救世主?
煌姫と照ちゃんが、僕の話をして居た?
照ちゃんが、離れ離れになった僕を懐かしみ煌姫に語り聞かせたのは理解も出来る。
だけど…間違いなく照ちゃんの口から煌姫に語り聞かせた内容は火を見るよりあきらかだ。
僕は雨にもヘコタレ、風に心を折られ、夏の暑さや、冬の寒さなんかにも…いとも簡単に弱音を吐く。
誰もが認める木偶の坊…
そんな、僕の話を聞いたとて煌姫が、興味を…
況してや記憶をしていてくれる筈がない。
なのに…煌姫の口から続いて出て来た言葉に僕は愕然とした。
「あなたが常々幸右衛門が語り聞かせてくれた
この村の救世主となりうる資質を持つ…
坂口剛さんですね?」
この言葉には、和尚も龍太郎も声を裏返し…
「救世主ぅ〜」と、驚く。
そりゃ驚きもする筈だ。
当の本人なんて目の前が真っ暗に、闇の底に堕ちると言うか…引き摺り込まれて行く感覚に襲われているんだから。
そんな僕らを他所に、照ちゃんは深々とウンウン…頷いている。
照ちゃん!何を血迷ってるの?
僕らの居た世界にも、飛ばされて来たこの世界にも
木偶の坊の需要なんて…
微塵も存在しない。なのに…煌姫は僕の手をとり…
「剛さん…この小隈村の住人を…未来を宜しくお願い致します。」
と、僕の手をとり…握りしめた。
宜しくお願い致しますっていわれても、具体的な依頼を聞かなきゃ何もわからない。
例え…具体的な依頼をされても僕には力になれそうもない。
だって…僕は、筋金入りの木偶の坊だから。
照ちゃんは、腕を組み未だウンウンと頷いている。
だから僕は振り返り龍太郎に助けを求める様に視線を移した。
龍太郎はキラキラとその濁りの無い瞳を輝かせ
「そうか?剛くんは、この村の救世主なんだ。
どうりで…何処か普通の人とは違う何かがあるな?とは、思っていたんだ。」と、
その巨体で今にも僕の、このか細く華奢な体に飛びつこうとしている。
待て!龍太郎!何処か普通の人とは違うってそれは、服装が
違うからだろう!
僕は、すかさず龍太郎の助けは諦め…和尚に助けの視線を向けた。
和尚は先ずは僕に飛びかかりそうな龍太郎を
「こら!龍太郎!迂闊に人にしがみつくもんでない!
お前がしがみつけば、救世主の剛の体がポキンと折れてしまう。」
そう機先を制された龍太郎はシュンと大人しくなりキラキラと輝かせていた瞳を寂しそうに伏せた。
「しかし…ワシには、剛が救世主とは、チイッと納得がいかんのじゃか?
幸右衛門の言う事なら間違いは無いんじゃろうが?」
和尚!お前もか?
僕はブルータスに裏切られたシーザーの気持ちが少し理解出来た気がした。




