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となりの妹さん  作者: 天城春香
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争いの始まりと終わりについて

19(3).

 青髪はまだ出かけていなかった。


 なぜ出かけていなかったのか、僕を追うタイミングで、何なら僕なんかより早く部屋を出ればこんな状況に陥らずに済んだのかもしれないのに。食事のために出かけるつもりだったんだろう、死活問題じゃないか。僕の食事と青髪の食事ではその重要さの度合いが違う。

 などと言うと青髪の身の危険を案じているようだが、別にそんなことはない。ただ、僕が心配なのは、青髪と魔法少女が揉み合い、というか殺し合いをした結果、ホテルの部屋の何処かが破損し、その弁償を僕がやらなければならなくなったらどうしよう。それが一番心配だった。だから殺し合うのであればせめて部屋を出て欲しかった。


「やあ」

 青髪は僕と魔法少女に気さくに応対した。魔法少女の表情が見えていないのだろうか。

「もしかして、僕を殺しに来た?」

 見えていた。そして魔法少女が部屋に来た意図まで理解しているらしかった。僕が魔法少女を平気な顔して部屋まで案内したことについては触れなかった。

「もちろん」

 魔法少女は野獣のような笑みを浮かべた。やっぱり相手は人間でも生物でもないとはいえ、殺すことには多少以上の猟奇的な喜びが伴うものなのか。

 青髪が立ち上がり、魔法少女も青髪に近寄り、一秒後には開戦しそうな雰囲気だった。レフェリーがいれば、あとはもう「ゴー」と言うだけでいい。


 だから僕は部屋から出た。なぜなら殺し合いをしている二人の近くにいるのは危険だからだ。運が悪ければうっかり巻き添えで殺されかねない。

 さっさとエレベーターホールまで戻り、ちょうどドアが開いていた下りのエレベーターに乗り込んでフロント階まで戻る。それから僕はホテルを出た。

 観光用の部屋が大きいホテルの周囲は、雑然としていた。ホテルの建物だけがやたらと綺麗で、あとは都会の騒がしさにまみれていた。ここは東京も横浜も同じようなものか。もっと高いホテルの周辺ならば、周辺の環境も合わせて静謐な綺麗さに満ちているものだが、流石に青髪が取ったホテルは最高級のものではなかったので、こんなものだった。


 さて、このホテルからどこへ向かえばいいのか。ここから横浜市街は結構遠い。地下鉄で八駅くらい乗らなければならない。赤レンガ倉庫でも見に行こうと思ってみたが、そういえば赤レンガ倉庫へ行くにはどの駅で降りればいいのかわからない。横浜中華街もどこにあるのかわからない。

 ここは横浜のどこなのか、全くわからないまま僕はホテルから離れるように歩いた。もしホテルの僕の部屋の窓が爆発でもしたら、中からガードマンあたりが飛び出してきて、その部屋の宿泊客である僕に事情徴収にやって来るかもしれない。ことが終わるまでホテルからはなるべく離れているのが得策だ。


 地名のない土地は、横浜には存在しない。もちろん全世界のあらゆる場所に地名が存在するということはないだろう。まだ人類未踏だったり、理由があって土地名が保留されていたりする地域だってあるだろう。でもここは横浜だ。未開の地でもなければ地名で揉めて紛争するようなところでもない。あってもヤンキーの抗争くらいだろう。この辺り一帯を仕切る不良集団はどれなのか、日夜横浜の何処かで喧嘩が繰り広げられている、とか。ありそうだ。ホテル近くのポストに見たことのないキャラクターのシールが何種類も貼り付けられていて、その上からヒップホップで見るような字体で何かが書かれている。ポストがこんなことになっている場所に不良がわかないはずがない。

 だから夜までには戻ることにして、この辺りで食事を済ませる。赤レンガ倉庫とか中華街とかは、後でゆっくり調べて財布が許せば言ってみよう。どちらも一大観光地だ、物価だって貧乏学生には厳しいレベルに違いない。そのくらいならこの馴染みのない土地のラーメン屋にでも入ろう。知る人ぞ知る店があるかもしれないし。

 もちろん僕はこの辺りの知る人ぞ知る店なんて知らない。知る人ではないからだ。この辺りの土地に詳しい人こそが知る人になる資格がある。僕はまだ自分が住んでいるアパート周辺のことも全てを知っているわけではない。初めて来るこの土地のことを知っているわけがない。


 そこらにラーメン屋でもないか、何ならちょっと変わった無国籍料理やとかでもいい、とか考えながら広くてタイルが新しいがゴミも散乱している通りを歩いていると、頭上を不自然な影が横切った。

 影は大きくなっていき、僕の正面に影の持ち主は降り立った。

 魔法少女、経道星だった。

「正義完了!」

「死んだの」

「倒しました!」

 青髪は殺されたらしかった。

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