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となりの妹さん  作者: 天城春香
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幼なじみの非現実性と我が家の交通事情について

8(2).

 母親以外の誰かに起こされるなんてもしかしたら人生で初めてかもしれない。


 幼なじみに部屋で起こされる、なんてシチュエーションは今どき国語の教科書にも載っていそうなほど古典的なものだが、憧れがないわけではない。もちろんその幼なじみは可愛いのである。そして話の最後には結ばれる相手となる。結ばれたあと、大学に入って同棲するようになるとお互いのことが少しずつウザくなっていき結局二年くらいで破局するのである。そうなった時、どちらかが相手に強く依存したままだと相手の喪失に耐えることができず、ストーカーになったり精神を病んだりする。別に精神を病んでなくてもストーカーくらいする奴はいるから、これは分けてもいいだろう。


 ところで幼なじみに起こされる側というのは、家族ですらない他人の異性を自分の部屋に勝手に入れても平気なんだろうか。幼なじみなんだから部屋にも恥ずかしがって隠すべきものなど存在しない、ということなのか。それとも幼なじみがいる人間の部屋には後ろ暗いものが一切存在しないのか。そういう潔癖的なところがあるから異性も油断して部屋に入ることができるのか。だとしたら僕は失格だ、幼なじみを持つ資格が無い。エロ本を発見した母親に対して「性欲のない高校生なんているわけがない」とか言って殴られたことがある。恐らくエロ本を汚いと思ったから殴ったのだろう。おばさんはエロ本を不潔だと思っている。だから嫌っているんだ、きっとそうだ。あんなにきれいな肌を持つ女性が写っている本なんてエロ本かファッション誌くらいしかないのに。


 ん? 話が飛んだ気がする。結局、僕は幼なじみに起こしてもらう資格はないんだろうなあ、ということだ。それと同時に、ものすごく可愛くて異様なレベルの包容力を持った相手でもないと僕と幼なじみにはなってくれないだろう、とも思っている。まあ幼なじみに起こしてもらうところから始まる物語なんて大抵願望充足型のものなんだから、幼なじみの造形だって極端にもなる、非現実的にもなるというものだ。


 そんなわけで、僕は幼なじみじゃない相手に起こされた。もちろん家族でもない。

「おはよう」

 と、肉球すらない柔らかい前足をてしてしと僕の顔に当ててきたのは昨晩押入れから現れたぬいぐるみみたいな形をした黒い猫だ。猫好きの願望は充足されるかもしれないが、僕は猫に起こしてもらいたいなんて願ったことは一度もない。

「あ」


 寝起きの目はぼやけている。それでも部屋に僕と猫以外の異物が存在しているのが分かる。

 軽く目をこすって確認してみると、それは人間ほどもある長さの樹の枝に腕と二本の足がくっついたような、文字通りの棒人間と呼べる異物だった。顔もないので生きている感じはしないが、しかし動いているので何者かではあるんだろう。

「これは?」

「穴を通ったものだよ。大丈夫、話はつけてある。通路を提供してくれている君のことは食べないように、と」

 自宅が通路にされる気持ちは決して快いものではない。でも猫がいなかったら僕はこのなんだかよくわからない細長くてでかい物体に食べられていた、ということになる。黒猫の話を信じるのであれば、の話だけど。


 手足のついた棒は声を発すること無く、窓を開けてそこから出て行った。そこからかよ、と思ったが、玄関から出て行かれても誰かに目撃された時に困るからこっちの方がいいか。

「どうやって話をつけたの?」

 さっきの棒には目も口も鼻もなかった。ついでに指も手首も足首もなかった。コミュニケーションの手段が見当たらない。

「私が会話出来ているのと同じ理由なんだよ」

 そういえば、この黒猫にも目も口も鼻もないのだった。

「じゃあ、テレパシーか」

「違うんじゃない?」

「自分のことなのに知らないんだ」

「君だって、声が口から出る理由は知らないだろう?」

 質問に質問で返すのはマナーとしてよろしくないが、僕は寝起きで面倒くさい会話は避けたかったので、

「そうだね」

 と納得しておくことにした。


「ちなみに、さっきのの他にも4つほど、昨晩のうちに穴を通過したよ」

「そう」

 むしろ知らせないで欲しい情報だった。押入れの穴には、結構頻繁に出入りがあるようだ。

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