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となりの妹さん  作者: 天城春香
27/69

地階の冷遇ぶりと人気のないフロアでの犯罪計画について

8(5).

 この大学の図書館の地下は地下感に溢れている。


 まず他の階に比べて証明が青白い。これは他の階でも同じ色の電灯を使っているのかもしれないが、地上階と違って日光が入ってこないので電灯を白さが際立っている。そして光源も少ない気がする。文字を目で追うには問題のない程度の光量はあることにはあるのだが、しかしどこか陰鬱さが漂っている。


 人が少ない、というのもそういったムードの演出に一役買っているのだろう。僕が図書館を利用するときはほとんど地下にしかいないのだが、ここでは人が固まっていたところを見たことがない。たまたま人を見かけたとしてもほとんど一人である。すれ違っても話しかけられるなんてことはまずない。


 他の階には人がいる。理由は明らかだ、一階には机と椅子が置かれているし、二階には映画や音楽をゆっくりと干渉するための大きな椅子とヘッドフォンと一つの椅子につき一つの小さなモニターが用意されている。それに比べて一階には、ほとんど椅子が置かれていない。本棚の奥の方の端っこに、三人が横並びで座れるベンチが置かれているくらいだ。これは本当に注意深く探さないと見つからないので、この階層で本を読んでいる人は大抵立ったままか踏み台に使うための洗面器をひっくり返したような形状のものに腰掛けている。


 そんなにも暗い雰囲気なのに、どうして僕がここにばっかり通っているかというと、小説がここにしか置かれていないからだ。一階には専門書しかない。二階にはDVDとCDしかない。小説は全てこの陰湿な地下に埋め込まれている。どうしてだろう、この大学の抱える経営を学ぶ理念に小説などという文系の娯楽は必要ないからか。映画だって似たようなものだろうに、どうしてDVDはあんなにも明るくてくつろげるスペースに置かれているのか。職員か。職員の都合か。この学校の職員は小説を読まないのか。


 などと恨み言を言う相手もいないので、僕は黙って小説の背表紙を眺めることにした。

「地下なんてあったんだ、ここ」

 一緒に地下に降りてきた無明さんはこの場所が初めてだから仕方がないか。


「それにしても、殺人には向いてるよね、ここ」

 確かに適度に明るくて適度に暗くて適度に無機質で適度に乾燥している。淡々と凶行に及ぶには向いている雰囲気なのかもしれない。

「見た感じ、防犯カメラとかもあんまりないし」

 無明さんは天井付近を見回していた。僕もこの階の天井は眺めたことがなかったが、確かに見回してみると、防犯カメラらしきものは見当たらない。

「でも床は絨毯だから、血を流すとばれるんじゃないかな」

 この図書館は近いから地上階まで全て、足音を吸収するためか床はすべて絨毯になっている。

「例えば絞殺だったら、わかんないよ」

「無明さんはここで殺人事件が起きたとでも言いたいの?」

 それは困る。図書館が閉鎖になって、大学内での暇つぶしに困ってしまう。

 それに殺人は図書館ではなく、中庭で行われたはずだ。青いビニールシートが張られていたのは中庭だし。


「じゃあ、殺人について学ぶためにも推理小説でも読んでおこうかな」

 無明さんは「マスカレード・ホテル」を本棚から取り出した。別に東野圭吾を読み込んだって殺人に詳しくなれるとは思えないが。

 まあいいか。僕もここで本を読むつもりだったので「私のいない教室」を取り出し、フロアの隅にあるベンチは照明があまり届いていなくて暗いので踏み台に腰を下ろして読み始める。


 四十ページほど読んだ頃、無明さんに話しかけられた。

「ここ、座るところが無いんだけど」

 だったら一階に持って上がればいいのに。と、思ったので僕はそれを勧めた。

 そしてそのまま、無明さんは本を借りることにして図書館から出て行ったらしい。


 らしい、と言ったのは、僕がちゃんと知っているのは、それから数十分後の走行中にに横転したバスに無明さんが乗っていた、ということくらいだからだ。

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