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004 外れちゃった

 うわ、水の中に落ちちゃったよ。ゴーレムが水の中にどんどん沈んでいくよ。


 これはロボットだから仕方ない。浮かばないのは仕様だよ。でも、さすがにロボットは良い作りをしているの。水なんて少しも入ってこないの。コクピット内が浸水する心配はないみたい。


 んんー? ゴーレムは水の中だからすごく焦っているみたい。パニくってるわね。ロボットだから平気だと思うんだけど、何をそんなに焦るのかしら。


 [効果:悟りしモノ:パニック→解消]


 また死ぬってどういうことかしら。あなたはついこの間動き出したばかりじゃない。私はゴーレムの思考に疑問を抱きながら、メインモニターに表示された情報を入力していく。


 10分くらいゴーレムは身動きせず、水底に沈んでいる。外の状態を表示しているモニターを見ると塩分が含まれている水のようだから、ここは海だと思う。知識としては海というものを知っていたけど、来るのは初めてだわ。


 はやくゴーレムは動き回ってくれないかしら。ゴーレムが下向きに寝ているから、外の状況を映し出すモニターが真っ暗でつまらないの。


 あ、やっと大丈夫だって気づいたみたい。理解の遅いゴーレムね。頭がいいかもって思ったのは、私の間違いだったみたい。


 [効果:悟りしモノ:興奮→解消]


 さて、お仕事お仕事。休みはなくても、私はがんばり続けるの! ロウドウキジュンホウだったかしら。そんなものは私には関係ないんだからね。


 [確定]ボタンを押して、ゴーレムの思考を表示しているモニターを見てみると、味がわからないって表示されていたの。


 ゴーレムは、臭いや味はわかるはずなんだけどなぁ。ゴーレムには口がないから仕方がないのかな。でも、味覚センサーは搭載しようとしてたはずだけど、壊れているのかしら。


 私はキーボードを操作して、ロボットの搭載機能一覧を確認する。やっぱり、味覚センサーは搭載されて、……いなかったわ。開発中の表示のままグレーアウトしている。備考欄にメッセージが残っているわね。


 <消化システムを作るには、ロボットの身体が小さいので大幅に作り直す必要がある。残念、無念、断念。味覚センサーも開発は一時停止>


 ネン、ネン、ネンと韻をふんでいるね。私もこういう韻をふんだ文章を書けるようになりたい。


 話がそれちゃったわ。どうやら私を生み出したお方が味覚センサーの開発をストップさせちゃったみたいね。うん、どんまい。しかたないよ。まったく動かなかったんだから、味覚センサーなんて後回しになってもしかたないんだよ。



 ◆



 うんうん、ゴーレムが海底を歩いてくれるから、モニターに周囲の状況が表示されて楽しいわ。見るものが全て初めてだから、見ていて全然飽きない。


 ちょっと暗くても、明度をあげれば明るく見えるのよ。だてにファンタジー世界でロボットを作ってないの!


 メインモニターに表示される情報も少ないから、私は寝ることも出来るようになったの。


 ふふふ。


 私はマニュアルを確認して見つけたの。メインモニターに情報が表示されたら、ベッドが自動的に私を起こすように傾いてくれる機能があったのよ。これで、一人でも寝ることができるわ。


 ほんとによかったよ。マニュアルをがんばって読んだ甲斐があったんだよ。



 ◆



 ゴーレムはかれこれ1ヶ月ほど海底の中を歩いているの。よく休むことなく歩き続けられるものね。


 この一ヶ月間の間、いろいろあったの。イソギンチャクの魔物に襲われたり、蟹の大群に遭遇したり、退屈しない毎日だったわ。外の世界には私の知らないことがいっぱいあるのね。働くのは大変だけど、知らないことを知ることができるのはとっても刺激的なことなの。


 好奇心って本当に大事だわ!


 でも、シーサーペントがかなりの頻度でゴーレムにつっかかってくるのにはまいっちゃった。ドラゴンはキラキラしているものが好きみたいだから、仕方ないのかもしれないけど、ちょっとつっかかってきすぎなの。


 イソギンチャクの時もそうだったんだけど、メインモニターに表示される情報はちょっとおおざっぱな時があるのよね。


 [攻撃:ゴーレム→魔物:小ー中]


 って表示されるの。魔物って何よと思ったけど、マニュアルを見たら、魔物辞典で調べるようにと書かれてたのよね。だから、魔物辞典が置かれていたのかと納得できたわ。でも、魔物辞典から魔物の名前を調べるのは結構大変なの。


 自動識別機能とかをつけておいてほしかったわ。


 ダメージの箇所も、小ー中と表示されていたから、小ダメージから中ダメージの間くらいだと思ったの。だから、150くらいのダメージにしておいたわ。このくらいがちょうど良いさじ加減ってものでしょ。


 毎回150じゃ、あとで文章を確認した人がおかしいと思うかもしれないから、140や160も適度に混ぜておいたの。ぬかりないでしょ!


 これは小細工じゃないの。工夫っていうの。



 ◆



 うわぁ、シーサーペント達に囲まれちゃってる。魔物図鑑のシーサーペントの項目を見ても、集団で動くなんて書かれてないんだけどな。やっぱり、実際に経験しないとわからないことも多いね。


 [攻撃:ゴーレム→魔物:中:死]

 [強化:ゴーレム:Lv10]

 

 また新しい情報が表示されたわ。最後に死って書かれてる。ゴーレムの視界をうつしているモニターを見ると、シーサーペントが死んでいるみたい。なるほどなるほど。


 どう書こうかしら。シーサーペントは死んだじゃ、イマイチよね。そうだ、息絶えたにしておこう。


 {ログ:ゴーレムはシーサーペントに435のダメージを与えた}

 {ログ:シーサーペントは息絶えた}

 {ログ:ゴーレムはLv10に上がった}


 うん、良いんじゃないかしら。メインモニターに1行で表示されたからって、私も一行で文章をまとめないといけないわけじゃないんだから。こういうのは創意工夫が大切なの! 2行に分けた方がわかりやすいでしょ。


 それに私がとっても仕事をしているように見えるから、この書き方をこれからも続けていきましょう。うんうん、と納得の文章ができたことに私はとても満足する。


 私の喜びを表すかのように元気に[確定]ボタンを押した。


 一番大きいシーサーペントをゴーレムが倒したら、シーサーペント達は恐れをなして逃げ出していったわ。さすがは私を生み出したお方の作ったロボットね。


 でも、こんなに強かったかな。


 シーサーペント1撃で倒せるなんてちょっと強すぎる気がするね。封印中の扉も壊しちゃったし、もしかしてバグってるのかもしれない。


 私はメインモニターを見つめながら、腕を組んでうーんとうなる。


 うん、どうにもできないわね。私にはロボットをどうにかする権限なんて与えられていないんだもの。仕方ないわ!



 ◆



 ゴーレムは陸地を目指しているみたいだけど、外の状況を表示しているモニターではどんどん海の深い方に進んでいるみたい。


 ゴーレムが自分自身の動力源について疑問に思っているけど、私もそれを知りたいのよね。どうして、急に動き出しちゃったのかしら。本当によくわからないわ。


 ゴーレムはヤドカリをなでて癒やされているみたい。でも、ヤドカリはびっくりして殻にこもっちゃったわ。小さい生き物をむやみに触っちゃだめなのよ!



 ◆



 ようやくゴーレムが、自分の進行方向が正しいのか疑問を持ってくれたわ。そうよ、今進んでいるのは海の深い方に進んでいるの。引き返した方がいいわよ。


 でも、ずっと一直線に歩いて行くみたい。もう、変なところで頑固なのよね。このゴーレムは。


 んん? 変な海藻が流れてきたわ。

 怪しい臭いがぷんぷんする!


 それ! 触るのよ、ゴーレム! きっと何かが起こるに違いないわ。


 えっ、えええ。ちょっとゴーレム。なんで海藻を大きく避けて進んじゃうのよ。楽しいことが起こるかもしれないじゃない。触っちゃいなさいよ。



 ◆



 何度も海藻がゴーレムの前に現れるのに、そのたびにゴーレムは避けて進むの。もう、絶対何かが起こるはずのに、なんで触らないのかしら。


 このゴーレムはチャレンジ精神が足りないんじゃないのかな。


 封印中の扉はいきなり殴り始めるのに、変なところで面倒くさがりなのよね。



 ◆



 ほら、ご覧なさい。海藻がしおれてきているわよ。そして、どんどん近づいてきているわ。もう手を伸ばせばすぐに触れる距離じゃないの。本当になんで触らないのかしら。


 うーん、思考のモニターを見ると、ゴーレムの変なスイッチが入ってるみたい。


 何が「海藻との根比べ」よ。海藻と根比べしてどうするつもりなの。


 [効果:悟りしモノ:興奮→解消]


 もう! と怒りながら私はメインモニターに表示された情報をキーボードで入力していく。私は、はやくこの海藻の正体を知りたいのに。


 私は、ターンと勢いよく[確定]ボタンを押した。


 あっ、大変、[確定]ボタンのカバーが外れちゃった! ボンドでくっつくかしら。

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