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となりの妹さん  作者: 天城春香
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若年齢の一人暮らしと起動が終わらないパソコンについて

1(2).

 妹の引っ越し風景、妹が引越し屋を監視しているかのような光景を脇目に、その隣の自分の部屋に入った僕は、パソコンの電源ボタンを押し、起動までの時間を利用して十四歳の人間が実家から離れたアパートで一人暮らしをする可能性はあるだろうか、あるとしたらどんな事情が重なるべきだろうか、考えてみた。


 十四歳の人間の一人暮らし。これはまったくもって考えられない、ありえない、という程のことではない。十八歳の人間が一人暮らしをすることは特に不思議じゃないのだ、それがたったの四年早まっただけじゃないか。と言う考え方もある。しかし十四歳といえばまだ中学生だ、義務教育真っ最中のまだ精神的に未発達な人間を親元から話して一人で生活させるなんてとんでもない、常軌を逸している、という考え方もある。こっちはちょっと年寄りじみているだろうか。


 僕は現在十九歳で、十代だ。妹は十四歳で、やはり十代だ。同じ十代なんだし、自己責任能力というか、生活力さえあれば十四歳だろうが十三歳だろうが九歳だろうが一人暮らしをしたっていいじゃないか。その生活力の中に「仕送りに頼らずに自分のかせ費のみで生活する」が含まれていなくたっていいじゃないか。僕だってバイトをやっていない、仕送りだけで生活している。妹だって仕送りだけで生活していくつもりなんだろう。十四歳ができるバイトなんて限られている。というか表社会には存在しない。


 じゃあ裏社会で稼いでそれを生活費に当てるつもりなんだろうか? 僕は妹のことをあまり詳しく知っているわけではないので、妹に彼氏がいるのかどうかすらわからない。その彼氏が裏社会の仕事を斡旋して、セックスドラッグまたはロックンロールみたいなことをやらせて稼いでいる、なんてことを否定する事もできない。見たことがないものというものには無限の可能性が存在している。シュレディンガーの箱のなかの猫は生きているかもしれないし死んでいるかもしれないしゾンビになっているかもしれないしジバニャンになっているかもしれないのだ。


 というわけで、パソコンが起動するまでの時間を利用して妹が僕の隣の部屋にいきなり一人で引っ越してきた理由を考えてみたのだが、やっぱり確かめるということを全くやっていないため、結論は「わからない」以外に出てこない、ということになる。この結論が出るのはわかりきっていたことだ。じゃあなんでこんなことを考えたのか。パソコンが起動するまで暇だったからだ。暇なんだから何を考えたっていいじゃないか。


 しかしパソコンはまだ起動が終わっていなかった。このパソコンは実家から持ってきた親のお下がりなんだが、OSがどうとかよりもまずHDの性能に問題がある。お下がりである以上もちろん型落ちのものであり、あらゆる処理が遅いのだ。やっぱり入学時に強制的に大学に買わされたノートパソコンを繋いだほうが早かっただろうか。でも後十秒待てば起動するかもしれない。でもなあ。……とか、こんな風に待っている間に僕の人生はなんの波乱もないまま終わってしまうかもしれない。


 玄関のドアがノックされた。このアパートにはインターホンがあるのに、どうしてそれを押さないんだ? などとドアの叩き主に警戒心を抱きながら、僕はまだ起動が完了しないパソコンから離れて玄関に向かった。


 ドアを開けると妹が立っていた。


「とりあえず、ダンボールは全部部屋に入れた。そして引越し屋さんは帰った」


「自分で入れたんじゃないよね」


「それで、引っ越しといえば引越しそばなんだけど」


 と、言いながら妹は財布を取り出し、そこから千円札を出して僕の方に突き出した。


「私、このへんの地理に詳しくないから、買ってきてくれる?」


 引越しそばってそういうシステムだったっけ、と僕は疑問を抱いたが、


「お釣りはあげるから」


「スーパーに行ってくるよ」


 僕は千円札を受け取り、そばの乾麺が一番安いであろうスーパーへ出かけることにした。

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