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となりの妹さん  作者: 天城春香
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シンプルで奥深いゲームと泥棒の始まりについて

17.

 無明さんとの対局を終えるごとに、白と黒の枚数の差は縮まってきている。


 もちろん僕がずっと勝ち続けている。無明さんのオセロの弱さを侮ってもらっては困る。どうすればオセロの弱さを侮ったことになるのか、それはわからない。しかしどんなに手を抜いていても、どんなに集中力を欠いていても、僕はずっと無明さんに勝ち続けている。今日は正確に数えていないから、多分十二連勝位だと思う。なぜちゃんと対局数を数えていないのかというと、無明さん相手に集中できる状態じゃないからだ。


 講義が終わり、今日も無明さんがオセロでの対戦を申し込んできた。僕たちは大学図書館の一階の空いているテーブルに向かい合って座り、それから一時間くらいずっとオセロをやっている。


 二人の間にほとんど会話らしい会話はない。お陰で周囲の誰かから文句を言われたりすることはないが、どう見られているのかはまた別の話だ。図書館へ来て勉强をするでもなく本を読むでもなく、ただ淡々とボードゲームを無言でやっている二人というものが、第三者から見ればどんなふうに映っていつのか。やっぱり不気味なんだろうか。でもオセロをやることくらい変でもなんでもないし、人生これまで一度もオセロをやったことがないという人のほうが珍しいだろう。こんなにもルールがわかりやすいボードゲームというのも珍しい。ひょっとしたら神経衰弱よりも簡単かもしれない。

 しかしオセロの世界大会は毎年開かれているし、コンピューターのオセロソフトではまだ絶対最強のものは完成していない。あまりにも簡単なルールのくせに未だに最適解が見つけられていない、という非常によく出来たゲームなのである。

 そんな素晴らしいゲームに僕はなぜ集中できなかったのか、それを詳しく説明しようと思ったが、可能なかぎり詳しく言おうとしても一行で終わってしまう事に気がついて愕然とした。


 僕は無明さんに彼女持ちと思われたことを気にしているのだ。


 どんなに考えても、これ以上の結論は浮かばなかった。僕はそんなに無明さんのことが気になっていたのか。向こうから話しかけてくれた、しかも友好的に話しかけてくれたから勝手に相手の好意を誤解してしまっただけなんじゃないのか。人生これまでもてたことがない人間特有の勘違いというやつなのではないのか。

 そうだろう。きっとそうだろう。それで当たっているだろう。


 だったらその勘違いはさっさとやめてしまうべきだ。勘違いしたまま人と付き合ってもろくな事にならない。勘違いというのは爆弾のようなもので、しかも放っておく期間が長いほど勘違い発覚時のごたごたが激しくなってしまう。だから僕は早々に勘違いをやめるべきであり、無明さんにもちゃんと僕と青髪は付き合ってなどいないと話して勘違いを解くべきだ。


 と、ここまで思っておきながら、僕はずっと無言で無明さんとオセロをやっている。やっている場合じゃないだろう、と言われてもしかたがないことをやってしまっている。いい加減口を開け。よし、言おう。

「サークルとか、どうしてる?」

 と思った矢先に無明さんが口を開いた。

「入ってないな。今更入るのも大変そうだ」

「新歓コンパとか、そういうの終わってそうだしね」


 この小さな大学でも入学式直後にサークルの勧誘は積極的に行われていた。しかしそれも一週間も経てば収まる。新歓コンパも終わっているだろう。それにサークル内でがっつりグループが形成されているだろう。そんなところに今から単身で乗り込むために必要な勇気は生半可なものでは足りない。バンジージャンプとか、その程度では桁すら足りない。

「どこも、今更入りづらいよ」

「なんか、入りたいところも見当たらないんだよね。ボードゲームのサークルがあればよかったんだけど」

 この大学にあるサークルは、野球やテニスといった体育会系、CS研とかいう略さずに言うとコンピューターシステム研究会らしいが実態はなんの研究もしておらずコミケに行ったり同人ゲームをやったりしているオタク系、あとは英検とか簿記とか司書試験とかを受けるための勉强をするスキル系に大別できる。できるんだが、どれも小規模で選択肢が少ない。それにそれぞれに所属している人数も少ないから、サークル内の結束も硬いだろう。その固まった結束の中に今更入るのはとても難しいだろう。


「サークル内恋愛とか、よく聞くけど。全然憧れないんだよね、面倒くさそうで」

 ぼやくように無明さんが言った。無明さんがため息をついているのを見るのは初めてだ。

「ねえ、普通の恋愛ってどんな感じなの?」

 そして僕に質問してきた。

「僕に、それを訊いているの」

「誰の経験でも、参考になるだろうからね」

 ここで誤解を解くようなことを言ったら、無明さんはがっかりするだろう。

「じゃあ、一応話すよ」

 そして僕は嘘をつき始めた。

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