表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

コラボor二次創作

狭間に住まう闇

作者: 風白狼

 そこはとあるレストランの一室だった。丸いテーブルを囲んで、数人の男たちがなにやら話している。眉間にシワを寄せている者もいれば、朗らかな笑みを浮かべている者もあった。彼らは皆上質なスーツを身に纏っており、暮らしぶりの良さがうかがえる。

 と、部屋の戸がからからと開けられた。長い銀髪を結い上げた女性が部屋の入り口で恭しく頭を下げる。


「お食事をお持ちいたしました」


 女性は上品に微笑んで、料理の乗った台車を部屋に押し入れる。机を囲んでいた男たちは一様に表情をほころばせた。その間にも、女性はテキパキと料理を机に並べていく。切れば肉汁の溢れそうな鶏の丸焼きやじっくりと野菜を煮込んだスープ、その他豪華で贅沢な作品(りようり)が並べられ、男たちの食欲をそそる。仕上げによく磨かれたグラスに澄んだ色合いのワインが注がれた。並べ終わると女性はまた恭しく頭を下げ、役目は終わったとばかりに退室する。男たちはテーブルを見回し、グラスを掲げた。


「それでは、我々人<イシュルタ>の民の繁栄を願って、乾杯!」


 チンッ、と透き通った音がして、男たちはワインを飲み、食事を始めた。



 それから1時間ほど後。酔いも回ってきたのか、男たちは上機嫌に笑っていたり、あるいは眠る者までいた。そこへ、あの銀髪の女性が部屋に入ってくる。にこりと美しい笑みを浮かべてから引き戸を閉め――――外から開かないようにつっかえ棒をはさんだ。だが、そんな細かいことを気にする者はもはやいない。既に眠っているか、あるいはただ笑って女性を見つめるだけである。


「片付けに参りました」


 そう言って女性が微笑んだ次の瞬間。鮮やかな赤と肌色のもの(・・)が飛んだ。遅れて肉の切れる音と血の吹き出す音が聞こえてくる。どさり、と首のないからだが倒れた。上機嫌だった男たちの顔が恐怖で引きつる。女性の顔には、既に何の感情も浮かんでいなかった。返り血を浴びながら、冷めた目で物言わぬ体を見つめている。

 男の一人は逃げようとした。だが腰が抜けたのか、思うように動けていない。銀髪の女性が動く。血しぶきが上がり、悲鳴を上げる間もなく男は息絶えた。女性はぎらりと深紅の双眸を輝かせ、目にもとまらぬ早さで動く。容赦などなかった。ほぼ一撃で絶命させ、次々に男に襲いかかる。ものの数分で、集まっていた男たちは死体と化していた。綺麗に装飾された部屋は血の色に染まり、地獄絵図のようであった。女性はさっと変装すると、月のない夜闇に紛れてしまった。




*****




「おい、聞いたか? 人の民のお偉いさんがまとめて殺されたって話」

「ああ、聞いた聞いた。それも軍事に関わってた奴らなんだろ? 今頃向こうは誰がまとめるかでもめててんやわんやなんだろうな」

「へっ、ざまあみろってんだ」


 そんな軽口を叩きながら、二人の軍服を着込んだ者達は石造りの廊下を歩く。一方は熊の姿、もう一方は狸の姿であった。彼らが開けた中庭に出ると、そこにもまた様々な姿をした者達が各々の仕事と共に歩いていた。犬や猫、虎や熊、あるいはゴリラに狐にネズミに魚に鷹に――と、実に多様な動物の姿である。皆身分や役割に沿った衣服を纏い、相応の仕事を受け持っている。


 にわかに辺りが静かになった。ひたひたと足音が響く。好奇と驚きが入り交じった視線がその者に集まる。その視線の先にいたのは、黒い粗末な服を着た女性。白い襟巻きで口元を隠し、感情の見えない目をしている。視線を注ぐ者達と違い、彼女は人間の姿をしていた。だが白銀の髪の毛の間からは狼の耳が、服の合間からはふさふさとした尻尾が覗き、膝より下の足は毛深くすらりとした獣の足そのもの。爪も人のものより明らかに鋭い。まるで人間と動物を混ぜたような、“半端”な姿であった。


「お、おい、あれ“(ふう)(はく)(ろう)”じゃないか?」

「帰ってきてるってことは、あのニュースは奴の手による暗殺…?」


 彼女の姿を見た者達は口々に囁き合う。その存在を知るが故に、彼らはほとんど確信を得ていた。


「人間と狼との雑種(ミックス)だってのに、今まで何人もの人の民の要人を暗殺してるんだろ? たいした奴だぜ」

「ああ、まったくだ。雑種(ミックス)にしておくのはもったいないよな」

「しっ、馬鹿、聞こえるぞ」


 騒がしさの戻ったその場所で、そんなことを噂しているのだった。。一方、女性の方はそんな風評などどこ吹く風といったように、歩を緩めずに歩いている。やはり読めない表情のまま、とある一室に入っていった。


「ご苦労であった、“風白狼”」


 部屋の中にいた(ふくろう)の役人がもったいぶった口調で女性をねぎらう。彼女は、やはり何の感慨もなさそうな顔のまま頭を下げた。


「……不肖“風白狼”、命令通り海軍指揮官ジャクソン大佐、および補佐官数名の暗殺を遂行いたしました」


 人の死を伴っているという割には淡々とした口調で“風白狼”と名乗る銀髪の女性は報告する。それを聞き、梟は片方の翼で自分の顔を撫でた。


「ふむ、その活動のほどは既にこちらに届いている。騒ぎようを見る限り、きちんと(・・・・)派手にやってくれたようだな」


 彼の言葉に、女性は無言で頷く。それが当然だと言わんばかりの真っ直ぐな視線を返した。二呼吸ほどの間の後、梟の役人はさて、と話を変えた。


「我々は新たな作戦を始動させている。それに先立って敵の空軍に潜入し、攪乱せよ。指示は追って下す」

「御意」


 女性は背筋を伸ばし、敬礼の姿勢を取る。梟の役人はばさりと翼を掲げた。


「すべては龍<イツァナム>様のために」


 役人の固い挨拶を受け、女性はただ黙って瞑目した。




 カンカンと慌ただしく金属製の階段を駆け上る。一歩ごとに背負った道具たちがガチャガチャと音を鳴らした。


「こら、新人! 軍用品が足りないぞ!」

「は、はい、ただいま!」


 兵士に怒鳴りつけられ、大荷物を背負った女性はばたばたと走る。荷物を下ろし、必要な場所に整理して並べていく。彼女ばかりでなく、辺りの人々は殺気だったように準備を進めていた。いや、実際に、特に兵士たちは殺気立っている。大型の母艦に戦闘機を積み込み、怒鳴るように指示を飛ばす。おかげでそこ一帯は慌ただしい雰囲気に包まれていた。


 とそこへ、悠然とした足どりで男が歩いてきた。その歩調はさることながら、彼の身に纏う軍服も彼が上官であることを知らしめる。ゆったりとした足どりで作業の進展を見ながら、上官の人は軍用品を整理する女性の近くまで来た。


「作業は順調か?」


 男が問いかけると、兵隊の一人が敬礼した。


「はっ、もちろんであります。しかし、いくつか足りない備品もあるようです」

「それはいかんな。戦闘は万全を期さねばならん。足りない物は洗い出してあるのか?」

「はい、こちらです」


 上官の男は兵隊の差し出したリストを受け取った。そして眉をひそめて考えるそぶりをし、整頓を続ける女性を見やる。


「そこの君!」

「は、はい!」


 呼ばれ、女性は作業の手を止めて姿勢を正す。男は先ほど兵隊から受け取ったリストを彼女につきだして見せた。


「整頓は後にして、ここに書かれた物を必要数持ってきなさい」

「了解しましたっ!」


 紙を受け取り、勢いよく敬礼の姿勢をとる。そのまま女性は来たときと同じく慌ただしく駆けていった。そして男とすれ違いざま、一瞬だけその表情が消える。ぎろり、と上官の男に視線を向けた。その視線はまるで獲物を狙う狼のよう。虎視眈々とその首を狙う。ただ機会を待って――――

 この小説はTwitter上にて初心者マーク様に以下の通り「創作キャラ化」して頂き、それを元に書いてみた作品です。

創作キャラ化【@soshuan】通称“風白狼”の龍の民の暗殺者。人と狼のハーフ。ハーフは軽蔑される対象だが、龍の民を裏で支える者として評価されている。人の姿で変装し潜り込んで暗殺する熟練者。冷静沈着。


 何だかかっこよかったので、せっかくだから書き上げてみました。初心者マーク様、素敵な設定をありがとうございました!


 さて、この作品はあえて世界観の描写を極力少なくしてあります。この作品を読んで少しでも気になった方は是非原作『アザトホール・ランタン』(http://ncode.syosetu.com/n9308bu/)を一読あれ!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ