ただ一人
「照ちゃん!!」
僕は、柄にもなく大声で叫んだが…
僕の求める最強の照ちゃんの返事は、きこえなかった。
長閑な田園風景の真ん中で
大声をあげたとしても、何らの反応もない。
辺りには民家も少ない。
だけど…叫ばずにはいられない。
「照ちゃん!!」
だけども、返事は返ってこない。
一体此処は何処なんだ。
グルリと見渡しやたら、外輪山の様に周りを囲む山の尾根が目に飛び込んでくる
あの、霞にけむる尾根を目指せば何かの新しい展開に出会えるかも知れない。
全く今、自分が置かれた状況すら解らない。
いくら木偶の坊な僕だとしても、一抹どころではない不安が全てを占める。
たとえ…長閑すぎる田園風景の中に一人置き去りになっていても、水を張り終え早苗が植え付けられた田んぼを見ても心は落ち着かない。
木偶の坊でヘナチョコ…弱虫で非力な僕のDEFCONが一から二へ引きあがる。
何故か?この場に留まっていてはいけないと、早鐘をならす。
とりあえず、川の上流へ向かってみよう。
何故上流へ、なのか?
下流に行けば、川幅が広くなる。
それは対岸へ渡る事が困難になる。と、言う事くらい木偶の坊の僕でも解る。
この川沿いを上流へ歩いて行けば、何処かに自販機の一つや二つくらいあるんじゃないか?
もしかするとコンビニが温かく迎えてくれるなんて
甘い考えは、木っ端微塵に打ち砕かれた。
ジリジリと照りつける太陽が背中を焼き付ける。
西に少しかたむいた太陽を睨みつけようと顔を上げた…
その時に、初めて違和感を感じた。
その違和感は、不安を大いに伴い。
また…何故にこの違和感に気付け無かった僕の木偶の坊ぶりにあきれた。
この一帯には、一本の電信柱も電線も無い。
こんな長閑な田園風景にケーブルを埋設したりなんかしない。
幾ら何でも高圧鉄塔は、ある筈だ。
しかし、霞に曇っていた山の尾根がクッキリと見える程に川沿いを歩いてきたが、山の斜面にそんな物は
見えない。
ふと…あり得ない考えが頭をよぎる。
異世界?
しかも、かなりの過去?
あり得ない。
僕は只の木偶の坊だ。
過去や
歴史が求めるのは、最強の照ちゃんの筈だ。
アニメやドラマで、カッコよくタイムスリップや異世界からの召喚をうけるのは、決して僕の様な木偶の坊では、あり得ない。
僕と照ちゃんを襲った解体工事現場の空を埋め尽くす 程の鋼管が引き金となり、時空か?歴史かが照ちゃんを引き込んだ。
その序でに僕まで飛ばされた来たのか?
そんな…理不尽な事があるか!
たった一人この世界へ置き去りにされても、僕は生きていく自信が無い。
力が抜けた行く。高かった太陽は山の尾根に沈もうとしているが、そのギラツキを緩めてはくれない。
「喉が渇いた。」
知らず知らずのうちに弱音とともに言葉が漏れた。
弱音とともに膝から力が抜けて行く。
そんな僕に斜め後ろから
「見掛けねぇ顔だな?お前何処の者だ」
思わず振りかえると、早苗を植えたばかりの田んぼの横の小さな畑を耕やす。
一人の青年がいた。
但し…その青年の剥き出しになった皮膚は
緑色のウロコに覆われていた。
僕の頭の中に静寂が占めて行く。
その静寂と反比例する様に僕の意識は遠のいていった。




