ファンタジーの舞台となった我が家について
7(3).
リアリズムってなんだろう。
僕の押入れに入っていたものは、着替え、引っ越してきてまだ箱から出していないゲーム、あとその他よく思い出せないけど多分必要になった時に思い出して取り出すであろう細々としたもの、などが入っていたはずなのに、無明さんが勝手に開けた押入れの中には闇しか入っていなかった。
いや、闇が入っているってどういう状況なんだろう。自分でも言っていてなんだかわからない。押入れの中が真っ暗だった、とかいう表現を使ってもこの暗さは異様だ。だって何も見えない。黒いペンキをむらなく塗りたくったような何もなさ、それでいて奥行きは確かに感じられるというおかしいこの感覚、まるで現実的じゃない。リアリストが見たらきっと現実逃避を始めるだろう。リアリストのくせに現実逃避とか、リアリストの風上にも置けないな。なんで僕は急に架空のリアリストを罵倒したんだろう。
混乱していた。まあ、そりゃそうだ、押し入れを開けたら入れたはずのものが一切なくなっていて、入れたはずのないものが入っていたのだから。その入れたはずのないものが、闇とかいうこの世のどこかにあるようでどこにも存在しなさそうなものだからさらに混乱しているのだ。でも知らない人が入っているよりはましか。いや知らない人が入っていないのはいいけど押入れの中に入っている着替えがどこかに消えているのは困る。
「……遮光カーテン?」
無明さんは振り向いて僕に尋ねてきた。
「そうだとしても、そんなものをここに使う理由がわからない」
「押入れの中に日光に極めて弱い何かが入ってたとか」
「でも、遮光カーテンじゃないよね、これ」
どう見ても黒いカーテンとか、そんなものじゃない。奥行きがある。闇の奥から静かな風が吹いている。不快にならない程度の冷たさの乾いた風で、夏の冷房には最適だ。でも発生源が闇なのは困る。
「ねえ、ちょっと手とか突っ込んでみてよ」
「僕が?」
「だって家主だし」
家主だからこそなおさら不気味でもあるが、しかし無明さんに手を突っ込んでもらうのもなんだか来てもらっておいて気が引ける。それにもしかしたら、振り払ったら晴れるタイプの闇かもしれない。そんな闇知らないけど。
無明さんと場所を交代し、僕が押入れ近く、無明さんがその後ろに陣取った。そして、闇がある、というなんだかよくわからない形容しかできない状態の押入れに手を差し入れてみる。
闇から先の腕が見えなくなった。
「何か感覚、ある?」
「ない。何もないみたいだ」
でも頭まで突っ込んで何か見えるか確かめる勇気はない。無明さんと僕は信頼しあっているわけではないのだ。僕が闇に頭を突っ込んだ途端、無明さんが背中を押す可能性はゼロではない。さすがにこの闇に全身を埋めるのは怖い。
「あ」
無明さんが何かに気がついた。
「何?」
「ねこ」
無明さんが下を指さしているので床を見てみると、闇から黒猫が出てくるところだった。フォルムは完璧に猫だ。猫以外の何かの動物に例えることはできない。
しかしフォルムだけで、毛が生えているようには見えないし、目も口も鼻もないし、顔は過度に丸っこい。つまり簡単に書いた落書きの猫にそっくりなのだ。
猫は僕達の視線に気がついたのか、後ろ足を曲げてお尻を下ろし、僕達を見上げた、ような気がした。目がないのでどこを見ているのかわからない。
「安心していいよ。君たちは食べない」
この猫も喋るのか。




