戦災孤児
鍬を振るう幼き労働者達の姿を見て、僕は思わず声を上げた。
「この世界は幼き子供にも労働をさせるのか?」
しかし、そのか細い叫びを耳にして、幼き労働者達の顔が一斉にこちらを向く。
その顔には悲壮感などは微塵もなかった。
むしろ、労働の喜びに満ちた満足感が漂う。
何故だ?この幼き労働者たちは?
何故?労働に喜びを感じる?
本来なら父親や母親の膝に乗せられて
家族の団欒を享受すべきものなのに?
そんな僕の後ろに、先ほど別れた筈の龍太郎と専正寺の和尚が立っていた。
「剛くん、あの子らのお父さんやお母さんたちは、戦に巻き込まれて侍に殺されたんだ。
本来なら食べる物も着るものも無く…物もらいをしながら生きて行かねばなんねぇ運命なんだ。
しかし…猫の額程の土地を小隈のお姫様は貸してくれる。
しかも…無償で貸してくれる。
寝る場所は橋の下なんぞじゃ無く和尚が本堂をかしてくれる。
本来ならば、野垂れ死ぬ運命を救われ、耕した畑で採れた作物は全てあの子らのものだ。
そりゃぁ、鍬を振るう手にも力が入ろうというもんだ。」
その横で、龍太郎と変わらない程の大男である和尚が酒臭い吐息を吐きながら頷き
「全く以って人間というのは愚かな事を好む。
あの子らには本来ならば、両親に見守られ貧しいながらも生きて行く運命の選択肢も有ったはずなのじゃ。
じゃがのう剛…
今は乱世じゃ…現にこの小隈村は二つの勢力に挟まれておる。
本来ならば、我ら小隈村は、戦況の有利な方に力を貸し…
我らの値段を吊り上げて行くのが乱世のならいじゃ
じゃがのう…我らが小隈のお姫様…煌姫様は、村を売り込んだりはしない。
剛…何故じゃと思う?」
何故と問われても…この世界でも明らかに木偶の坊な僕に答えなど出せない。
そんな僕の戸惑いなど全く気にしない生臭坊主の和尚は
「煌姫様は、どちらに手を貸そうとも
戦には死人はつきものだ。
煌姫様は、それが、耐えられないんだと嘆かれる。
戦で親を無くす子が増えるのが耐えられないんだと嘆かれる。
そこで、ワシは進言したのじゃ。
ならば…我ら小隈村の民は不戦を貫くと…
煌姫様は、その進言に賛同されてのう…
そして、ワシが二つの勢力に談判をしにいった。」
そんな…そんな事をしたら和尚は殺されてもおかしくない。
しかし…和尚は現にここに居る。
一体どんな手を使ったんだ?
僕が納得がいかない表情を見せると
「なんじゃ?剛…納得がいかない表情を浮かべとるのぉ?」
なぁんだ、ちゃぁんと空気が読めるじゃないか?
今まで空気が読めない人なんじゃないかと思っていたのに、もしかしたら、この和尚読めないんじゃ無くて読まないのか?
そうだとすると…
タチが悪い。
そんな事が僕の脳裏をかすめた時
「ワシが囚われたりしなかったのは、勿論ワシが徳の高い坊主だからじゃ」
等と酒臭い吐息を吐きながらガハハと笑う。
「勿論それもあるが…ワシが龍太郎を連れていったからじゃ」
そりゃぁ、鱗に覆われた龍太郎と共に談判にこられれば相手も無下には出来ないだろうな?
そんな僕らの会話の中一人の幼き労働者が
「姫様だ!姫様がきんしゃった。」
と、叫んだ。




