表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
12/22

鬼姫様

「姫様ぁ!」

幼き労働者達は手にした鍬を放り投げ…


一斉に煌姫へと走りだした。


「こっ!これ!汚れた手で姫様に触れてはならん!」

専正寺の和尚が、慌てふためいて止めようとするが

そんな、静止の声等耳に入らないのか?

御構い無しに煌姫に飛びつくように駆け寄る。


龍太郎といえば、地面に膝をつき…

頭を地面に擦り付ける様に下げている。

煌姫の着物は、時代劇や映画の様な煌びやかな着物では無く、目立たない色合いの質素な着物ではあったが

それを補って余りある気品が漂う。


飛び付く様に纏わりつく子供達を見つめるその眼差しを僕は見た事がある。

江戸の時代、隠れキリシタン達は観音様に赤子を抱かせてマリア信仰を隠し通したという。


いつしか幕末を迎え維新のあとも彼らは、観音様に赤子を抱かせたマリア信仰を頑なに信じたという。


コレが慈母観音信仰につながる。

かれら隠れキリシタン達は、慈母観音像を本尊として

僕らの時代にも、それは脈々とうけつがれていた。


煌姫の眼差し…子供への手の差し伸べ方…全てが慈母観音とダブって見える。

嗚呼…こんな仏の化身の様な人がこの世界には存在するんだ…

優しい光で包み込む様な存在でこの小隈村を牽引して居るのがよくわかる。


そんな時…一人の幼き少年が

「ねぇ…鬼姫様…侍達はオイラ達が耕した畑で採れた作物を横取りしに来たりしないよね?」


慌てて和尚と龍太郎がその幼き少年を煌姫から引き剥がす。

和尚が

「姫様をその名で呼んではならん」と叱りつけた。

龍太郎もすわっと立ち上がりかけたが


「和尚様…龍太郎…良いのです。

私は本当に、鬼姫と呼ばれても仕方の無いおんなです。」


「しかし…あれは、貴女の本意ではなかった筈…」

和尚の問い掛けに煌姫は慈母観音の化身の様な表情を少し曇らせ

「しかし…逆上したのも、これまた事実。」


「いや、あの場であの状況では、拙僧といえど取り乱すのは、必定…

あれは、戦国乱世が呼び込んだ悲劇…避けよう事など出来様も無い事だったのです。」


和尚は子供達に、目線を合わせ

「決してこれからは、姫を煌姫様以外の名で呼ぶでないぞ。」と、子供達の

頭を撫でで優しく諭した。


「ところで何用で、村に降りて来られた?」


煌姫は、今までの表情を弾ける様な笑顔に変えて


「私も畑仕事を手伝いたくて」

すると.…今まで顔を伏せていた龍太郎が

「それだけはなんねぇ!姫様は泥なんかに塗れてはいけねぇ!

ならば、おれが三人分も四人分も働く!

絶対に姫様は泥なんかに塗れてはなんねぇ…」

段々と尻すぼみになって行く龍太郎の願いが終わるか終わらぬ内に煌姫は慈母観音像眼差しを龍太郎に向けながら歩み寄り龍太郎の鱗に覆われた右の手を両手で握りしめた。


「姫様なんねぇ.…俺みたいな穢れた者に触れてはなんねぇ」

と、手を引き抜こうとするが、煌姫はそれを許さない。


龍太郎は怯える様に

「姫様が穢れてしまう」と、ただか細い声で繰り返すだけだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ