友人に嘘がばれて異世界転生憑依したら美人メイドさんになったが罠も付いてきた
それはちょっとした雑談から始まった。
「俺、某小説サイトで小説書き始めたんだけどさー。ほら、お前が前にやってるって言ってた」
「あぁ。あっこな。で、手ごたえはどうよ?」
「それが……全然さっぱりなんだ。某ちゃんねるの底辺スレに入り浸ってばっかだぜ」
「そうかぁー。俺もあのスレには良くお世話になってるよ」
「お! お前も底辺の仲間か」
「そうそう、仲間仲間」
(マズい……言えないぞ。ちょっと前に卒業してたがずっとスレに入り浸ってるなんて……)
そんな感じで、俺は底辺住民の振りを続けてあのスレに居ついている。
だってなー、意外と勉強になるんだぜ? 他の住人の晒を読んで、その晒しの批評を見て、自分にも当てはまるような点とかいっぱいあるし、今の作品を改稿するのはもう無理だが、次回作に繋げるヒントがいっぱいあるんだよ。いや、マジで。
ついでに人の晒しに批評する事で、今まで見えてなかった自分の悪い点も見えちゃったわけよ。
目の前にいる友人はおっぱい星人で、とにかくおっぱいをテーマにした小説が書きたいって事で奮闘しているらしい。
さて、俺は今、オタク仲間の友人とファミレスで飯を食っているわけだが、話の流れでこいつが俺ん家に来る事になってしまった。
マズいぞ。PCには触らせないようにしねーと。
ファミレスを出て自宅へと向かう。一人暮らしの俺は、安いボロアパートの二階に住んでいた。仕事はちゃんとしてるんだぜ。アルバイトの掛け持ちだけどな。
「で、お前って某サイトで何書いてるか見せてくれよ」
「おい、いきなりかよ。それは困る。マジ困る」
先手を打たれた。まさかこう来るとは思わなかったんだ。
いや、よく考えればこうなることは解ってたはずだよな。ファミレスで小説話してたんだから、解ってたはずだ。家に遊びに行く話が出た辺りで、俺は急用を思い出して逃げるべきだったんだよ。なのに同じ趣味を持つ友との会話がつい面白かったもんだから……
そう。
俺は墓穴を掘ったんだ。
そして――
「お、お前……俺を騙したのかよ!」
「ち、違う! 俺はいつだって心は底辺なんだ! っつーか、このブクマじゃ大手を振って卒業生アピールできねーよ!」
「うるせー! 例え1でも100を超えてりゃ卒業生なんだよ!」
もう完全にダメだ。俺は貴重な友を失うのか?
「ど、どうすれば許して貰えるんだ……」
「転生しろよ」
「え?」
転生ってどういう意味だ? いや、某サイト独自に存在する何かか?
「転生ってどうやってやるんだ?」
「まずアカウントを破壊します」
「無理です」
何を言い出すんだこいつは。
「次にトラックに轢かれます」
「痛そうだな。大丈夫なのか?」
「大丈夫だ。心配ない。小説で読んだから間違いない」
「そ、そうか」
どういう意味で大丈夫なんだ? いやむしろ俺の言ってる「大丈夫」とは違うだろ。
けど……まぁ、なんだ。
もしかして、本当に転生できるかもしれないな。
とかなんとか思ってると、突然物凄い音が響いた。響いたというか地響きだな。それとほぼ同時に壁がぶち壊れ、トラックが見えたような気がした。気がしたけど、次の瞬間には俺の視界は暗転して、全身を強く打ちつけたような痛みが走ったのまでは覚えている。しかし、その先が無い。
気づいたら俺の目の前には髭モジャなじーさんが立っていた。
辺りは白一色の世界だ。そこにポツーンとじーさんが立っている。頭には天使の輪っかみたいなのが浮かんでいるのが見えた。
ん? まてよ。この展開はまさか?
「わし、神様じゃもん」
じゃもん?
「悪かったもん。わしのくしゃみが原因で、お前さんのアパートの前をはしっとった大型トラックが、風で煽られてのお前さんの部屋に突っ込んでしまったんじゃもん」
そして死んだ俺は、神様とご対面……か。
「そこでじゃ。わしのせいで死なせてしもうたのは、ちと可哀想じゃからの。別の世界に転生させてやりたいんじゃもん」
望む所だぜ! 勇者か? それとも魔王か? いや、もっと気楽な職業がいいな。
お、そうだ! 俺には夢があったんだ! 人気作家になって書籍化の夢が! 新しい世界で地球の話を書けば売れるんじゃね? なんなら日本の昔話をアレンジしたのとかで、絶対受けるだろ。なんて新しい世界の方には無い物語だからな。
いける!
これは絶対いける!
「ただし、直ぐには器が用意できんから……ちょっとした手違いで魂が成仏してしもうた者の体を使ってほしいもん」
言ってる意味が判らないんだが……なになに?
事故で大怪我を負った人の魂が、肉体から離れてしまって、それを元の体に戻そうとしたら、手違いで成仏させてしまった? 体のほうはまだ生きてる?
おいおい、この神様大丈夫かよ。
しかし、普通の転生とは違うよな。ある意味転生憑依みたいなものか?
ベビー期間や幼児期をかっ飛ばせるのはいいかもしれない。
そしてあっという間に書籍化大先生だぜ。
「それと、お前さんが今喋れないのは、このシーンを少しでも早く終わらせたいからじゃもん」
な、なんだってー!!
俺は久々になんだってAAを脳裏に思い浮かべた。
だがAAが一瞬にして消え去る。
俺の意識が薄れていったからだ。
転生か……いや、転生憑依か?
とにかく、どんなヤツに転生憑依するんだろう? できればイケメン希望だけどな。
どんどん意識が遠のいていく。
深い眠りに尽くような感覚だな……
「で、ここはどこだろう?」
俺は唐突に目を覚ました。さっきまで寝るときのように意識がなくなる感覚だったのにな。
俺の視線の先には天井がある。どうみても現在風な天井じゃない。なんたってランプだからな。
これは期待できそうな世界に転生できたかもしれん!
俺は期待に胸を膨らませて、居てもたってもいられず起き上がった。
起き上がると正面には鏡が飾られているのが目に入る。期待を込めて鏡をガン見すると……
そう。俺の胸は期待以上に膨らんでいた。
たぶんDカップ以上だな。
俺が知るアイドルのバストサイズより大きいという事だけは解る。そのアイドルがDカップなのだ。
「転生……だがTSかよ!?」
声も見事なまでに女の物だ。
鏡を凝視すると、そこには金髪碧眼の美女が映っているではあーりませんか!
ただ残念ながら俺好みのロングヘアーではなかった。ボーイッシュに短くまとめられたヘアースタイルだ。やや寝癖も付いている。長いこと寝ていたんだろうなぁ。
細めのキリっとした目はキャリアウーマンをイメージさせている。
きっとSだな。Mじゃねーよな。いや、むしろこの容姿でMだと、それはそれで美味しいかも?
そんな不埒な事を考えてると必ず誰かが登場するもんだ。
「マリエルさん? まぁ、やっと目を覚ましたんですね!」
看護師っぽい女の人が現れた。なかなかの美人だ。俺ほどでもないがな。
「お、私はどのくらい眠っていましたか?」
ついクセで「俺」と言いそうになってしまったぜ。
しかしTSかー。やっぱ女の振りしてたほうがいいんだよな?
お、そういや女に生まれ変わってしまったんなら、それはそれで女体の神秘とかをじっくり観察できるじゃねーか! そして本格的なTS小説だって書けるかもしれないぞ!
「――日ですが……聞いてますか?」
おっと、全然聞いてなかった。
「すみません。まだ頭がぼぅーっとしてて」
「まぁ、そうですよね。八日間も意識を失っていらっしゃったんだもの」
「八日か……」
そういえばなんとなく体の節々が痛むな……事故ってじーさん言ってたが、何の事故だったんだ?
「でもお二人とも助かってよかったですね。雨でぬかるんだ山道から馬車ごと転落したんですから、助かったのが奇跡ですよ」
馬車の転落かー。ってか二人?
「お嬢様は三日前にお目覚めになってますよ」
お、お嬢様!?
マリエルは名門アントワール家に代々仕える由緒正しいメイド一家の出だ。年は今年で二十五歳。もちろん独身。アントワール家には十三歳の頃からお仕えし、当時生まれたばかりのエンジェラお嬢様の専属世話係を務めている。
なんだこれ? 突然俺の脳裏にキャラ設定みたいなのが浮かんできたぞ。
いや、記憶だ。これはマリエルの記憶なんだ。
ふんふん。なるほど。
メイドか……まぁいいか。お嬢様とメイドの話も需要ありそうだもんな。
ただ気になるのが、お嬢様の容姿にだけフィルターが掛かっている事だな。まさかマリエルって人がフィルター掛けたくなるほど不細工とかじゃねーよな?
もしそうだとしたら、俺は全力で別のお嬢様を探す旅に出なければならない。どんなことがあってもだ。
俺はお嬢様を確認する為に、看護師に声を掛けた。
「お嬢様の所へ案内してください」
「無茶よ。今だって起き上がるので精一杯なのでは?」
看護師に言われてみて始めて気づいた。たしかに体のあちこちが痛い。
だがしかし、これは重要な事なんだ。俺のこの世界での人生を大きく左右する、尤も重要な事なんだ!
「お、私の事なんてどうだっていいんです! お嬢様の無事をこの目で確かめるまで、私は眠ることなんて出来ません!」
ある意味嘘ではない。
俺の真剣な表情を見た看護師は、溜息を付いて苦笑いを浮かべた。美人のこういう表情は良いものだ。しっかり描写できるように観察しておこう。
「わかりましたマリエルさん。あなたのお嬢様に掛ける情熱は、死んだかも知れない状況を経験しても変わらないのね。なんとなく安心したわ」
そんなにこのメイドさんはお嬢様に入れ込んでいたのか。なのに容姿にフィルターを掛けるとは……けしからん。
俺は看護師に肩を借りて車椅子へと腰掛けると、そのまま看護師に椅子を押して貰って部屋を出た。
真っ直ぐな廊下。長いな。かなり大きなお屋敷のようだ。要観察だな。
いくつかのドアを取りすぎると、ようやく目的の部屋へと到着した。
さぁ、お嬢様とのご対面だ。
美少女が出るか、チビブサが出るか。
「お嬢様? マリエルさんの意識がお戻りになりました。どうしてもお嬢様にお会いしたいといって……」
「入って」
看護師がドアをノックしてそういうと、少女らしいトーンの高い声が聞こえた。声だけ聞いてると、俺の想像では美少女なんだけどなー。
「失礼します」
看護師がそう言って部屋へと入る。部屋はかなりの広さがあったが、散らかり放題になっているのもあって、実際よりは狭く感じられた。なんというか……床には何十枚もの紙が散乱してるんだよ。丸められたやつとか破られたやつとか。
「マリエル! やっと会えたんだね!!」
突然散らかった紙の上を、ガサガサ言わせながら女の子が駆け寄ってきた。
どうやら手を洗っていたみたいで、びしょ濡れ状態で俺に抱きついてきた。おいおい、冷たいだろ。ってかほぼ真横から現れたせいで顔を見れなかったじゃねーか。
「マリエルと二人っきりになりたいの!」
お嬢様がそう言うと、看護師は「ふふふ」と笑いながら部屋を出て行った。
なんだ、この胸のトキメキは。今から俺達はどうなるんだ?
そう思った矢先――
「あふぅ……」
俺の口から、俺の物とは思えないような声が漏れ出した。いや、元々の俺の声とはまったく別物なんだけどさ……
「あ……んふぅ」
まただ。どうなってるんだ!? しかもなんか胸のあたりが変に感じるぞ!?
「おおぉふ。やっぱ巨乳すげー」
トーンの高い少女の声が聞こえた。お嬢様の声だ。
って、お嬢様が俺の乳を弄ってやがるだとぉぉぉぉぉ!?
ど、どうすんだこれ?
このままだと……俺は全年齢向け小説が書けなくなってしまうじゃねーか!?
「マリエルって超俺好みぃー」
もみもみ――もみもみ――
「あふぅーん」
って俺好み? 俺? お嬢様が?
マリエルの記憶にあるお嬢様は自分の事を「エンジェ」と呼んでいたはずだが?
それになんだ、この執拗なまでに乳を弄る行為は……これじゃまるで……
「ひでよし?」
「なんだ?」
……こいつ……アパートに来てた友じゃねーか……ってかこいつも死んだのか? そして転生したのか? よりにもよってお嬢様に?
「え? おま……マリエルがどうしてその名前を?」
今更お嬢様ロールプレイを開始した友=お嬢様は、俺の乳に埋めていた顔を上げて俺の目を見つめた。
やべー……美少女だ……かなりの美少女だ。
金髪というよりは、やや栗毛に近い色の髪は緩やかなウェーブが入っており、長さは腰のあたりまである。瞳は大きく、やや垂れ目気味の菫色だ。
一見するとぽわわんとしたイメージにも見える容姿なんだが……
「おい、ひでよし。いつまでも人の乳を揉んでんじゃねーよ」
「……だ、誰だ!? 俺のマリエルさんに何をした!?」
「たぶん、お前と同じ理由で転生した俺だ」
あのじーさん……メイドとお嬢様の両方の魂を成仏させやがったな。
「……嫌だあぁぁぁぁ! 俺のマリエルさんが時雄なんて嫌だあぁぁぁぁぁ!」
「俺だってお前がお嬢様とか嫌だあぁぁぁぁぁぁ!」
俺の前世の名前は村上時雄。今世ではマリエル。
名門アントワール家に代々仕える由緒正しいメイドで、巨乳美人だ。
お仕えするのは超美少女のお嬢様。
だが……中身は前世での友人ひでよしだった。
「っつーわけで、お前のおっぱい揉ませろ」
「どういう訳なんだよ」
「その辺のお姉さんのおっぱい揉んだら犯罪だろ?」
「当たり前だ」
「でもお前は男なんだから問題ないだろ?」
「どういう理屈だよ」
「それにお前の主人は俺だぜ? お嬢様なんだぜ? 一流のメイドなら主人の命令は絶対だろ?」
「っぐ……」
「まぁ、俺が男の体に転生してたんなら無理強いなんてしないがな。エロゲじゃないんだし」
「女の体だからいいってのか?」
「その通りだ!」
「けど、そういうエロゲもあるだろ? 女同士とか」
「俺はやった事ないね! さぁ、揉ませろ!」
「い、いやだあぁぁぁああぁぁぁぁっあ……」
俺は異世界に転生して、人気小説を手がけ、書籍化作家になるハズだった。
どうしてこうなった?