三兄弟
「いや…生卵はチョッと苦手なんだ。」
「そうか…剛くんは生卵が苦手なんだ?
仕方が無いなぁ…
残りは、薬屋に持っていくか?」
僕に話し掛けているわけでもなく、自分に問い掛ける様に呟く龍太郎…
「剛くん朝飯は昨日の残りで良い?今温めて来るから少し待っててね?」
しまった!米の見当たらない粥に卵を一つ落とせば幾分食事らしくなるのに…
苦手たと言い切った後で、今更卵を一つ粥の中に落としてくれなんて今更言えない。
「本当に、卵が苦手なの?剛くん?」
ナイス!
龍太郎!ナイスな質問!
「だったら、折角だから粥に卵を一つ落として温めなおしてくれるかな?」
「構わないけど、ヤッパリ卵は生が一番精が付くんだけど、剛くんが俺の家の卵を食べてくれるんなら…」
龍太郎はかまどに火をおこし、鍋を乗せて卵を一つ落として蓋をしめた。
お陰で、多少なりとも腹は膨らみ、脳味噌に糖分が回り、今この状況に置かれた僕の立ち位置を理解出来そうな気がした。
後片付けを済まし、炭に灰を被せ火の始末をして、龍太郎と家の外へ出た。
外に出てみると、回りを木々に囲まれた山の中に龍太郎の小さなあばら家はポツンと、建っていた。
「剛くんあれが龍神沼だよ。」
そう言えば、龍太郎は龍神沼の龍太郎と名乗った。
まさか?龍神が住むはずも無いとは思うけど
その沼は、満面と水を湛え透き通った水面の下は
深々と吸い込まれそうな程に深い緑色をしていた。
「龍太郎?まさか?本当に龍神住むはずなんてことは無いよね?」
「いんや…この沼には確かに龍神さまが住うておられる。」
僕は、ただ単に龍太郎って信心深いんだなぁとしかおもわなかった。
「剛くん…神様って有り難くもあるけど、怖くもある。
ひとたび、神の怒りを買ってしまったら、村の一つや二つ消し飛んでしまう。
そのかわり、きちんとおまつりをすれば有難い恵みも与えてくれる。
龍神様は村に枯れる事なく水を与えてくれるし
竃の神様…おくど様は、火を使う事を許してくれる。」
そんな、話をしながら山道を暫く歩いて行くと、急に開けた斜面の上に出た。
斜面の上から見下ろせるその一帯は見事に早苗が植え付けてある棚田がひろがっていた。
その棚田の側に、山沿い特有の遅い日の出を背に浴びながら、鍬を使い開墾に精を出す。
三人の男が居た。
その三人が、同時に龍太郎と僕に気付き軽く頭を下げる。
龍太郎も頭を下げて
「剛くん、あれは源太、源次、源三、家の隣の三兄弟だよ。」と、僕に教えてくれた。




