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13話 ああ、終わりましたよ

 翌日の早朝。

 まだ人々が深い眠りについている時間に、カナタは目を覚ました。


「シスカ」


 そして隣で寝ているシスカを揺すりはじめた。

 翌日の戦闘を万全の態勢で行うため、昨晩は普通に寝ただけだ。

 いかがわしいことは何もしていない。


「……うにゅ?主しゃまぁあん……」


 しかし、シスカは妙に艶っぽい甘え声をあげてカナタにしなだれかかって来た。

 襲うぞこの野郎が、と考えながらも思いとどまり、カナタは更にシスカを揺すり続けた。


「起きろ、目を覚ませ」


 「あっは~ん」とか言い出しそうな顔をしていたシスカの顔に、徐々に理性が浮かび上がってきた。


「…………ハッ!?」


 ようやくベッドの誘惑を振り切ってくれたようだ。

 シスカは目を覚ますと、いそいそと着崩れた服を直した。


「起きたか」


 カナタはそれを見てからシスカから離れた。


「……なんじゃ?」


 シスカはまず外を見て、未だに真っ暗であることを知ると、不満そうにカナタを見た。

 久々に味わえた、屋根のあるところでの睡眠を止められて、機嫌を損ねてしまったようだ。

 しかし、その目はすぐに驚愕に見開かれて、次に透明な目になった。


「準備しろ。行くぞ」


 カナタは準備万全だった。

 もう見るからにやる気に溢れ、あえて言うならば遠足前の幼稚園児の様だった。


「ああ。やっぱりの……」


 シスカはと産めない目のまま、諦めた様に溜め息を吐いた。


「しかし、何でこんな時間から」


 シスカは唇を尖らせて不満を垂れた。

 気を抜けば、今にも溢れそうな欠伸を噛み殺しながら。


「止められそうだからな」


 カナタはバードム達の会話を思い出し、言い放った。


「まあ、そうじゃろうな……」


 シスカも納得した。

 行こうとすれば確実に止めようとするだろう。

 しかしカナタはそれを振り切っていく。

 シスカも確実に巻き込まれることになるだろう。

 一つ面倒が減ったと、シスカは考えることにした。


「お前は心配しないのか?」


 まだ眠そうに目を擦っているシスカに、カナタは問いかけた。

 心配など無用であろうが、シスカは逆に、カナタを全く心配している様子を見せていない。


「主様より、わしは自分の心配をした方が良いのだと最近気付いたのじゃ」


 シスカは悟りを開いた様な声で言った。

 塔に来たばかりは、何度もカナタの身を案じたものだ。

 その想いは全て無駄だと悟り、そこらの道端に投げ捨てた。

 その代わりに、カナタの足を引っ張らない様にすることの方がよっぽど重要だ。


「ふむ」


 しかし、全く心配しないと言うのも外見上悪いのではないかと考えた。

 よって、シスカは一応、形だけでもカナタの心配をしておくことにした。


「まあ、あれじゃ。ふあっ……。死にそうになったら逃げれば良いだけじゃろう」


 欠伸をしながら言った。

 心配などしていないのはモロバレだ。


「……ああ」


 カナタはそれに頷いた。

 しかし、逃げる気はないとその顔に書いてあった。




 二人揃って村を抜け出し、塔の端まで向かった。

 その間に敵が出ることも無く、朝日が出てきたころになって、カナタ達はそこに着いた。

 そして、塔の入り口とそっくりなオブジェクトがある場所。

 その前に立つ、一人の男が居た。


 随分前からお互いを補足ていたが、カナタが歩いて来ても表情一つ変えずにただ見て来ていた。

 声が届く距離まで近づいたところで、カナタが声をかけた。


「朝っぱらからすまんが。お前を倒せばいいのか?」


 聞くと、その男は面倒そうに眉を顰めた。


「また新しいのが来たか」


「……」


 質問に対する回答ではなかった。

 カナタが黙っていると、男は億劫そうにカナタを見て、言った。


「ああ。そうだ。私を倒せば出れるようになるぞ。下にも、上にもな」


「分かった」


 それだけ聞ければ十分だと、カナタはシスカに視線を向けた。

 その意図を察したシスカは数歩後ろに下がり、カナタは逆に前に進んだ。


「やる気か。……あそこの奴らに話を聞かなかったのか?」


 男は構えも見せず、顎でカナタ達の背後を示した。


「ああ、聞いたな」


 カナタはそれがどうした、と問い返す。

 男は、ふん、と鼻を鳴らした。


「では分かるだろう。人と鬼。一匹ずつ程度では私には勝てんよ。私は『最強』なのだから」


 そして、ただ淡々と事実を告げた。


「ほう……」


 カナタはその言葉に、ピクリと眉を動かした。

 そして、男の足先から頭の先までじっと見て、首を振った。


「違うな」


 カナタは顔に、笑みすら浮かべていた。


「ん?」


 その反応に、男は怪訝そうに首を傾げた。

 カナタは男を憐れむ様に、見下す様に言った。


「俺は『最強』を見たことがある。もっとも、違う世界だが」


 後半の呟きは男には届かなかった。

 ただ、後ろで辛うじて呟きを拾ったシスカは、「ああ、あの従弟か……」と遠い目をした。

 塔を進んでいる間も聞いた、数々のキチガイストーリーを思い出す。

 もう人間とかそう言うレベルではない。


「……」


 男の眉が不快げに動いた。

 明らかに勘に触った動きだ。


 カナタは続けた。


「あいつは『違った』。何が違うかは説明できんが。何かが『違った』。決定的に。だからわかる。お前は最強ではない」


 そう断言すると、男は頬を吊り上げた。


「面白いことをいう奴だな。ではその最強はどこにいる?」


 どこか小馬鹿にした様な声だった。

 「居るなら連れて来てみろ」と言わんばかりだ。

 カナタの言うことを信じていないのは明らかである。


「ここには居ない」


 カナタは首を振った。


「ふん」


 それ見たことかと、男は鼻を鳴らした。


「だから教えてやろう。最強がどんなものかをな」


 即座にカナタが言った台詞に、男は軽く目を見張った。

 その後、不敵に微笑んだ。


「……貴様がそれほどに強いと?」


 男は今にも襲い掛かって来そうな雰囲気を全身から発した。

 しかし、カナタは動じず言った。


「アホ抜かせ。俺があいつとまともに戦えたのは二秒間だ。だから二秒だ。それだけ耐えて見せろ。……出来るものならば」


 二秒持ったのは五年前だ。

 あいつ(・・・)の身体が出来上がった今ならば、そんなに保つ自信は無い。

 だが、こいつ程度には負ける気はしない。


 カナタは腰を落とした。


「くっ。くくっ!面白い。ならばやってみろ人間。この私に傷一つでもつけてみ――」


 男が胸を張り、自信満々に何か喚いた瞬間。

 その目の前にカナタが居た。

 男が全く反応できない速度で接近したカナタは、男が何か反応を見せる前に、

 拳を叩き込んだ。


「セェェイッ!!!」


 シスカの視界では、男が胸を張って何か言っていたらカナタが消えて、カナタが男の前に居ると思ったら、男が消えた。

 それだけだった。

 何が起きたのか、視認することは叶わなかった。


「ふん。一秒も要らなかったな」


 ただ、カナタが構えを解いたことで、何が起きたのかは理解できた。


「…………………………」


 シスカは、跡形どころか塵も残っていない男に、心の奥底から同情の視線を送った。

 送る相手は無かったので、男がさっきまでいた場所に、だが。


「よし。行くぞシスカ」


 カナタは、シスカに声をかけると、歩き始めた。


「……あ。う、うむ」


 シスカも慌ててカナタの後を追った。

 そしてすぐに、塔の出口に突き当たる。

 それに触れると――気付いたら、森の中に居た。


 木の一本一本が、余りに巨大な木が視界一杯に広がっていた。

 上を見ると、途方も無い高さに葉が茂っていて、日の光は殆ど見れなかった。

 一番大きな違いは、非常に濃い、濃密な空気だった。


「これで一番乗りか」


 カナタはその光景を見ても、軽く目を見張るだけだでそう言った。

 人類の悲願の一つを成し遂げたはずなのに、感動は見て取れなかった。

 それよりも、その目からは新たな冒険に心躍らせている様が読み取れた。


「……そうじゃな。今頃あやつらも驚いとるじゃろうな」


 シスカは苦笑を漏らしながら、鬼の村の面々の事を考えた。

 朝起きたら、カナタもシスカも居なくなっているのだ。

 挑みに行ったと考えるのは当然だろう。

 勇気が残っていればカナタ達の後を追い、そして塔から出られることに気付くことだろう。

 もし、気付いていなくても、


「後で報告に行けばいい」


 そういうことだ。


「うむ」


 シスカも頷き、そしてこれからどうするのかとカナタに視線で問いかけた。


「一度帰るか」


 カナタはあっさりと言った。


「そうじゃのう……」


 てっきりこのまま冒険に繰り出すのかと考えていたシスカは、多少意外に思いながら頷いた。

 確かに、フィトナに無事を伝えることも大事だろう。

 もっとも、余りの速さに驚くかもしれないが。


「いの一番に手を出したいだろうからな。まあ世話になっている身だ。それくらいはしてやらんとな」


 カナタは意外にも、国のことも考えていた。


「そうか」


 しかし、そう簡単にここまではこれ無いだろうと一瞬考えて、カナタかラーマあたりでも護衛として連れて行けば十分だろうと納得した。


「では、急ぐぞ」


 言うや否や、カナタはシスカを掴んで持ち上げた。


「うん?」


 シスカが目を丸くするのにも構わず。

 カナタは走り出した。


「ぎょえええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええッ?!」


 実は冒険がしたくてしたくてたまらないカナタは、だいぶヤバイ速度で塔に駆け戻った。

 シスカの絶叫を後に置きながら。

 カナタはそのまま突っ走り、壁を走って上空にまで駆け抜けた。

 シスカの喉が枯れそうな頃には、天井にまで到達していた。

 無論重力は逆方向に向いている。

 速度を緩めれば、即座に真っ逆さまだ。


 カナタはその状態で、足を天井に叩き付けた。


「ぬぅんっ!!」


 塔が砕けた。

 カナタはシスカごと、天井に空けた穴に身を潜らせた。

 外に出た。

 後は?

 落下である。

 塔の天辺から、地上までの。


「ま、またかあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!」


 シスカの喉は枯れていなかった。

 しかし、これから枯れることは間違いないだろう。

 そしてこれから嘔吐することも間違いあるまい。


「舌を噛むぞ。――報告したら、すぐに戻るぞ。冒険だ」


 カナタは落下しながら、ワクワクした声でシスカに告げた。


「いやあああああああああああああああああああああああああ――――おえええええええええっ!!」


 そして振り回されたシスカは、空中でリバースし始めた。

 高すぎたのだ。

 薄れゆく意識の中でシスカは思った。

 これからも、こんな扱い何じゃろうか、と。

終わりました!

いやーノリだけで書くとすぐ終わりますね

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