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鱗の男

僕が目覚めた時…

板間の上、しかもパチパチと爆ぜる音を立てながら小さな炎をたてている…

囲炉裏の前に寝かされていた。


僕の意識が戻った事に気付いた囲炉裏の対面に胡座をかいていた全身緑の鱗を纏う男が、身を乗り出す様に立ち上がろうとした。

「ヒッ」言葉にすらならない小さな悲鳴をあげる僕に対して鱗の男は、まるで、赤子を諭す様に、優しく…少し嬉しげな表情を口元に浮かべ


「こんな、(なり)をしているが、ちゃんとした人間だ。

初めて、俺を見る人は、あんたの様に気絶したりする。

しかし、俺は争いごとは好まない。

あんたが一瞬浮かべた…

取って喰う…そんな事は決してしない。

それより、あんたの方が異形にうつる。

まるで、見た事はないが話に聞く南蛮人の様な形をしている。


一体あんたは、何者で、何処から来たのかが知りたい。」


何者かって?木偶の坊で、非力な弱虫だけど…

兎に角、この鱗の男は、少なくとも僕に危害を加えるつもりは無いらしい。

それどころか?多少僕と同じ雰囲気を醸し出している。

「僕は、坂口剛…決して南蛮人なんかじゃ無い。

東中学校三年生…

君が南蛮人と間違えたのは、学校の制服なんだ。」


鱗の男は目を丸くして

「学校?…それよりあんたは、いや…剛くんは、名字を持ってるの?

たしか?川の下流沿いに下っていけば、坂口村があるけど、剛くん はそこの名主の人なの?」


そうか?全ての人が名字を持つのは明治維新の後の戸籍制度が確立してからだ。

少なくとも、今は明治よりも古い時代なんだ。


囲炉裏の火が爆ぜる…

それをキッカケに、鱗の男に尋ねてみた。


「ところで今はなに時代なの?」

鱗の男は、首をかしげ

「時代?今は今だよ。」

しまった。そうだ、何時代なのかは、僕らが過去の歴史を位置付ける為に便宜上そう呼ぶだけで、実際にはあまり認識されるものではない。

そこでぼくは少し頭の中を整理しようと目を伏せて黙り込む。

しかし、それを許さないかの様に


「そうだなぁ?敢えて言うなら…



乱世かなぁ」


頭の整理なんて吹きとんでしまった。


僕はつんのめる様に、鱗の男に詰め寄り


「乱世ってあの!戦国乱世?」

少し訝しげに鱗の男は、

「世が乱れて100年にはなるんだ何を今更慌てる事がある。

剛も名主の家を捨てて侍になりに村をでたんだろ?」


その言葉を慌てて打ち消す様に


「違う!僕は君と同じで争いことが嫌いなんだ。

だから暴力を生業にする侍になんかなりたくない。

出来れば人と関わらず、平穏に暮らしたい…

与えられた人生を全うしたいんだ。」


「そうか?剛くん…俺と気が合うな…困った事があったら言ってくれ…

俺の名前は龍神沼の龍太郎…」と

深々と頭を下げた。

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