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となりの妹さん  作者: 天城春香
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他人の死に関する態度と見たことのある顔について

20.

 その足で僕は電車を乗り継いで部屋まで帰った。


 ホテルからは何の連絡もない。ホテルの部屋に何事も無く青髪と魔法少女の殺し合いは終わったのか、それともチェックインの際に青髪が僕の個人情報を伏せておいたのか。いやそもそも青髪は僕の連絡先なんて知らないはずだ。青髪は携帯を持っていないのだから、僕の携帯の番号も知っているはずがない。じゃあこの件はこれで終わり、ということにしていいのだろうか。


 ここで青髪のことを思い出したり、そして青髪が死んだことに対して悲しくなったりしたら、僕は穴の向こうのなにものか、魔法少女のいうところによる怪物たちが殺されることをいちいち悲しまなければならなくなる。それとも青髪のような特例みたいな見た目をしている奴らにだけ同情すればいいんだろうか。いやしかし、死んだからといって同情しなければならない、などという義務は無いはずだ。人間相手だってほとんど知らない人が死んでも悲しくないことがある。

 いや待て、そもそも僕は誰かが死んで悲しい、という思いを抱いたことがあっただろうか。中学生の頃、好きだったバンドのボーカルがくも膜下出血で死んだりしたが、その際にも泣かなかった。それより小さいころ、僕は親に連れられて全然知らない親戚の葬式に行ったことがあるが、もちろん知らない人の葬式なので悲しいなんて思わなかった。その葬式で誰も泣いていなかったことも関係しているかもしれない。他にも従兄弟の父親が死んだ際の葬式にも連れられていったが、僕は泣かなかった。従兄弟たちは泣いていた。そりゃ自分の父親が死ねば泣くだろう。僕の父親が死んだ際、僕は泣くだろうか。


 泣かないような気がしてぞっとした。僕の人生、ちょっと愛とか情とかが少なすぎやしないだろうか。


 部屋では顔のない黒猫に青髪が殺されたらしいことを報告した。殺された、とはっきり言わなかったのは、それが魔法少女こと経道星の宣言でしかなかったからだ。

「それは残念だと思っている」

 黒猫は声色を変えずに言った。まるで会社の損失が出たことが残念、みたいな口調だ。

「悲しくないの」

「人間に殺されたのであれば、仕方がないと私達は思っている」

「人間と違うね」

「私たちは人間じゃないからな」

 人間だったら、食肉用の牛に人間が殺されたらその近親者が悲しんだりするだろう。穴の向こうのものたちはそうじゃない、ということか。


 そういった報告とちょっとした会話をしている間に、やっとパソコンの起動が終わった。押し入れに穴が空いてからずっと黒猫や穴の向こうからやってくるなにものかが部屋を出たり入ったりするので、少しだけエロサイトを見ることを躊躇するようになってしまったのは不便だ。同様の理由でオナニーがとてもやりづらくなった、というか一度もやっていないのはかなり不便だ。もう少ししたら漫画喫茶に入ってでも抜いておこうか。


 ネットで今日の昼に横浜で食べたラーメン屋を食べログで検索して、そこで初めてラーメン屋がチェーン店だったことを知って自分でも何故かわからないがっかりした気持ちになっている内に、とても生物とは形容しがたい形状のなにものかが二体ほど穴を通り抜けて部屋に降り立ち、そして窓から出て行った。この状況が続く限り、窓を締め切れないからこの部屋に入居した時に取り付けられていたエアコンは使えないのか。夏はともかく冬はどうすればいいだろう。窓を開けっ放しじゃヒーターもあまり役に立たないだろうし、さてどうしたものか。


「あのー」

 三体目の穴から出てきたなにものかに話しかけられた。

「人間の言語として認識されていますでしょうか」

 そいつははっきりと人間の言葉を喋った。

「ああ、日本語に聞こえるよ」

「良かった。意思の疎通は可能なようですね」

「意思の疎通をしてどうするつもり」

「私たちは食事のために生きています」

「それはわかるんだけど」

 穴の向こうからやって来るのはそれが目的のものばっかりだし。

「私は意思の疎通によって相手に食事の了解を得たいのです」

 青髪みたいなことをやるつもりか。

「無理だと思うな」

 青髪も結局殺されてしまったのだから。

「そうでしょうか? 私を見ても、そう思われますでしょうか?」

「思う」

 外見は妹そっくりだったけど、僕は本心からそう思った。

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