妹の暴行と凶行について
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妹がここに現れた理由は明白だった。
妹は一つ目のような怪物、穴の向こうから来たなにものかを殺すために行動している。それ以外の行動を起こしているところを、最近は見たことがない。こっちに引っ越してきた際に僕に蕎麦を作らせたのが最後か。あれ以外の全ての場面で、妹が現れた時は常に穴の向こうのなにものかを殺すために行動している。
だから妹も、この二階の隅でうずくまっている明らかに地球上の生物ではなさそうな一つ目を殺すために現れたのだろう。どうやってこの場所を探り当てたのかは知らないが、なんおなく妹が飼っている喋る猫が関係していそうだ。
「ねえ、お兄ちゃん」
妹は僕に近寄ってきた。
「ちょっと邪魔しないで」
そう言いながら僕の腹を殴ってきた。突然の事だったので僕は何も身構えておらず、殴られた身体は折れ曲がった。そして床に倒れた。
それから数分間、僕は痛みのあまり何も視認できなくなった。ただ、痛む腹を深呼吸することで落ち着けるためだけの数分間を、床に転がったまま過ごした。
なんとか立ち上がることだけはできる程度にまで痛みが引いたところで、やっと視覚や嗅覚といった外界のことを認識する昨日が回復した。
腐臭が部屋内に漂っていた。見回してみると、部屋の隅では一つ目が転がっていた。体の一部、具体的には頭部の右側がえぐり取られていて、巨大な一つ目が身体から離れて転がっている。そして異様な腐臭の出処は、肉体を破壊された一つ目からだった。
そんなどう見ても死んでいる一つ目の脇に、妹が立っていた。一つ目を殺したのは、一体誰なんだろう? などという疑問を持つことすらわざとらしい。どう考えても妹がやったに決まっている。本人に確かめてみる。
「やったの」
「うん」
ほら、やっぱり妹だった。自白だけでは決定的な証拠にはならない、と言われても、妹以外の誰かが殺したという状況証拠が何一つない。
「残念だった?」
妹が問いかけてきた。
「残念って、何が」
「こいつが倒されて」
「そんなことはないよ」
「仲よかったんじゃないの?」
「いや、ついさっき出会ったばかりで、僕は食べられそうになった」
妹は僕が一つ目を始めとした穴の向こうの異形たちと仲が良いと思っているようだ。
「そう。じゃあ、私はあんたの命を救ったんだ」
「僕は命の危機じゃなかったけどね。僕を咥えたそいつは、まずいと言って僕を吐き出した」
「ああ、クズだもんね」
はて、妹は僕がクズである証拠でも掴んでいるのか。掴んでなどいないだろう、今まで大した交流などしていないのだから。じゃあどうして妹は僕のことをクズなんて言うのか。気に食わない相手だからだろう。なんとなく嫌い、とか、自分に都合の悪い行動を取った、とか、その程度のことで人は人を罵倒できる。そしてさっきまで、僕は妹の罵倒、というか正論に泣かされた。完全に優位に立ったと思われている。
「まあ、そうだね。クズだから、僕は今、妹が殺したような奴らに食べられることはないんだ」
「殺すとか言わないでよ。私は退治しただけ」
同じ意味だと思ったんだが、本人的には大切なことなんだろう。ゴキブリの命を奪うことを退治と呼んでも殺しと呼んでも誰も気にしないのとはわけが違うんだろう。
ふと、一つのことを思いついた。妹は殺しているつもりで穴の向こうのものを殺しているわけではない。じゃあ、ちゃんと話が通じる相手なら、問答無用で殺しに行ったりしないんじゃないか。一つ目も会話は可能な相手だったが、しかし見た目があまりにも怪物すぎた。だから、もっと見た目が人間くさい相手なら、妹の方も歩み寄ろうという気が起こるんじゃないか。
「そうだ、ちょっと会って話してみて欲しい人がいるんだ」
人じゃないんだが、人と言っておくことにした。向こうにも人間と名乗るように言い聞かせておこう。
「人?」
「ああ。妹にとって、とても重要な話が聞けると思う」
「でも、お兄ちゃんが紹介するような奴なんて」
「顔は美形だよ」
「まあ、一応顔を合わせるだけなら」
妹は十四歳。顔の良い相手に興味が無いわけがない。




