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となりの妹さん  作者: 天城春香
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非生物の生態と食べ物に対する態度について

17(3).

 お邪魔しちゃ悪いから、と言い残して無明さんは一人で駐車場に向かって行った。


 僕は青髪と付き合っているとは言っていないのだが、やっぱり言い方が悪かったか。今みたいな関係とか付き合おうとどちらからも言い出していないとかそういう否定のための言葉が肯定的に捉えられてしまったのだろう。きっと無明さんは僕と青髪が付き合っていると思い込んでいる。決めつけているに決まっている。と、僕も決めつけてみた。


 そして決めつけられているらしいことを青髪にも話した。

「それは僕のせいじゃないよね」

 青髪の言うとおりである。僕が表現を間違えたせいで、無明さんが勘違いしたまま信じ込んでしまったのだ。

「しかし付き合っていないと正確に言っても、信じてもらえたかどうか」

「それでも信じないものなのかい、人間というのは。恋愛とか、僕にはわからないな」

「僕にだってわからない」

 二人とも一人称が「僕」でどっちが喋っているか文章にするとわかりづらい。しかし僕の人生が文章になったりすることなんて無いだろうから、一人称が同じだろうが口調が同じだろうがどうでもいい。文章ではない僕の人生において、一番紛らわしいのは顔か声色が似ている場合だ。その両方が似ていたりしたら、いよいよ区別することが難しくなるだろう。これは逆に文章だと全く支障がない要素になる。文章には顔も声色も全く同じという情報に大した効力はないし、どんなに似ている双子でも名前が違ったら読者には簡単に区別が付く。どうしても区別がつかない事を表現したかったら叙述トリックでも使うしか無い。


 バスが来た。本当にギリギリのタイミングで、僕はバス停に到着できたようだ。早歩きしていなかったら、この真っ暗な中で駅までの決して短くない道程を歩かなければならなくなるところだった。暗いし夜だから車もスピードを出しているだろうし、危険な事この上ない。

 バスの料金は後払い制だ。だから乗ることだけは無料でできる。ただし無料で降りることはできない。それなのに青髪は僕と一緒にバスに乗り込んできた。

「お金持ってるの」

「持ってるよ。持っていなくても、僕は人間を食べることができるからね」


 青髪の金銭の入手経路として最も有力なのは、食べた人間が持っていた財布から抜き取ることだ。いくら見た目が人間でしかないとは言っても、履歴書が書けない経歴しか持っていないからバイトで稼ぐなんてことは不可能だろう。

「いや、書けるよ。履歴書くらい、嘘を書いてしまえばいいんだ。バイトの面接で履歴書以外の身分証明書は求められないからね、よほど危険かよほど重要な仕事でもない限り」

「そうなのか」

 僕はまだバイトをやったことがないからわからない。高校でバイトが禁止されていたわけでもないが、僕はバイトをやらなかった。面倒くさかったからだ。お金が大量に欲しかったわけでもなかったし、お金のかかる人付き合いをしていたわけでもないので。


「まあ、そういう僕もバイトはしてないんだけどね」

「じゃあどうやってバイトの面接の情報を手に入れたんだ」

「今日、僕がどうやって食事をしたのか、覚えてるよね」

「男子トイレの個室に適当な人間を連れ込んで」

「うん。誘惑して、ね。僕には人間を誘惑することが出いる。だから僕は人間から食事やお金や情報を引き出すこともできる」

 じゃあ僕の最初の推測が正解じゃないか。

「半分正解ってところかな。お金だけもらって食べないこともあるから」

 誘惑するだけでお金をもらっているのか。だとしたら羨ましい。それとも誘惑してお金をもらった上でそれ相応のことをやっているのか。だとしたら僕にはとてもできない。


「正解は前者だね。だって僕には下半身に穴なんて開いてないから」

「そう。だったら襲われても安心だ」

「ま、襲われても返り討ちにできるんだけどね。人間に襲われた場合の話だろ?」

「うん」

「だったら襲われることなんて怖くないよ。野犬に襲われたほうが怖い。あいつらは食べようとしてくるから」

 しかし穴の向こうの存在たちの肉は、野生動物にとって食べるに耐えられる味と栄養を蓄えているんだろうか。もし人間の食事にも適していたとしたら、逆に人間から狩られたりしないんだろうか。

「少なくとも僕は大丈夫だろうね。見た目が人間だから」

「これから見た目が人間の怪物が増えるようになったら、人類はもうおしまいだろうなあ」

 人間に似た穴の向こうのなにものかが人間を食べ尽くし、地球上で確認される人間状の生物は穴の向こうのなにものかのみ、という時代が来るだろう。まあ、前に聞いた話によると、人間を食べ尽くしたら穴が別の人間がいる場所に繋がるようになるらしいが。


「そうかもね。まだ穴から出てきていない僕達の仲間が、僕みたいに人間を模すことが有効だと気づいたら、そうするだろうね」

「見た目も変えられるんだ」

「穴から出てきていない時ならね。それもすぐに変えられるわけじゃないけど。人間だって昔は今っぽくなかったんだろ?」

 それは進化の過程のことを言っているのか。

「じゃあ人間に近い猿なんかは食べられるんじゃないか」

 それなら、人間は助かる。猿は助からないが。そして猿が食べ尽くされたらやっぱり人間が危なくなってしまうが。

「猿は人間じゃないから食べられないな。人間が猿から姿を変えたとは限らないだろう?」

 進化論に異を唱える人は未だに存在するらしい。でも僕は人類の進化前は猿だと思っている。

「僕達が食べた人間の中には、猿から姿を変えて人間になったわけじゃない人間もいたよ」

「どういうことなのかわからないな」

「つまり、進化して生まれた人間ばかりじゃないってことさ」

 別の世界のことを言っているのか、試験官ベビーとかのことを言っているのか、青髪が進化論を信じていないのかわからない。

「どれでもいいんだよ。僕たちは人間を食べる、それだけだよ」

「冷たいな」

「だって僕は今、本来なら食べる対象に話をしているんだから」

 バスが駅前に到着した。バスの中でずっと会話していたなんて初めての経験だ。

「そうだ、今度、旅行に行かない? 僕が持っているお金で」

 降り際、僕は青髪からそんな誘いを受けた。

「考えておくよ」

 今度というのが平日だったら、僕は行くつもりだった。だって大学を休めるから。

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