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となりの妹さん  作者: 天城春香
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人が殺されていく光景について

18(4).

 釣った魚に指を食われたおじさんは、しばらく方針していた。


 その間も釣られた魚は地上で跳ねまわっていた。それも無計画に跳ねまわっていたようには見えず、次はおじさんのからだのどこに食いつけば効率的に身体を食いちぎることができるか、またはおじさんを絶命させることができるか見計らっているかのような意志のある跳ね回り方だった。その証拠に、魚は跳ねまわりながらもおじさんから一定距離以上離れようとしない。


「な、なあ」

 おじさんの指があったところからはもちろん血がダラダラと流れている。以前僕が学校の健康診断で採血された時は時分の血液の赤黒さに驚いたものだが、指をちぎられて流れ出る血はこんなにもちゃんとした赤に近いものなのか。やっぱり内蔵に近いところにある血管で流れている血は汚くなってしまうのだろうか。やっぱりってなんだろう。僕は高校で生物を取っていないのでそのあたりのことはわからない。


「この魚、なあ?」

 おじさんはなぜか僕達の機嫌を取るように笑みを浮かべながら何かを問いかけてきた。しかし何を訊いているのかわからないので僕にはどう答えたものだかさっぱりわからない。青髪は無反応を貫いている。


「あっ」

 魚が高く跳ね上がり、おじさんが声を上げた。驚きの声とかじゃなく、反射的に漏れてしまった声だろう。高く跳ね上がった魚は、そのままおじさんの首に噛み付いた。

「っ痛たたたたたたた」

 おじさんは魚を手で掴んで引き剥がそうとしている。しかし魚の牙が既に首の中にめり込んでしまっているらしく、引っ張るほど首の皮、及びその肉を自分の身体から引き剥がす形になってしまう。


「あ、あっ! あっ!」

 おじさんはこのまま引っ張ればいいのか引っ張っちゃいけないのか混乱しているようで、悲鳴なのか何なのかわからない声を発している。とにかくこのまま放っておいたら、首から血を流すことになるだろう。指でも相当やばいのに、首から持ちを流し始めたらそろそろ失血死が近づき始めることになる。そしてすぐに失血死はおじさんに追いつくだろう。僕は人が死ぬ瞬間を目撃することになる。


 それにしてもおじさんはどうして僕達に助けを求めないのだろう。混乱しているからか、それとも若者なんか信用ならないと思っているのか。僕としては前者であることに期待したい。若いというそれだけで信用ならないなんて思われたら心外である。若い奴は全員中年男性を嫌っていると思い込まれているとしたら、それはとても腹が立つ。

 じゃあ助けに入ればいいじゃないか。それなのにどうして僕は棒立ちで傍観しているんだ。しかし僕にはそれができない理由がある。僕は生まれてから今まで行きている魚に素手で触れたことがないのだ。どんな感触がするのかわからないものに手を出すことは難しい。信じられないほど不快な手触りだったとしたら、それに触った瞬間に襲いかかる対象が僕に移ったりしたら、それこそ大変なことになる。

 それに、もう警察とか救急車を呼んでも助からないんじゃないか、という考えが頭の中の結構な部分を占めているのも大きい。だって魚は問答無用で人間の指を食いちぎることができる運動能力を有しているのである。指にだって骨が入っているんだし、その骨も決して細くはないだろう。それに大人の首まで跳ね上がることだってできる。それができるなら例えば突然目玉を食い破ってショック死させるとか、そういったことだって可能なはずだ。手のひらを食い破って体内に入り込み、体の内側から内蔵を食い散らかして殺すことだって可能なはずだ。つまり、僕はおじさんの指が食いちぎられた瞬間、あ、この人死んだな、と思ったのだ。最低な考えだと思う。その逆の最高の考えが浮かばないあたり、さらに最低だと思う。


「ああああ、あっ! あっ!」

 おじさんは抵抗を諦めてしまったのか、魚から手を話している。魚は身体をくねらせながらその牙を喉の奥へ奥へと深く食い込ませようとしている。こうなってしまったらもう僕には無理だ。おじさんは助からない。そう確信した。

「ちょっと待ったぁ!」

 上空からそんな声が聞こえた。

 次の瞬間、空から女の子が降ってきた。

 いや、飛び降りてきた。

「助けに来ました!」

 女の子はおじさんに走り寄っていく。

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