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となりの妹さん  作者: 天城春香
12/69

ある土地の交通手段と体育座りの理由について

4.

 たった二駅。それだけの距離なのに、この電車に乗るとぐったりしてしまうのはどうしてだろう。まだ身体が電車に毎日乗るということに慣れていないからなのか。僕の地元では電車は日常的な移動手段ではなかった。田舎だったから、移動といえば車、最低でも自転車、出かける時間がきっちりと決まっている場合はバス、他県へ行きたいときは飛行機を使うのが普通だった。電車を使うのはどうしても電車でなければいけない場所があり、そこへ行くための時間管理をしっかりとしている場合だけだ。僕の実家の最寄り駅には自動改札すら最近までなかった。僕が大学に通い始めた直後に、ついに自動改札が導入されてニュースになったらしい。そのくらいの田舎から僕はこの東京の隣の県まで大学に通うために引っ越してきた。


 でも疲れる原因は電車にのるという行為だけでもない気がする。この電車、混んでいるからかマナーが悪い。結構な人数が立って乗っているのにドアに背を預けてあぐらをかき、しかも音漏れしまくるイヤホンで音楽を聞いている奴がいる。どこかからファンデーションの臭いが漂ってくる。誰かが誰ともわからない相手に対してなんだかよくわからないお今日のような話をしている。混みすぎて変な奴が紛れ込み、しかもそれが密封されている。これが快適なわけがない。もっと遠いところから通学している学生は大変だ。


 でも二駅なので、乗車時間は十分もない。これだけの距離のために定期券を買うのは躊躇われたが、しかし週に5日大学に通うとしたらたった二駅でも結構な支出になるので定期券を買うことにした。二年生以降になれば講義のない日が出てくる、という噂をネットで見たことがあるが、本当だろうか。僕にはこの大学の二年生に知り合いなどいないので、そう言った異情報が一切入ってこない。


 駅から出れば、あとは家までそう遠くもない。途中、アパートまでの道のりの中で通過する商店街でアジフライとメンチカツを買ってからアパートまで一直線に歩いた。このお惣菜は今日の晩御飯のおかずにする。野菜がどうとか栄養バランスがどうとか考えるのは面倒なのでやらない。今日くらい野菜を食べなくても今日死んだりはしないだろう。


 僕の部屋はアパートの二階にある。一階だったら家賃はもっと安かったんだが、埋まっていた。でも一階だと窓が開けられなくて夏なんかに大変なことになりそうだ。だからこれでいいんだ、ということにしている。


 階段を登り、僕の部屋に向かう。その僕の部屋の一つ手前、僕の部屋の隣が妹が昨日引っ越してきた部屋だ。

 そしてドアの前では妹が体育座りをしていた。

「通せんぼ、じゃあないよね」

 妹がこういった細かな嫌がらせをする人間かそうじゃないのか、よく知らない僕には確信が持てなかったが、一応善意を信じてみた。

「うん。鍵、落としてね」

 部屋の鍵を落としてしまって自分の部屋のドアが開けられないらしい。

「大家さんち、知ってる?」

 このアパートに大家さんの家なるものは存在しているのか。僕はそれを知らなかった。なぜなら仲介業者から鍵を手渡されただけだから。誰が管理しているのかも知らない。管理している会社しかわからない。


「その会社って、どこ」

「行ったことないの?」

「ない。手続きとか全部親がやったから」

 この妹はそんなに親に愛されていたんだろうか。他の理由も考えられないこともないが、でも本当に愛しているなら十四歳の娘をいきなり地元から遠くはなれたところに一人暮らしさせたりしないだろうし。

「じゃあ、会社に行くしかないな」

「だから、それどこ」

「携帯は?」

「家の中」

 じゃあ調べようがない。


「ここから本屋まで出て、そこで左に」

「連れてって」

 道筋を説明しようとしたら、同行を命じられた。

「私、地図読めないから。連れてって」

 頑張って読めるようになればいいのに。と思ったが、別にこれからの時間がとても貴重というわけでもないし、アパートの会社への道案内くらい大した時間も取られないし、僕は妹を管理会社まで連れて行くことにした。

「その前に、アジフライとメンチカツを部屋の中においてくるからちょっと待ってて」

「…………」

「あげないから。自分で買ってよ」

「…………」

「あげないから」

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