表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
となりの妹さん  作者: 天城春香
37/69

ある意味素朴な質問と狭い工場について

13.

 妹の仕事を邪魔したのは確かに僕だ。


「確かにそうだけど、とか続けるのは卑怯だし、言ってることがおかしいと思う。昨日倒すのを邪魔した相手を今日になって倒して欲しいとか、都合が良すぎる。私のことを道具とか思わないで欲しい。あと私は退治しているだけなんだから、殺すとか何度も何度も言わないで欲しい」

 故に、妹に青髪を殺して欲しいという頼みごとは一瞬も待たされずに却下された。

「そもそもさ、お兄ちゃん私の事ほとんど知らないよね。私がどんな大変な目に遭っているのかとか、なんで引っ越さなきゃいけなくなったのかとか、それを聞こうともしてないよね。それなのに一方的に自分の要求だけをつらつら伝えてさ、こっちの事情とか一切考えようともしてないよね。ねえお兄ちゃん、あなた家族としてどうなの? 人としてどうなの? 自分に友達がいない理由について、どう思ってるの?」


 などと、大いに傷つけられた上に僕は妹の部屋から追い出された。「嫌だ」の一言だけでは済ませられないほどの不満が、僕に対して溜まっていたようだ。

 こんなことを言われて、僕はどう思っているのだろう。特に最後の、家族としてどうなのか、人としてどうなのか、自分に友だちがいないことについてどう思っているのか、という質問について。僕は答えないまま妹の部屋を出てしまった。


 それらの質問に、例え嘘であっても答えを出せない、僕って一体何なのか。

 愚かなのか。

「みっともない」

 それが答えだった。僕の出した、僕が考えた結果だった。


 部屋に戻ると青髪がいる。だから僕は自分の部屋に戻らず、妹の部屋から出たその足で、とりあえず座れるところを探して歩き回っていた。人通りの少ない道を選んで歩いたのだが、時折人とすれ違った。すれ違う人は僕の顔を見ると引いていた。泣きながら歩いていたのだから、驚きもするだろうし、関わりたくないとも思うだろう。


 人のいない方を目指して歩き続けた。結果、僕は数日前の夜に妹の猫に連れてこられた工場にたどり着いた。

 時刻はまだ夕方にも達しておらず、普通の工場だったら稼働していてもおかしくない時間だった。しかしこの工場からは人の気配が消えていた。大量の死体が転がっていたあの夜以来、こうなっているのだろうか。それにしては立入禁止になっていない。警察の一人も捜査に来ていない。入り口の鉄扉は半開きになっていて、興味のある人は勝手にどうぞ、と言わんばかりに敷地内を見せびらかしている。


 僕は扉の隙間から工場内に入った。人が来なさそうなところならどこでもいいから入りたかったのだ。いい加減泣きっぱなしで顔が痛くなっていたので、僕は眼と鼻と口を袖で拭い、火照った顔に外気を染みこませるように深呼吸をした。


 この工場、昼間に見ても夜間に見てもその不気味さは大して変わらないらしかった。積み上げられた割れたガラス類、それを大雑把に押して運搬するために置いてあるんだろう名前のよくわからない機械、そして中でどんな作業が行われているのかやっぱりわからない黒ずんだ倉庫だか作業場だかわからないが、重たそうな外見の建物たち。地面は舗装されておらず、細かいガラスの破片も砂ごと集められそうだ。


 正面から見ると五角形、横から見ると長方形のそっけない形状の建物は敷地内に三つあり、階段は全て外側に取り付けられている。数日前に見た部屋の中には、一階に通じる階段やはしごは見当たらなかった。一階と二階を行き来するためには、外の階段を使うしかないらしい。

 建物の一階は巨大な鉄製の引き戸で閉じられており、窓ガラスも白いものが使われている上に位置が高く、一階内部を見ることはできない。三つの建物全てが同じ作りをしていて、全ての入り口が封鎖されるように閉じられている。もしかしたら鍵は開いていて、引っ張れば一階の内部を見ることができるのかもしれなかったが、僕はそれをやらなかった。この工場に特別興味はなかったからだ。


 この工場、敷地は工場にしては広くなく、建物とガラスの山と重機置き場を除けば他に何もなく、特に広々としたところもなく、地面に立っている無機物たちが窮屈そうに土地の中に押し込められている、そんな印象を受けた。

 工場を見て回る間、僕は生き物を一つも目にしなかった。自分以外の誰かが半開きの門から入ってくる、なんてこともなかった。猫も犬の一匹も見当たらなかったし、目に見える大きさの虫すら見られなかった。居心地が良かった。ここに生活設備があれば、いっそ住んでしまいたい、と思えるほどだった。ここで全てを忘れて生きて行きたかった。

 などと、世捨て人になりたい願望を抱いている余裕は、すぐに崩された。工場を一周して門の前に戻ってきて、一息ついたところで、半開きだった門がもう少し開かれて、なにものかが入って来た。


 そいつは、その巨大な一つ目のなにものかは、僕を食べたそうな目つきをしていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ