道すがら
和尚にも期待を裏切られた僕は必然的に、照ちゃんへと視線をもどした。
待ってましたとばかりに
「剛…和尚も龍太郎も流石に、この話には付いて来れんだろう。
お前が救世主かどうかの話しの内容以前に色々と話さなければならん事が、沢山ある。
その為にも剛…お前には小隈の屋敷に来てもらわんといかん。」と、僕の視線を外しながらこんどは煌姫に視線を向け
「姫…そんな次第ですので今日はこのまま屋敷へ帰りましょう。」
煌姫は多少不満げな表情を浮かべたが
「姫…幼子達の野良仕事を手伝う事よりも重大な事態が差し迫っておる事を肝に命じておかねば
折角の救世主とて万全では無くなるのです。」と、諭され諦め切れない表情のまま
「仕方が有りません。剛さんに屋敷へ来て頂いて
今の状況…そして、これからこの村に起こりうる事態に対しての対策を評定しなければなりませんね」
そう言った煌姫の表情は、既にこの村の領主たる顔に変わっていた。
そしてきびすを返して屋敷への道に足を踏み出そうとした時
「幸右衛門…今の会話を聞く限り…主はこれから、この村に起こる事が分かっている様に聞こえるが?」
「和尚…その様に申したのだが…
流石の和尚でも一朝一夕には理解が出来ん話だ…
あまり口を挟まないと言うのならば龍太郎と二人屋敷に来ると良い。
姫…それで構いませんな?」
姫はそれを承諾したが龍太郎の様子がおかしい。
何やらブツブツと、
「穢れた俺の体が姫様のお屋敷に足を踏み入れるなんてお屋敷までも穢してしまう。」と、オロオロしている。
「龍太郎…心配は要らないよ。僕もある意味穢れに近い…
だけど、呼ばれたからには大事な役目を授かるかも知れない。龍太郎勇気を出そうよ。」
「そう剛君が言ってくれるなら俺も行ってみたい。」
「話はまとまった様だな?では…姫…
屋敷に帰りましょう。」と、街道を南に歩き出した。
屋敷へは小隈村の中心を通る街道を南に向けて歩いて行く。
この道は先程、龍太郎の家から来た道を戻る事になる。
この時代…この世界の街道には僕らの世界の様に商店や民家は並んで無い。左には小高い里山が源太、源次、源三が開墾をしている筈であろう山へと続く。
そして…その山は高い尾根を連ね村の端を舐める様に西から南へと伸びている。
僕らの目指す小隈の館は、村の中心よりも1キロ程歩いた左側の里山の頂上に鎮座していた。
館が見えてくると、
「剛…俺が幸右衛門と呼ばれている事にあまり疑問を感じないみたいだな?」
そう…言われれば何故照ちゃんはこの世界では…
幸右衛門と名乗り…また、幸右衛門と呼ばれるのか?
照ちゃんとの再会のあまり…
疑問にすら感じなかった自分の木偶の坊ぶりには嫌気がさして来る。
右手に田圃が一面に広がり、その田圃の中に藁葺きの屋根がポツリポツリと見え始めたころ。
「俺の名前はこの世界では…恐れ多いんだと
照幸の照は天照大神の照だ流石にそれは、マズイと和尚に言われ照幸の幸の 方から一字を取り幸右衛門と名乗る事にした。」
「それで…照ちゃんは納得出来たの?」
「納得行くも行かないも受け入れざるを得なかった。
なんせ、1人の知り合いさえ居なかったからな。
しかし…10年も経つんだ、剛も俺の事を幸右衛門と呼んでくれ。
でないと周りが混乱する。」
「ヤッパリ照…幸右衛門ちゃんでもこの世界には戸惑った?」
「当たり前だ。あの鋼管が空を埋め尽くす様に降って来た時、咄嗟にお前を庇ったが…俺は正直大怪我をする…
そう覚悟はして居た。
だが…かすり傷一つ負わず…ポツンと長閑な田園風景の中に立って居た。」
「それは、僕も一緒だよ。
呼べど叫べど照…幸右衛門ちゃんは、見当たらない。
途方に暮れて居た時龍太郎に声を掛けられた。
でも…気を失ってしまったけどね。」と、苦笑いで龍太郎を見ると恥ずかしそうに頭をかいていた。
「そうか…龍太郎手数を掛けたな。
剛が世話になった。俺からも礼を言う。」
そして…幸右衛門…幸ちゃんは自分がこの世界に飛ばされた頃の事を話し始めた。




