初心者エール チュートリアル編
『新規プレイヤーの方は、プレイヤー名を入力して下さい』
説明と同時に、目の前にキーボードが表示された。
プレイヤー名か。
エ…ー…ル…決定
『プレイヤー名は エール でよろしいでしょうか?』
先ほどまでのキーボードが消え、YESとNOのパネルが表示される。YESのパネルを指でタッチすると頭の上にエールと表示された。
『このゲームでは、プレイヤーが直接ゲームに参加するため、容姿、性別等の変更はできません。コマンドは、右手に装備したグローブのボタン操作で行います。このグローブは、ゲーム内で壊れる事はありません。また、グローブを外すこともできません。』
今まで何も持っていなかったはずの右手に、いつの間にか黒いグローブが装備されていた。
『プレイヤー認証完了しました。これより街に転送します。よきアンビリオンライフを…』
ー剣の街 ベリストス-
気が付くと、俺は、見知らぬ街の噴水の前にいた。
服装はここに来る前のまま、Tシャツとジーンズ…それに、さっき装備された黒いグローブ…。
周りを見渡すと、みんな、よくあるファンタジーの世界のような服や鎧を身につけている。正直、この格好は、ここではかなり浮いている。
何をしていいのかわからず、周りをキョロキョロしていると、目の前に小さなドラゴンが現れた。
『ようこそ、アンビリオンへ。僕はスィ。この世界の案内役だよ。君たちは、この世界でしばらく暮らすことになるから、住むところが必要になるよね。案内するから、ついてきて。』
スィと名乗ったドラゴンの後についていき、大きな門をくぐると、6畳程度の広さの部屋に移動した。
『この世界では、一人に一つ、部屋が用意されているんだ。この部屋でも最低限のことはできるけど、見てのとおり狭いから、大きなところに住みたかったらお金を貯めて家を買ってね。じゃあ、そこのクローゼットを開いてみて』
スィに言われるままにクローゼットを開くと、この世界にマッチするような服と、鎧、盾、剣が一式揃えられていた。
「これ、使ってもいいの?」
『もちろん。装備は直接着てもいいし、グローブのコマンドから装備変更を選んでもいいよ。複雑な鎧とかだと、コマンドのほうが楽だから慣れておくといいかもね。』
言われたとおりにグローブを操作し、装備を行うと、瞬時に装備が変更され、今まで着ていたTシャツとジーンズがクローゼットに片づけられた。
しかし…重い…。さすが、RPGを実体験とうたっているだけあって、やはり自分の筋力とかは、リアルのままらしい。
『じゃあ、次は戦闘の訓練だね。街の外に出て、狩りをしてみよう。』
「この重い装備のまま、いきなり戦闘訓練?本気…?」
『訓練しないと、いつまでたってもそのままだよ。そのままだと、ゲームもクリアできないし、リアルにも戻れないけど、それでもいい?』
「わ…わかった。やるよ」
『じゃあ、レッツバトル~』
-コーラル平原-
『まずは、そこの鹿と戦ってみよう。剣を構えて、切りかかってみて。』
簡単に言ってくれる…。重い剣を鞘から抜き、適当に構えて切りかかってみた。
「えぇぇぇい」
振り下ろした剣が、鹿の体に命中したその時、鹿の体の周りに緑色のサークルが出現した。
『そのサークルは、自分が占有している敵っていう意味だよ。自分が占有している敵は、パーティを組んだ人や、仲間以外から攻撃されることはないから、安心して狩ってね。』
なるほど、横殴りは禁止ってことだな。よし…
もう一度剣を構えなおして、鹿に切りかかろうとしたが、それより前に鹿が角で突進してきた。
ガィン…何とか盾で防いだけど…
「いってぇ。痛みもリアルのままなのかよ。」
『そうじゃななきゃ、実体験なんて言えないからね。さ、早く構えないと次来るよ。』
慌てて剣を構えなおし、鹿にめがけて振り下ろす…命中。
切りかかった鹿が倒れて、緑色だったサークルが灰色に変わり、目の前に『剣のスキルアップ』と表示された。
『おめでとう。鹿を倒して剣のスキルがアップしたよ。今までより少し、剣が取り扱いやすくなったと思うけどどう?』
確かに、さっきまでより簡単に剣を取り扱えることができる。重さが軽くなった気もする。
『スキルが上がると、どんどん使いやすくなっていくから、頑張って練習してね。じゃあ、チュートリアルはこれで終了!また、聞きたいことがあったらグローブメニューから呼び出してね。はぶ あ ないす アンビリオン』
そう言うと、スィは静かに姿を消してしまった。
…あとは自分でいろいろ考えろ…ということか。
ひとまず、街に戻って食事にしよう。オンラインゲームらしく、ほかのプレイヤーとも交流したいなぁ。