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となりの妹さん  作者: 天城春香
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生まれて初めて手を差し伸べられた話

23(2).

 友達のいない人間は表立って迫害されることはない。ただ、区別される。


 されているような気分になっているだけかもしれないが、少なくとも僕は友達がいる人達に区別されていると考えている。差別ではなく、区別である。表立って違いのある対応を取られるとか、そういうのではない。人間関係巧者特有の自然な間合い取りによって、話しかけづらいように、そして話しかけなくて済むような場所に移動しているのだ。相手だってこのことを意識してやっているとは思えない。人付き合いとは経験が物を言い、経験が物を言う競技の殆どはそれを理屈で説明することが難しい。きっと彼らだって理屈じゃ説明できないに違いない、僕たちから距離を取る理由、そしてその手法を。


 そんな感じで遠巻きにされ、気にもされないまま講義時間が終了した。高校の授業までと比べて倍近くある講義時間の終了まで待つのは結構な苦痛だろうと思ったが、無明さんは話の続きを根気よく待ってくれた。友達がいる者が無意識にはできないだろうが、僕たち友達がいない人間たちは一人のはなく済ませたい時間の意識を飛ばすことができる。こうして友達がいる人間といない人間の溝は年々広がっていく。きっと僕たちが三十を超えたあたりでまともに会話も成立しなくなるだろう。それまでに人間が残っていれば、の話になるけれど。


 人間がいなくなっている。僕にはその理由がわかっているが、無明さんにとってそれは謎でしかなかった。僕もまだ真相を話していない。だから講義が終わるまで、無明さんは知り合いが謎の消失をしたという話を我慢してくれた。


 講義が終わり、他に誰もいない講義室で、無明さんは語り始めた。

「私の数少ない友達……まあ、従兄弟なんだけど、私の家から従兄弟の家って自転車でちょっと走ればいける距離にあるんだ。その従兄弟と、四日くらい前かな、急に連絡が取れなくなった。電話でも、ネットにも姿を見せないから、急に一人旅にでも出て携帯を切ってるのかなー、とか思ってた。普段からそういうことをする人じゃないけど、相手も大学三年だし、就活が嫌でどうにかなっちゃったんだろう、とか思ってた。でも昨日、いい加減帰ってこないとおかしいんじゃないか、と思って。自転車で従兄弟の家に行ってみたんだ。そしたら、誰もいなかった。玄関の鍵は空いてた。中は誰かが踏み入った形跡なんかなかった。それなのに、誰もいなかった。従兄弟の家族も住んでる家なのに、誰もいなかった」


 一家まるごと、穴の向こうのなにものかに食べられたのか。それとも夜逃げだろうか。しかし無明さんの話しぶりからすると、従兄弟の家が実はお金の工面に困っていた感じではなさそうだ。原因に全く心当たりがない、だから不思議でしょうがない、そんな話し方だった。


「警察には」

「連絡した。そもそも親戚のうちに警察から連絡が来てないことのほうがおかしいって後から思ったんだけど、警察に電話したら、誰も出なかった。ずーっと話し中」

「そうか、僕もだよ。警察にずっと電話が繋がらない」

「あなたの知り合いも、まだ見つかってないんだよね?」

「まあね」


 知り合いが消えたかどうか、僕はまだ確認していない。僕にだって親戚くらいはいる。でもその親戚とは、入学式の前日以来ずっと連絡を取っていない。遠いところに住んでいるから確認に行くわけにもいかないし、もし電話して通じなかったら、しかしまだいなくなったと断定するのは早い気がする。ともかく、僕は嘘をついている。このくらいいいだろう、話を合わせるための嘘だし、これが嘘だとばれても相手を多大に傷つけたりはしないだろう。


「今、電話してみる? どっちかが。それでもまだ話し中だったら、ちょっとおかしいよね」

「僕が電話してみよう」

 通じたところで、この大学の異変を伝えることしかできないんだが、そして嘘がばれてしまうんだが、僕は積極的に名乗りでた。きっとどうなっても良かったんだろう。無明さんに多少嫌われても平然としていられる自分、というのを演じたかったのかもしれない。しょうがないだろう、ずっと友達のいない僕には、人に好かれる行動というものがわからないんだから。

 で、警察に繋がるはずの三桁の番号を押してみた。


 繋がらなかった。

「話し中だ」

 警察が話し中で繋がらない、なんてことはあるだろうか。しかも、こんなに長時間。

「交番に、行ってみようか」

「この辺、交番とかあったっけ」

「私達の家の近くの駅なら、ほら、駅前に一つ」

 そういえば駅前交差点に一つ設置されていた。路上喫煙禁止区域なのにすぐ前で煙草を吸っている人がいても路上喫煙を全然取り締まらない交番が一つだけ。

「今から行こう。なんかすごく気になってきた」

「一緒に」

「え、一緒じゃないの?」

「いや、一緒に」

 人から誘われるなんて何年ぶりだろう。もしかしたら初めてかもしれない。

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