重い人間の付き合いづらさと私生活に割り込む非現実について
7(2).
大抵の人は友達じゃない人を蔑視しても何も感じない。
僕の家までオセロをやるためにやって来た無明さんと僕は既に友達になっているかというと、そうでもない気がする。そもそも僕には友達を定義することができない。今まで友達がいなかったからだ。とか、そんなふうに友達とはなにか、みたいなことを考えてしまうような奴には友達はできないと思う。会って話して喧嘩しなかったら友達、程度の軽いノリの人間のほうが友達ができやすいのだろう。誰だって重い奴に比べれば軽い奴のほうが付き合いやすいだろうし。
でもさっきの無明さんの表情は、友達以外の人間を蔑視するそれとも違うような気がした。表情から人間のすべての感情が読み取れるなんて僕も思っちゃいないが、しかし無明さんのそれは恐怖の対象を見ているもののように思えた。幽霊を見るような表情、と言えばさほど悪い印象は与えないのに、ゴキブリを見るような表情、と言い換えるとすごく感じが悪く聞こえるのは何故だろう。やはり幽霊を見た人よりゴキブリを見た人のほうが世の中には大分多いのがその原因の一端であると思われる。
僕の部屋に入った無明さんは、隣から聞こえてくる、恐らくガラスを取り付けているのであろうガコガコした音がちょっと気になるらしく、少し静かになってからじっくりとオセロを始めよう、と提案してきた。僕はオセロに情熱を燃やしているわけではないので、構わないと答えた。
「ところで、私が座ってるこの角度からだとエロ本がよく見えるようなんだけど」
無明さんは床に腰掛けていたが、そこからは本棚が視界に入るようだった。
「自分でもよく見えるようにしてるんだ。大切なものだから」
「エロ本がねえ」
「布団やコロッケなんかと同じくらい大切だよ」
「うーん……いや、絶対どっかに隠してるのもあるはず。ちょっと探していい?」
「いいけど、何を見つけても軽蔑しないと誓ってくれるなら」
「……そんなものすごいものが隠されてるの? この部屋」
「無明さんは、何を見つけたら軽蔑する?」
立ちかけた無明さんは座りなおして数秒目を閉じ、そして結論を出した。
「私の盗撮写真とか」
「この部屋にはプリンターが無いから、それは用意できないな」
「え、プリンターがあったら用意してたの?」
「しないと思う。知らない人だし」
でも知らない人を尾行し、盗撮し、プライベートを詮索し、ただそれだけで満足するという趣味があるのは知っている。特に性欲を満たすわけでもなく、相手が同性でも何でもよく、ただプライベートを暴いた、ということにのみ重きを置く。僕はこれが真の覗き趣味である、と思っている。
「そんな覗き趣味の真髄を知ってるあなたが、私を盗撮してないって言い切れる?」
「していないね。どれだけ探しても、無明さんの写真をこの部屋から見つけることは不可能だ」
無明さんの表情がまた歪んだ。もちろんポジティブな感情を表すものではないのだろう。
「私の写真がないとしても、なんか怖くなってきたから詮索させてもらうよ」
「いいよ」
ここは僕の部屋なんだし、無明さんが見つけるであろうものは、僕自身が持っていて当然と思うものばかりだ。その中のどれかが原因で無明さんが僕を嫌いになったら、それは仕方がない。ほとんど知らない人のために、自分が持っていて当たり前のものを手放すことはできない。
「えっと、じゃあまず押入れから」
僕の部屋の押入れには、引っ越してからまだ箱から出していないゲームと着替えが入っている。ちなみに布団は、今も出しっぱなしだ。今日無明さんが来ると前もって知っていれば、ここに布団を入れていたかもしれない。でも今日になって家を出てから無明さんがここに来ると決まったのだから、出しっぱなしでも仕方がない。もっと細かい人なら「ちょっと待っててとか言って布団片付けるくらいのことやっとけよ」とか怒りだすんだろう。無明さんの心が広くて助かった。
「……なにこれ」
押入れの扉を開けた無明さんは固まっている。僕が持っている服のセンスがありえないほどダサいとか思ったのだろうか。
僕も無明さんの押し入れを、その背中越しに眺めてみた。
「知らないな、これは」
そこには闇しかなかった。




