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となりの妹さん  作者: 天城春香
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かわいそうな人について

20(4).

 僕が黒猫を殺そうとする妹を止めたのは、僕の身を守るためだ。


 黒猫がここからいなくなったら、穴が閉じてしまう、または穴が別のところに移動してしまう、そう思ったからだ。穴が閉じるならまだいいほうだが、穴が別のところに移動してしまっては困る。僕を食べないという約束がなかったことになってしまう。穴がどうなろうと、黒猫がいなくなった時点で僕を食べないという約束がなくなる可能性だってあるし、穴が閉じたとしてもここ以外にも穴が存在することを今日の横浜への小旅行で知ったばかりだから、結局僕はこの穴を守るしかない。そして黒猫のことも妹から守るしかない。


 僕の左手で右手を掴まれ、右手を光らせることができない妹は暴れるか僕を殺そうとするかすると思ったが、振り上げた右手をすんなりと下ろした。

「自分のやったことがわかってんの?」

 哀れなレベルの馬鹿を見る目で僕を見ていた。

「ここに穴があるとして、そこから出てくる奴らを全員殺し続けるつもりなの」

 憐れまれてもいい、死なずに済むのならそれでいい。

「そりゃあ、人間を食べる奴なんて人類の敵なんだから。それを倒せるのは私だけなんだから。もちろん倒し続けるつもりだけど?」

 本当は妹だけじゃないんだが、それは言わないほうがいいだろう。


「この穴からは、一日二十四時間、いつでもなにものかが現れる。どんな周期で現れるのかわからないし、どれだけやって来るのかもわからない。もしここから出てくるなにかを殺し続けるのだったら、ひょっとしたら永遠に、死ぬまでここから離れられなくなるかもしれない。それでもいいなら、止めないけど」

 それに、そうしてくれるのであれば僕も食べられずに済む。別の穴から現れたなにものかに食べられる可能性はあるが、最も近くにある命の危機からは助かる。ただし妹への配慮は除外するとして、だけど。

「……私、いつまで戦えばいいの?」

 妹は今更そんな根本的な疑問を口にした。


「それを僕が知っているわけがないよ」

 ヒーローには最終回を区切りに戦いを終える場合と、最終回後も戦い続けることを示唆するパターンがある。フィクションならどっちでも構わないが、しかし現実で後者になってしまったらどうなるんだろう。現実には最終回なんてものはないから、前者も後者もないんだろうが、例えば世界を破壊する組織を壊滅させるとかいう大きな戦いを最終回みたいなものだと仮定して、ヒーローはそれを終えた後、戦いを終えるだろうか。それとも組織の残党狩りとか称して戦いを続けるだろうか。

 ヒーローが戦う物語のもう一つの終わりのパターンを思い出した。ヒーローが死ぬというものだ。ダークヒーローなんかはこのパターンが多い。ダークじゃないヒーローの場合は、新しく登場するヒーローのために死ぬことが多い。

 さて、妹はどれかのパターンに当てはまるだろうか。人類を守るために人を喰う化け物と戦っているらしい、間違いなくヒーローを演じている妹の戦いの終わりはいつ訪れるのだろうか。


「誰に訊けばわかるの?」

「だから、知らないよ」

 現実は物語じゃないから、僕は知らない。現実に最終回なんてものは存在しないし、盛り上がりとか視聴率とかグッズの売上とか、そんなものとも関係ない。人知れず戦うヒーローのことを、本当に殆どの人は知らない。

「じゃあさ、私って」

 妹はたっぷりと黙った。

「すっごくかわいそうなんじゃない?」

 そりゃあ、人知れず命がけの戦いに身を投じさせられるのはかわいそうとしか言いようが無い。当たっている。

「そうだけど、僕にはどうすることもできないよ」

 人類を守る戦いをしている人に対して、戦いをやめろなんて言えるわけがない。

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