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幼馴染  作者: ざっく
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中学生

中学生になった。

校区は広がるが、中学受験をする人たち以外はみんな同じ中学に行く。

中学一年生で、隣に住んでいながら長く顔を合せなかった修也と同じクラスになった。

噂では何度となく聞いていた。

ハンサムな顔で優しいと女子から評判だった。

「よ。久しぶり」

少し困ったように言う顔が、昔の面影と重なって嬉しかった。

「隣に住んでいるのに変な感じ」

そう言う私に驚いた顔をしながらも、なんとなく、自然にいられるようになった。

そもそもが、小さな子供の癇癪と意地っ張りだ。

中学生だって、そんなに変わるものではないけれど、小学一年生に比べれば断然大人だ。

またもや出席番号で前にいた浩一と、私の後ろにいる修也で、なんとなく一緒にいて中学生活が始まった。

いつもいつも男の子と…しかも、一人は人気のある修也だ…いると、外聞が悪い。

というか、女の子の友達ができなくなるので、お弁当などはしっかりと女の子と一緒だったが、やはり席が近いとよく話すことになる。

「浩一君、先生が呪文を唱えていた件についてだが」

「オレを一緒にするな。お前が寝ていただけだろう」

「修也君!君ならわかるはずだ!」

「内容が簡単すぎて寝ていた」

「お前らなんか嫌いだっ。ノート見せてくださいっ」

本好きなだけで勉強は好きでない私は、あっという間にあまり頭の良くない生徒になった。

前後が良すぎたせいで、しばらく私は最悪の出来だと思っていた。

実際は、ごくごく普通だったはずだ。


そうやって、楽しい中学生ライフを過ごしていたところに、私が心愛ちゃんをいじめていると言う噂が立った。

小学生になってから話したことなど片手で足りますが?

そんなわけないじゃん。

私と心愛ちゃんの接点探してよ。

「沙知…本当に?」

あら、いたよ。こんなところに。

修也が言うには、私の心愛ちゃんに対する態度に疑問があったと言う。

最近顔見ないけど、どんな態度取ったっけかな?

幼馴染なのに、と。

いやいやいや。

引っ越してきてから、心愛ちゃんと遊んだのは、多分一か月足らずだからね。

幼馴染なのは君たちだけで。

「前はあんなに仲良くしていたじゃないか。あの頃に戻りたい」

―――どんなドラマに影響を受けているんですか。


こんな近くにいた修也がこれだから、仲がそこまでよくない人たちの中には、やっぱりその噂を信じてしまう人もいて。

私は、いじめっこのレッテルが張られた。

これは、地味に痛かった。

私と仲がいい子たちは「木村って誰?あんた、そんな子と話してるの見たことない」と一笑に付してくれるのだけれど、知らない人からは、悪意の視線が突き刺さる。

信じてくれる人がいればいい。

そんな可愛いこと言えない。

悪意は痛い。

しかも、私は多感な中学生だぞ。ちくしょうめ。

半信半疑の修也と、何故か噂を聞きつけた三年生である隼人が、心愛ちゃんと私の仲を取り持つことにしたらしい。

有難くて反吐が出る。


何故か、私の家のリビングに隣の兄弟と久しぶりに顔を見る心愛ちゃんがいた。

私、夕食作らなきゃなので忙しいのですが。

心愛ちゃんは右手を口に当てて、反対の手で胸元を握って小刻みに震えていた。

久しぶりで緊張しているのかしら。

心愛ちゃんに向けて首を傾げると、びくっとされた。

「沙知、そんな態度を取ったら心愛がおびえるだろう」

えええ?

今、私何かした?

隼人の言葉にびっくりだ。

「ええと、何の用?」

「分かっているんだろう」

はあ。大体予想はついておりますが。

「いじめというのは、身に覚えのないことでございまして」

「隼人っ…!私、誰か分からないって言ったじゃない!わたしっ…」

泣き崩れられても、意味が分からない。

修也と隼人が慰めているうちに、私はミートソース作りに励んでみる。

「沙知、なんだよ、その態度は」

修也の責めるような言葉に、なすを素揚げしながら振り返る。

「いやあ、何があったのか具体的に…。何したんだろう?私」

隼人が私の手元をのぞきこみながら言う。

「つい最近のものでは…そうだな…先週の金曜日、心愛の靴がなくなった」

「へえ。金曜日は特売日だからなあ…忙しかったなあ」

「オレの方が忙しかった」

私の言葉に恨めしげな修也の言葉が被る。

トイレットペーパーが特売だったのだ。

三人いれば、3つも買える。もちろん、ダッシュ力のある修也と浩一を引っ張っていった。

「修也を連れて帰ったのが悪かったと言うことかな」

そうか、さらに米と醤油を買ったので荷物持ちもさせた。

さすが男の子ねえ。助かるわあ。と、近所のおばちゃんみたいに褒めたたえたからいいじゃないか。

修也がいなかったせいで、心愛ちゃんの靴を探せなかったと言うことだろう。

「言ってくれれば靴を探しに修也は戻っただろうに」

「オレは疲れた」

まあ、夕方のバーゲンというものはああいうものだ。

「あれ?」

あれってなんだ。何故か隣に立つ隼人を見上げて首を傾げてから叩いたチキンを焼き始めた。

「教科書破かれていたこともあるらしい」

「ありゃまあ。教科書って意外と高いよね」

「他人事のようにっ!」

「他人事だし。え?まさか無差別に来る?心愛ちゃんって何組?」

教科書を置いて帰るのは危なかったか?

浩一が私の鞄の軽さに呆れていたことを思いだした。


私は今、生活費を貰いながら、家事を取り仕切っている。

別にあと数時間すれば両親は帰ってくるのだが、バイトの様なものだ。

生活費を切り詰めれば、残金はお小遣いにしていいのだ。

本に洋服と欲しいものは限りない。こづかい稼ぎのために、部活よりも家事がしたいと申し出たのは私だ。

ずぼらな母は、諸手を挙げて賛成。

「早く料理ができるようになって母に楽をさせなさい」

と小学校低学年の頃から仕込まれた家事能力はなかなかのものだと思う。


「あ~…、兄さん。教室以外で、学校でこいつ一人になることってほぼないから…」

そうですね。いつもばか騒ぎしています。

教室では勉強しているので一人ぼっちで笑われていることが多かったりはする。

話している間に表面に焼き色をつけたチキンと、なすをマカロニに絡めたミートソースの上に置いてチーズを散らす。

「……うまそうだな」

―――いじめの話は終わりでいいですかね?



いじめの話はうやむやになり、私がしたと言う証拠も、私を疑ったことへの謝罪もなく、この件は終了したと言うことになった。

私はたっぷりとわだかまりが残っているけれど。

浩一は修也に何か苦言を呈したようだったけれど、その後の修也の反応はない。


ミートソースグラタンを隼人が食べたがるので、食べたいなら食費を出せと言う私の一言で、自称幼馴染の親たちは、「作ってくれる」と勘違いしたらしい。

林家と木村家の両親が忙しい時には、そこの息子と娘は中島家にご飯を食べに来るようになった。

こうして、幼馴染は復活した。

こづかい増えるならまあいいけどと思った私がばかだった。

受験生の隼人は、夜食までも所望してきやがって、この年は大変だった。

修也も隼人も、何故か心愛ちゃんも「沙知」と私を呼び、「幼馴染」と呼ぶようになった。



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