔法具を手にしていて、魔法具の口からは私がしたのと同じように勢いよくお湯が水溜めに流れ落ちています。
「きゃぁぁぁぁ!!!」
「ユウト様ぁぁぁぁぁぁぁ!!」
「止めてくださいぃぃぃぃ!!!」
またも三人の大合唱が建物内に響き渡りましたが、優斗も私同様になんともない涼しい顔をしながら魔法具を扱っています。
「ユ…ユウト様……すてき…ポッ…」
「すごいです! すごすぎます!!」
「私は最初から大丈夫だと信じていました!!」
むぅ……私も少しは誉めてほしい……と思ったものの、特に何を頑張ったというわけでもないので、あまり凄いという実感はありません。優斗もそんな様子です。
「ユウト様……そしてミユ様、この魔力量はすごいことですよ!
すぐにマリク様に報告して魔法について指導してもらいましょう!!」
「ユウト様! 剣術の才能だけでなく、魔法の才能もなんて……。
マリク様もレイシア様もきっとお喜びになりますよ!!」
カレンさんとシーリスさんが嬉々として勧めてきましたが、
私も優斗も――――
「………えっと。遠慮します」
「……僕も、いいかな……」
「はい?」
「えっ?」
二人とも私たちの発言を“信じられない”といった様子で固まっています。
リアナさんだけは冷静みたいで、
「ユウト様、ミユ様……。大魔術師のマリク様に教われるのですよ?」
……と聞き返してきましたが、私たちの答えは再び同じものでした。
「「マリクさん(変態)だからです」」
私達は、茫然としている三人をその場に残して、まだ足を運んでいない建物内を見て回り、この後の町での買い物で購入したいものなどをあれこれとリストアップしたのでした。
魔力量について素質があるらしい二人ですが、
どうしてもマリクさんに習う気にはなれません…
そんなことより、異世界で生活必需品が揃うかどうかが気になるお姉ちゃんです。