憂鬱な曜日と話が進展しなさすぎることについて
16.
週明けが憂鬱じゃない日もあっただろう。
それは昔のことだ。週なんてものに縛られずに暮らしていた頃は、僕だって週明けが憂鬱じゃなかっただろう。ただ、その期間はあまりにも短く、そして僕はあまりにも幼かった。つまり僕が幼稚園に通い始めるより前の頃は、こんなに週明けが憂鬱じゃなかっただろうなあ、ということだ。
幼稚園、小学校、そして中学高校と、月曜日は常に憂鬱だった。夏休みや冬休みなら憂鬱じゃないだろう、と期待していたのだが、身体に染み付いてしまっているせいか、長期休み中も月曜日になるとなぜかぐったりするようになっていた。月曜日が楽しみだったことなんて一度もない。言い過ぎかもしれないが、そのくらい言ってしまえるほどに僕は月曜日は嫌いだ。
そんな月曜日、僕は憂鬱で押しつぶされそうな身体を引きずりながら大学へ向かった。学生の時分でこんな感じだと、長期休みのない社会人になってしまったら僕は一体どうなってしまうのだろう。年がら年中週一で憂鬱になってしまい、そのうち身体が壊れてしまうんじゃなかろうか。そりゃあいつかは加齢などで身体は壊れて死ぬけれど、月曜日を原因にはしたくない。
混んでいる電車と混んでいるバスに体を揺さぶられ、ちょっと休憩が必要になるくらいの適度な運動をしたくらいの疲労を身体に貯めこみながら大学に到着した。学生課の掲示板に向かう。僕がくける講義で休講になっているものは一つもなかった。どうして講師たちは月曜日という憂鬱な曜日に気を利かせて講義を休むという事ができないんだろう。それはそんなことを考えているのが僕だけだからだ。そうだろうね。
などと自分との会話をしながら掲示板前のスペースを見回してみる。知らない顔がたくさんあったが、無明さんは見当たらなかった。彼女も人間である以上、全曜日に同じ行動を繰り返しているわけではない、ということか。ならば仕方がない、僕は一限目の講義が行われる四階に向かっていった。
講義が終わった。講義が始まって最初の十分くらいは登校と四階までの階段を駆け登った疲れのせいで意識が飛んでいた。ちょっと待て、これって体力がなさすぎるんじゃないか? 階段を登ったくらいで意識が飛ぶほど疲れるなんて、僕は中年か? それとも中年レベルで体力がないのか? ないんだろうな。それか、四階まであるのにエレベーターがないアンチバリアフリー構造のこの大学の学舎に問題がある。そう、エレベーターを設置しないのが悪いのだ。と、責任を転化できる相手を発見すると一生懸命敵視するこの性格は変えなければならない。僕が体力をつければ済む話だ。
二限目にも講義が入っている。今度は一階の講義室だ。大学はこういった教室移動が毎回あるから困る。そして講義のコマの間の休み時間、というか移動時間が十五分しかないから困る。講義の取り方によっては小走りでも間に合わないことがある。対して大きくもないこの大学ですらこうなんだから、都会の広大な大学なんかだと休み時間はどうなっているのだろう。やっぱり二十分とかなんだろうか。それとも三十分か。いや三十分は休み時間としては長すぎる気がする。一コマの講義が九十分だから、合わせると二時間になってしまうじゃないか。
いやそれはいいとして、移動で十五分フルに消費してしまうことに問題がある、と僕は言いたいのだ。移動時間と合わせると、トイレで大ができない。最低でも講義開始時刻には講義室にいないと遅刻か講師によっては勝手にサボり扱いになってしまうから、トイレで遅れるという悲劇を回避するために、せめてもう五分だけでも休み時間を長く取ってみてはどうだろうか、と僕は世間に提示してみたい。一講義の時間が高校までとはまるで違うのだ、そのくらいの配慮は考えるべきだ。それともこれもまた責任転嫁と言われてしまうのか。
そんなことを考えながら、僕は一階のトイレに入った。次の講義が始まるまで、およそ七分である。四階の講義室を出て一階まで階段で降りるのに八分使うのは鈍すぎるんじゃないか。自分でもそう思うが、それは一瞬たりとも休むこと無く動き続けたら遅い、ということであって、講義が終わって疲労困憊して数分間立ち上がることさえできなかった、という僕の体力の無さを考慮すれば四階の講義室から一階のトイレまで移動するのに八分という時間がかかるのは致し方がないことである、と言うことができる。できると思っているのは僕だけかもしれないが。
さっきさんざんトイレで大を済ませるには十五分じゃ短すぎる、と訴えていた僕が果たしてトイレで小をするのか大をするのか、まあそんなことに興味を持つ人は世界中でもごく少数、というか確実に存在しないだろうが、僕は小便器に向かった。今は尻から出したいものなど身体に溜まっていない。
しかし排尿中、妙な臭いが背後から漂ってきた。どこか覚えのあるような臭いである。ここ数日、嗅ぐことの多い死体の腐臭とは違う。しかし知らない臭いではない。そして決して快い臭いではない。
なんだったっけ、と思い出そうとしながら前のチャックを閉めたところで、同時に背後で扉の開く音が聞こえた。大体の男子トイレではそうだが、小便器と大便器の個室は向かい合っている。
「やあ、最近良く合うね」
声をかけられたので振り向くと、個室から出てきたのは青髪のなにものかだった。
個室の中は血まみれだった。
「食事か」
「まあね」
青髪のような穴の向こうから出てきた存在は、人間しか食べることができない。




