007 やっちゃえ!
どうやらゴーレムは作戦を考えるのをやめたみたい。
それでいいよ。もうピンキーちゃんに不安や混乱を与えないであげて!
どういう方法でいくのかしらと見ていたら、力ずくで正面突破をはかるみたい。うんうん、実にゴーレムらしいの。作戦なんてゴーレムらしくないからね。
◆
うわぁ、人魚の国を囲んでいる壁は珊瑚でできているよ。赤い珊瑚や青い珊瑚が重なり合っててきれいだよ。珊瑚の壁には小さな小魚が住みついているみたい。きれいだねぇ。
おや、前方から何か来ているよ。
あれはシーサーペントだ! その後ろに見える人影は魚人なのかな。結構な人数がいるよ。あれがピンキーちゃんを苦しめた元凶!
やっちゃえ、ゴーレム!
うん? ゴーレムがピンキーちゃんに珊瑚の壁の近くで隠れておけと指示しているわ。ピンキーちゃんがケガをしたら、世界の損失だからね。グッジョブだよ。
[効果:悟りしモノ:興奮→沈静]
メインモニターに情報が表示された。なんでだろう? どうやら、ピンキーちゃんにちゃんと意思が伝わったのがうれしかったみたい。私は登録しておいた定型文を入力して、[確定]ボタンを押す。
さぁ、今度こそやっちゃうのよ、ゴーレム!
ゴーレムが向かってくるシーサーペントをペシっと叩いたら、シーサーペントは珊瑚の壁にぶつかって動かなくなったよ。一応、ピンキーちゃんがいない方へ吹き飛ばしたから、一安心だね。
[攻撃:ゴーレム→魔物:小]
私はメインモニターに表示された情報を素早くキーボードで入力して、[確定]ボタンを押した。
{ログ:ゴーレムはシーサーペントに90のダメージを与えた}
ばっちりなの。もう何度も入力しているから、手慣れたものなのよ。魚人達がゴーレムを取り囲むように展開したわ。シーサーペントを倒せるんだから、大丈夫だと思うけど、こんな風に取り囲まれるとちょっと怖いね。
うわ、魚人達が銛を投げてきた。避けて、回避するのよゴーレム!
ちょ、なんで動こうとしないの!? 当たっちゃうよ! カッ、カッという音を立てながら、全部の銛が弾かれたよ。
ふー、びっくりした。なんで避けないのかな。慢心?
私がゴーレムの思考を表示しているモニターを見てみると、圧倒的な力を見せつけてやりたかったみたい。もう! 私が中にいることを知らないからって、危ないことをしないでほしいよ。
ゴーレムが魚人を叩いたよ。かなり手加減をしたみたい。メインモニターにも初めてみるダメージ表記、極小って表示されたもの。
[攻撃:ゴーレム→魚人:極小]
うーん、15くらいでいいかな。今、表示されている時間がちょうど15分だったから、このくらいでいいはずなの!
{ログ:ゴーレムは魚人に15のダメージを与えた}
でも、魚人はすごい勢いで吹き飛んで珊瑚の壁にぶち当たったよ。よくあれで死ななかったね。ゴーレムも魚人達も、吹き飛んだ魚人を見て呆然としてるの。
何をやってるの! チャンスだよ! やっちゃえ、ゴーレム!
[効果:悟りしモノ:ぼんやり→解消]
私はメインモニターに表示された情報を入力しつつ、ゴーレムを応援したの。すると、ゴーレムは魚人達をパシ、パシっと叩き始めたの。
いいよ! いいよ! その調子なの!
何人かの魚人に逃げられたけど、多くの魚人に鉄槌をくらわせられたよ。さすがだね。ピンキーちゃんを困らせるような魚人に情けは無用だわ!
◆
どうやらゴーレムはシーサーペントが目を覚ますのを待つみたい。珊瑚の壁を出入りしている小魚を眺めたり、ヤドカリをかわいがったり、時間を潰すのに苦労はしないようね。
本当に変わったゴーレムなの。
あぁ、ピンキーちゃんがやきもきしているわ。そんな姿もかわいいの。
あら、ピンキーちゃんがゴーレムにシーサーペントが起きているのではと質問しているよ。シーサーペントが目を開いてたっていうけど、どうなのかしら? 結構な時間が経っているから、たしかに起きても不思議じゃないわよね。
ゴーレムがシーサーペントに近づいて、頭をとんとんと叩いてみたけど、シーサーペントはびくっとしただけで起きないの。うーん、もうちょっと様子を見てみるべきね。
ピンキーちゃんが「でもでも」と渋っているわ。
はー、かわいい。
ピンキーちゃんは本当に世界の宝なの!
私はゴーレムの視界を表示しているをじーっと観察する。ピンキーちゃんが嘘を言うはずがないもの。世界中の皆が信じなくても、私だけはピンキーちゃんを信じるよ。信じるだけで、私には何もできないけど。
あっ、やっぱりシーサーペントの目がうっすら開いている! ピンキーちゃんの言ってたことは正しかったの!
[効果:悟りしモノ:興奮→沈静]
私と同じようにゴーレムも今のを見てたみたい。興奮しちゃったようだ。あれ? でも、私もちょっと興奮しちゃったから、このおかしなゴーレムとちょっと感性が近いのかもしれないよ!!?
うぬぬぅ。私は生まれてから初めての衝撃をうけてしまったよ。
忘れよう。今のことは忘れよう。
あれ、メインモニターが赤くなった。何が起こったのかな。
[失敗:ゴーレムアイ]
まったくもう! 使えないスキルを発動しないで欲しいの。ゴーレムアイって何のつもりなのかな。私は内心で文句をいいつつもキーボードでしっかりと情報を入力していく。
{ログ:ゴーレムアイというスキルはありません}
うん、こんなものでしょう。私は[確定]ボタンを押して登録を完了させた。
ゴーレムはどうやらシーサーペントをビビらせて、情報を得ようとしているみたい。そんなにうまくいくのかしら。このゴーレムの行動と考えはちょっと、いえ、かなり斜め上を行くからよくわからないの。
ドゴンという大きな音と共にゴーレムの拳がシーサーペントの頭に当たっちゃったの。
[攻撃:ゴーレム→魔物:急所命中:中:死]
メインモニターにシーサーペントが死んじゃったと表示されたわ。
な、なんてひどい。
寝たふりをしている相手にとどめをさすなんて。
急所命中って初めて表示されたけど、どういうことなのかしら。すっごく痛い場所にあたっちゃったってこと?
うーん、急所命中。どういう風に入力しよう。
{ログ:クリティカルヒット! ゴーレムはシーサーペントに300のダメージを与えた}
{ログ:シーサーペントは息絶えた}
ふふふ。クリティカルヒット! 良い感じじゃないかしら。座席の下に、【燃えるかっこいい言葉辞典】があったのよ。この辞典の中からクリティカルヒットを選んだの。
私は良い感じに入力できたと満足して[確定]ボタンを押した。
[効果:悟りしモノ:抑鬱→活性]
どうやらゴーレム的にもこのシーサーペントを殺したのは想定外だったみたいね。ちょっと力加減を間違えて、殺されたシーサーペントからしたら災難だけど、ゴーレムが相手だから運が悪かったの。
あら、ピンキーちゃんがジト目でゴーレムを見ているわ。
はぁ、ジト目のピンキーちゃんもかわいい!
私は食い入るようにモニターを見つめ、ジト目のピンキーちゃんの顔をまぶたに焼き付けるの。このバージョンのぬいぐるみも今度作ろうっと。
[効果:悟りしモノ:動揺→解消]
あっ、またゴーレムが動揺しちゃったの。まったく感情の波が激しいの。
悟ったっていうのはきっと何かの間違いだったのね。