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となりの妹さん  作者: 天城春香
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田舎とはいえ静かすぎる町並みについて

24.

 その日はそれ以降も講義があったが、僕たちはそれの認識を拒否した。


 わかりづらく言っているだけだ。僕たちは講義をサボった、ただそれだけのことだ。しかし大学の講義を一つも落とさずに出席し続ける人なんてこの世に存在するんだろうか? 存在はしているだろう。ただ、そういった人たちは僕たちの世界の外側に居る。きっと将来成功するだろう。経営者でも目指しているのか。それとも研究者になりたいのか。ともかく僕たちとは世界が違う。僕たちが居るような、「面倒くさい」という言葉が存在する世界とは違う。


 そんな面倒くさいという言葉が存在している当たり前の世界に行きている僕と無明さんは、当たり前のように講義をサボって大学を出た。大学を出ただけなんだが、そこでつまづきがあった。

 次のバスが来るまで四十分もあるのだ。僕にも無明さんにも、前もって携帯でバスの時間を調べておくという発想が起こらなかったので、バス停の時刻表を見て初めてそれを思い知った。そしてどうしようかと顔を合わせた。

「歩こうか」

「歩こう」


 バスで十分の道のりくらい歩こう、と軽い気持ちで言っているように見えるかもしれないが、バスだと十分でたどり着けるというだけで、実際の道のりは起伏に次ぐ起伏、そして猛烈な左右振り、代わり映えがしなくて進んでいる感じがしない田舎の光景などが相まって歩くと想定以上の時間と労力を要する。だから僕と無明さんは決死の覚悟でバスで通学している駅までの道を歩こうと決意したのだ。


 平日の昼間だから、住宅街はひっそりとしていても不思議ではない。しかし僕と無明さんが歩いている大学周辺の住宅以外に何もない住宅街は、あまりにも静かすぎた。

「静かすぎない?」

 と無明さんが声を出すほど静かすぎた。

「静かすぎる」

 実は大学と駅をつなぐバスは、大学の二つ手前のバス停で降りれば運賃が三十円ほど安くなる。バス停二つくらいなら大した距離を歩くわけではないので、そこで降りる学生も結構居る。僕も一度だけ大学から二つ手前のバス停で降りたことがあるのだが、そこから大学までの道のりは騒がしかった。もちろん時間が昼間じゃなくて通学時間だったから、一緒に降りた学生が歩きながら喋っていたというのもある。しかし別の音もあった。田舎では結構な率で買われている飼い犬の鳴き声が聞こえていたのだ。


 しかし今は犬の声すらしない。すずめの声すら聞こえない。虫が飛んでいる気配すらない。植物以外の命が息絶えてしまったかのような静けさが、この山に囲まれた住宅街を支配していた。いや本当に植物以外の命が息絶えると微生物もいなくなって植物も死に絶えることになるんだが、少なくとも聞こえる程度の音を発する生き物の気配は周辺に感じられなかった。


「普通さ、こんな時間でも車くらい通るものなんじゃないの?」

 無明さんの言うとおり、さっきから僕たちが歩いている道には車の姿が一つも見えてこなかった。僕たちが歩いている道は幅が狭いわけではない。むしろ歩道がない。車が通行するために存在している道であり、家々の玄関もこの道には向いていない。この道に面している民家に入るためには、一本道を曲がって狭くて曲がりくねった、リムジンが通行できないような道に入らなければならない。

 そして、そんな狭い道に面した家では、かなり大きな声で吠える犬が飼われている。車用の大きな道を歩いていてもその鳴き声が聞こえるほど大きな声で鳴くので、犬嫌いの学生はこの辺りを足早に通り過ぎる。そんな犬が鳴かないのは、平日の昼間で玄関先を怪しい人物が通行しないからだろうか。

「それとも、犬が死んでしまったか」

「悲しいこと言わないでよ」

 無明さんは犬の飼い主でもないのに犬の死を悲しんだ。


 住宅街を抜けると、ここにも大きな工場がある。ちょうどいい郊外だし、工場が立てやすい立地なんだろう。ちゃんと確認したことがないので何の工場なのかはわからない。ただ、工場からも全く音が聞こえてこない。

「今日は稼働してないんだよ」

 僕もそう思う、と相槌を打っておいた。


 そこを通過すると今度は歩道の存在する更に広い道、まあ広いと言ってもバスがやっと止まらずに行き交うことのできる言っ車線道路なんだが、そんな広い道にさしかかる。歩道の脇には点々とタバコも扱っている商店があったり、昭和の頃からやっていそうなブティックがあったり、唐突に巨大なボウリングのピンがそびえ立ったり、何を祀っているのか全然わからない神社があったりする。僕達はそれらの脇を通り抜けて黙々と駅へ向かっていく。

「本当におかしいくらい静かすぎない?」

「静かすぎる」

 本当に、無明さんの言葉そのままだがおかしいくらいに全てが静かすぎた。しかしその原因を解明しようとか、僕たちはしなかった。どうすれば解明できるのかわからなかったし、この現象に深入りすると恐ろしい目に遭いそうな気がしたからだ。


 駅に到着した。駅付近には流石に音があった。電車が発着していたのだ。

 ただ、ホームには僕たち以外の誰もいなかった。これは珍しい事じゃないけど。

「家の近くの駅にも誰もいなかったりするかもしれない」

「流石にそうなったら、私は気が狂うと思うよ」

 近所が静かだと無明さんは気が狂うのか。果たしてそれは気が弱いのか、当たり前のことなのか。

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