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となりの妹さん  作者: 天城春香
19/69

嫌いなものを力説するみっともなさについて

6(3).

 大学の講義が今日はもうない、という状態を「放課後」と読んでいいのだろうか? 別の呼び方があったような気がする。


 今日は三限で受けるべきすべての講義が終わった。多い曜日だと五限目まであったりするので、そんな日はこの時期でも終わるころには暗くなっていることがある。大学生は気楽だとかどこの誰が言ったのか、言泉を突き止めてみたい。そしてその無責任な言説を世に広めた罪として、どこの誰とも知らない人に腹を刺されてしまって欲しい。せっかく一日中学校に拘束される高校を出たと思ったのに、大学でも結局拘束時間が長いじゃないか、話が違うじゃないか、と誰かに訴えたい気持ちでいっぱいである。三年生からは授業に空きが頻繁に発生するようになるというが、その代わり就職活動の準備のための時間が設けられるという。やっぱり暇じゃないじゃないか。


 そんな大学生たちは講義が終わっても暇ではない。直ちに家に帰りたい、という気持ちはサークルにでも入っていない限りみんな一緒らしく、三限が終わった直後のバス停も既に長蛇の列ができていた。一体いつならばここから帰るためのバス停は空いているのだろうか。四限まで講義があった昨日も混んでいたし、この大学は最大でも五限までなので、そんな日はもっと混んでいるだろう。二限目が終わった直後、昼休み中なら空いているだろうか。いや、そもそもここを通るバスの本数が少ないのではないか。もっと頻繁にバスを走らせれば、こんなにも長い列に並ばなくて済むのではないか。


 しかもこの列には頻繁に割り込みが発生する。友達がいる辺りには割り込んでいいらしいのである。お陰で列は後ろに伸びるだけでなく、中央から膨らみもする。そのせいで乗りきれず、バスを一本遅らせなければならないことすらある。理不尽である。僕に友だちがいないことが悪いとかそういう方面の意見を交換したいのではない、とにかく理不尽である。列の横入りは悪徳である、という世界共通の道徳観すら守れない人間ばかりがバスの列に並んでいる。これを理不尽と呼ばずになんと呼べばいいのか。獣の群れとでも呼んでやろうか。それならばトイレの「便座以外の場所で排泄しないで下さい!!!」という張り紙の理由も解明できる。なぜなら獣の群れだからである。人間の言葉や常識が通じないのは当たり前である。人間じゃないのだから。


 などと人間扱いをやめてしまうほど僕は行列が嫌いで、並んでいるとイライラしてくる。もちろんこんなバス停の行列よりも遥かに行儀の良い行列、例えば話題のラーメン屋の行列とかでも僕は並びたくない。十時間並べばお金がもらえる、とかでもない限り、僕は行列に並びたいとは思わないだろう。というかお金が発生するならそれは列並びというよりサクラのバイトか。


「さっきから吐く息が全部ため息になってるように見えるんだけど」

 最近僕を見かけるたびに話しかけてくる無明さんが、僕を見つけて近寄ってきた。今日は講義が一コマも被らなかったので朝以来の再開である。

「行列に並びたくないんだ」

 マナーの悪い行列にひたすら並び続ける、しかもその後お金まで取られる、となれば、明るくなる材料が一つもない。

「じゃあ、私の車に乗って行く?」


 鏡を見たわけではないから自分じゃ確認できないが、それを聞いた瞬間の僕は目を剥いていたと思う。

「そんなに驚かなくても。だって十八歳以上だし」

「オセロ以外のことも勉強できるんだ。意外すぎて腰が砕けると思った」

「私の知識は手広いよ?」

 無明さんは両腕を広げた。一見したところ、恋人が抱きついてくるのを待っているようにも見える。でも言っていることは脈絡がないのでよくわからない。

「じゃあ乗せてもらおうかな」

「ん? お願いにしちゃあ気持ちがこもってないようだけど?」

「目に鮮やかな新緑の候、貴殿におかれましてはますますご勉学に励んでいらっしゃりわたくしなぞはただただ頭を垂れるばかりの今日このごろですが、本日無明様がご提案されましたお車に乗せていただける件に関しましてわたくしの愚見を述べさせていただきます。長時間バスの列に並ぶこと、そして直ちに車に乗せていただくこと、この二つの交通手段を慎重に比較検討させていただきましたところ、後者のほうが時間面精神面そしてなによりそちら様のご行為を無下にする訳にはいかないという判断を取らせていただき」

「乗せてくださいとかでいいんだけど」

「乗せてください」

「苦しゅうない」

 無理矢理事務連絡っぽく話すのはとても苦しかった。とにかく、僕は無明さんの運転する車に載せてもらえることになった。


 数分後。

「今、信号機赤じゃなかった?」

「え? ああ、大丈夫だよ、事故らなかったし」

 死ぬな、と僕は思っていた。

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