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Mission5 夢を追うと言う事

初めて本当の空戦をしてから、四日ほどが経ち、太一たちの現状に何か変化が有ったかと言えば……特に何もなかった。


精々ファーストキルに賞賛の言葉を夜長や創真と言った(まぁ創真がそれを言ってきたのには驚いたが)面々が送ってきた程度で、少なくとも太一の周りに置いては、あの事件はある程度予想はされていた事態として受け取られていると言う印象だった。


あの韓国軍の攻撃は、どうやら一部の反乱兵が勝手に起こした攻撃だったらしい……少なくとも、韓国政府はそう発表した。

何でも、日本海で訓練中だった韓国空母、《水原スウォン》での訓練中に、発艦していた洛陽10機が突如として反乱。日本に対し攻撃を仕掛けたのだと言う。


これだけでも無理があるが、所で、太一たちが攻撃を受けたのと殆ど同じ頃に、太平洋で訓練中だった機動戦艦を中心とする海軍の連合艦隊が、沖縄でやはり“反乱”した中国軍の洛陽から独断の攻撃を受けて、機動戦艦《霧島》が軽微ながら損傷したらしい。


いや全く、全く同じ日のほぼ同じ時刻に二つの国の航空隊が全く同時に反乱、暴走を起こし日本軍を攻撃するとは、都合のよい“反乱”が有ったものである。


とは言え日本の厳重な抗議に対し両国とも反乱であると言い訳はしつつも一応の謝罪はした。

無論、形だけなのは九割明らかだったが、それでも日本は引き下がったのである。


────


さて、そんなこんなで時は経ち、本日2040年7月11日


「っ……!」

後方に回り込んで来た神雷を引き剥がそうと、太一は右へ左へと機体を振り回す。が、相手のパイロットはその程度で振り切られてくれる程甘い相手ではない事は太一も分かっていた。案の定、後方にいた神雷は太一にピッタリと付いてきていて……


「……?」

と、太一は内心で首を傾げた。後方から追ってくる機体。その機動が、何時もより鈍い。普段のように此方を落とすといった威圧感バリバリなピッタリついてくる機動と言うよりは、何となく……おかしな言い方ではあるが、「腰が引けている」と言うべきか。少し、距離を開けたもっさりとした機動でついてくる。

それに、普段ならここでミサイルの一発でも撃ってこよう者なのに、今回に関してはそれが来ない。


「けど、これなら……!」

まぁ、何れにせよそれらは彼にとってはチャンスでしかない。太一は一瞬機体を立て直し、そのままバレルロール。

螺旋を描くような機動を取った太一の神雷は、直線を飛行するよりも長い距離を突然飛行することで後方に付いた神雷を追い越オーバーシュートさせる。


『行けっ!』

其処からロックオンするや否や、ミサイルの発射ボタンを押しこみ機体から赤外線探知タイプの04式が発射された。

正面の目標機は一旦大きく加速して急旋回と言う回避機動をとりつつ、フレア、チャフを発射。フレアに釣られたミサイルが、散らすように方向を変えてあらぬ方向へと飛んでいく。


しかしそうなる事は初めから分かっている。既に太一は目の前の神雷に機銃を打つ体勢に入っており、ボタンを押しこむと同時。それを発射する。

するとそれをとんでもない反応と機動の鋭さで機体を跳ねあがらせた相手の神雷は軽々と躱す。やむを得ず旋回戦に持ち込もうかと思ったが、機体を一旦立て直そうとした時には既に太一の機体は後ろに付かれていた。


『こなくそっ……!』

内心で悪態をついて機体を回避行動に移そうとしたが、それよりも前に機銃を発射される。

あちらのように躱せる訳もなく、太一の神雷はまともにそれを受けてしまった。


「ぬぁっ!?」

コックピットがガタガタと揺れ、モニターが次々に朱く染まる。

最後に機体が死んだ事を知らせる表示と共に、「P2、撃墜」の文字が画面に踊った。


「くっそ……」

ドサッ、と狭いコックピット内の座席に後頭部を軽くぶつけて、はぁ……と息を吐く。これで通算何敗目だろう……と思いだそうとして、やめた。憂鬱になるだけで全く実りがないからだ。数え切れないほど負けている。と言う事実だけで十分だ。


「…………」

と、自分の事はともかくとして……太一は手元のスイッチで疑似キャノピーを開けながら、ふと思う事が有った。


「……やっぱ変だよな……」

どうにも最近、隣の機体……と言うより、シュミレーターに乗っている少女の調子がおかしい。

具体的に何が、と言われると……まぁ負けまくっている身でこんな事を言えた義理ではないが……以前より弱い気がするのだ。機動が先程のように鈍かったり、どうにも機銃やミサイル発射のタイミングを逃していたり、まるで何かを躊躇っているように感じる。


「……このままにしたって、な……」

開かない隣のキャノピーを見ながら、太一は小さな声で呟いた。

“何か”が原因で、凪は明らかに調子を崩している。それがなんなのかは分からないが、力になれるものならば、相棒と言う肩書を持つ以上それ相応に太一は協力を惜しまないつもりで居た。

ただもし彼女がそれを言いだしたくないのならば、それを無理矢理聞き出して何とかなるとも思えない。そう思って何も言いださなかったのだが……

もし、何らかの理由で言い“だせない”ならば、此方から聞いてみる必要もあるだろう。


「……ふむ」

そう思い、太一は一応の為と思い隣のシュミレータへと近づく。案の定、キャノピーを開くことすら忘れているのか俯いた凪が何かを考え込むような顔で其処に居た。


「…………」

コンコン。とキャノピーを叩いてやると、ハッとしたように凪は此方を向く。ジェスチャーで「少し休憩するぞ」の意思を示すと、彼女は小さいながらもコクリと頷き、キャノピーを開いた。


────


「ほれっ」

「ありがとう」

投げた缶コーヒーを凪は空中で受け止める。このやり取りにも慣れた物だ。ちなみに、太一はペットボトルの烏龍茶である。コーヒーは矢張り飲めないらしい。


「よっと……」

「…………」

缶を開けて、ちびちびと中身を呑み始める凪の横で太一はごくごくと烏龍茶をのどに流し込む。美味い。どうでもいいことながら、緑茶も良いが、やはり烏龍茶やジャスミン茶等は其々個性が有って太一としては好きだった。


中国にしても韓国にしても、こう言った多彩な茶や料理を生み出す文化にかけては本当に天下一品に美味い物を作るのに、どうして外交的な付き合いになるとああも不味い物になるのか、普通に疑問だ。

中華料理食った後のジャスミン茶はスキッとして後味最高なのに、この数年間、いや、この100年近くの間中国、韓国と、日本の外交関係は1900年代の戦争を引きずって後味最悪なままであった。


『……いや』

それは必ずしも向こうのせいだけでは無いのだ。

少なくとも、八年前太一たちが味わった、大切な物を奪われ、それに文句すら言えない恐怖と悲しみ。自分たちの国土が、我がもの顔の異国の人間に踏みにじられる屈辱と怒りを、100年前の日本人は彼等に味わわせたのだから。


どんなに正当化しようと、それが必要だったと綺麗事を並べたてようと、彼等の国土が太一たちの先祖によって踏みにじられたのは事実なのである。


しかし……そうだとしても……それでも……


「…………」

「……?片倉君、どうしたの?」

「え?」

凪の声で、太一は自分が感慨にふけっていた事に気が付いた。


「あ、あぁ。いや……なんでもねーよ」

苦笑して言うと、凪は少し心配そうに首を傾げる。


「そう?なんだか……少し怖い顔してたから」

「いや、ちょっとな。嫌な事思いだしてた。って、そうだ」

それはそうと、凪に心配そうな顔させてどうするのだ、これではこの休憩に意味が薄れてしまう。


自分の迂闊さに苦笑しながら、太一は凪の内面にメスを入れる。


「大丈夫かって言えば……お前こそ大丈夫かよ?」

「えっ!?」

少し驚いたように、あるいはたじろいだように凪は素っ頓狂な声を上げた。分かりやすい事である。


「お前、最近なんかおかしいよな?大尉の話も耳に入ってねーみたいだし、空戦にだって集中出来てない」

「う……」

「さっきのが良い例だ。あのタイミング、何時ものお前なら一回目でそのままガンキルできた筈が、一回俺にオーバーシュートさせられて……この3ヶ月お前と居て嫌でも分かるが……お前が空戦に集中出来ないって……相当だろ?」

「それは……」

俯いて言葉を濁す凪の顔を、太一は少し覗き込む。困って居るような、迷って居るような顔で俯き続ける凪に、太一ポリポリと後ろ手に頭を掻く。


「まぁ、話したくないなら無理には聞かねーよ。……どれ、もうちょい休んだらまたはじめっか?」

「……片倉くん」

「ん……?」

呼ばれて彼女の方を向くと、未だに不安げな顔ではある物の、何時もより真剣な瞳で自分を見る凪が其処には居た。


「……話す気になったか?」

「……うん。怒られるかも知れないけど……このまま黙ってたら、片倉くんにも大尉達にも迷惑掛けちゃう気がするから……」

「んなこたぁ気にすんな……っては言えねーわな。此処軍隊だし」

言いながら苦笑した太一に釣られるように、凪も小さく笑う。

しかしそれはすぐに、話し始める前の沈んだような表情に戻ってしまった。


「……この前の空戦の時に、私が最後に撃墜した機体、覚えてる?」

「あぁ、俺がアシストしたやつか。あの流れは上手く行ったな」

思いだしながら言った太一に、凪が苦笑する。


「あはは……うん。……あの時、ミサイルがあの機体に直撃した後にね、私、見えちゃったんだ」

「見えた?」

「うん……機体が砕けて、炎と、真っ黒な油が散って……その中から、火達磨になった女の人が、後ろに吹き飛んで行ったの……」

「……成程」

コーヒーの入った缶を見つめながら、一つ一つの言葉を呟くように凪は続ける。


「背丈は、私と丁度同じくらい。HADのお陰で顔は見えなかったけど……体つきは女の人だった」

「よく見えるな……いや、普通か」

太一でも、真後ろから追いかける形で空戦をしていたら、その状況なら見えるだろう。


「あの時の見えなくなったあの人の姿がね?私、頭から離れない……最近、ずっとあの時の事ばっかり考えてる……」

「……殺した事、後悔してんのか?」

「それはっ……!……分からない……人を本当に殺すって感覚が、初めてだったから……」

「…………」

それを最後に、少しの間二人は黙り込む。沈黙に耐えかねたように、凪が先に口を開いた。


「あ、あの……ごめんなさい」

「あ?なんだ行き成り」

首を傾げた太一に対して、凪は項垂れたまま言った。


「私……軍人失格だよね……覚悟してこの世界に入ったつもりだったのに、本当にその時がきたら、やっぱり、冷静じゃ居られないみたい……」

「……ふむ」

落ち込んだ様子で言う凪の事を、少しの間太一は黙って見つめていた。しかしやがて一つふん。と息を吐くと、何でも無い事であるかのように言う。


「……良いんじゃねぇの?別に」

「え?」

「殺す事に迷う事くらい、人間なら軍人だって普通だと思うぞ……多分……」

「そう、なのかな?」

確信が持てないと言うように首を傾げた凪に、太一はコクリと頷く。


「あぁ。寧ろ一切迷いなくバカスカ殺せる奴が居たら、其奴の方が人間としてよっぽどどうかしてると俺は思うね」

「……そっか……」

腕を組みしみじみと頷きつつ行った太一に、凪は小さく返す。

しかし……


「ただなぁ……」

「?」

唸るように言った太一は、首を傾げるように傾けながら、後ろ手に頭を掻いて言った。


「悪いな……偉そうなこと言っといてあれだが……俺多分今回はあんま説得力のあるアドバイス出来ねーと思う」

「え?」

世間話をするような軽い口調で、少しばかりの重たい言葉を。


「なんつーかその……多分俺、その“どうかしてる”側なんだよな……」

「……え?」

聞いた言葉の意味を、凪は上手く理解できない。“どうかしてる”側、とはどういう事か……

唖然としている凪を見て、太一はいよいよ困ったように頭を掻き続けるが……やがてその手を止めて言った。


「どうせその内話す事……か」

「…………」

ゴクリ、と少しだけ、凪は唾を呑んだ。そう言えば、自分の事は話しても、太一の話を聞くのは初めてだと思いだしたからだ。何となく、これから聞く話が余り甘い話ではないような予感を、凪は直感的に感じ取っていた。


「その……俺はな、どっちかって言うと、お前とは逆タイプなんだわ」

「逆……?」

「ん……まぁ、何て言うかな……つまり……あんまり軍に入った理由が綺麗なもんじゃねぇって言うか……な」

どう説明した物か悩むように、太一は頬を掻く。しかしやがて何かを決心したように、小さく息を吐いてから言った。


「そうだな……お前、故郷くには?」

「へ?」

突然の問いに妙な声を出した凪に、太一は苦笑しながら続けて聞いた。


故郷くにだよ。故郷故郷。何県出身なんだ?」

「え、えっと……京都」

凪の問いに、太一は意外そうに眼を見開く。


「へぇ……にしちゃ方言も訛りも無いよな?」

「お父さんもお母さんも関東の出身で、お父さんの基地勤務の都合で向こうに住んでたから、ずっと家の中で標準語で喋ってたの。一応向こうの方言でも話せるけど……あんまり使わないかな」

「成程」

ははは。と小さく笑って、太一は床を見るように俯いた。

何処かここでは無い場所を見ているようなその瞳には、すこしだけ悲しそうな表情が有る。


「俺の故郷はな……もう、日本の地図にはねぇんだ」

「……!」

「自覚はねぇけど、奪われた。ってのが正しいんだろうな。八年前まで、俺は、沖縄に住んでた。あの島で生まれて、あの島で育った。それが、九つの頃、行き成り戦争が始まって、訳もわかんねぇ内に、家の近く在った米軍の基地は無人になって、代わりに自衛隊が入ってきた。御袋は俺が物心つくより前に死んでたし、親父は……海自の隊員でな。近所に住んでた叔母さんに、俺達は育ててもらってたんだけど、戦争が始まってすぐに、親父は死んじまったらしい。もっとも、親父の事もあんま覚えてねぇんだけどな」

「っ……」

苦笑気味に言う太一の言葉に、凪は息を呑んだまま動けなくなる。


「……聞いた事有るか?中国軍が侵攻した時、島民の避難が間に合わなくてな。陸自が時間稼ぐのに、向こうの陸軍とちょっとした小競り合いしたって話」

「…………」

コクン。と凪は小さく頷いた。彼女にとっては既に聞いて居る事がキツくなり始めていたが、それでも耳を反らす事は出来なかった。


「あんとき、俺も逃げ遅れてな?叔母さんとは初めに人波に呑まれて逸れちまってよ。一人だけ一緒に居たのが、妹だった」

「妹?妹さんが居るの?」

「あぁ。一応な。“居たんだ”」

「っ……!」

対して気にした様子もなく、しかしはっきりと言葉を訂正した太一に、凪は息を呑む。


「逃げてる途中で、避難場所が何処だか分からなくなっちまってな。疲れて、歩けないって言う妹連れて、扉の空いてた建物入って休んでた。後で分かったんだけどよ。そこ、陸自と中国軍の丁度戦闘地帯になったとこだったんだと。スゲェ偶然だろ?笑っちまうよな」

まるで世間話のように、太一は笑う。しかし凪は、体を固くするばかりだ。


「外で銃声が聞こえ出して、怖くなって外に出れなくなってよ。そん時、俺らの居たとこに、中国兵が一人入ってきた。そいつが中国語でなんか言った後、妹の手ぇ無理矢理引っ張って何処かに連れて行こうとしやがる。咄嗟に、飛びかかろうかと思ったんだ。けど、動けなかった」

「銃……」

自嘲気味に言う太一に凪の言った言葉は、どうやら的を得ていたらしかった。

おっ、と言う顔をして、太一は言った。


「正解。俺は銃が怖かった……昔から臆病でさ、映画なんかで見て、銃で人が死ぬとこみただけで、叔母さんの腰にしがみついてたんだぜ?」

此処まで終始、彼の顔は笑顔だ。苦笑であれ、自嘲気味な物であれ、決して彼はその顔に纏った笑顔をやめようとしない。


「で、銃が怖くて俺は動けなかったけど、これが妹はそうでも無くてな。まぁ、まだ銃の怖さがちゃんと分かって無かったんだな。何しろ七歳になったばっかだった訳で……滅茶苦茶に暴れて兵士の指に噛みついて、で、撃たれた。即死だ」

「~~っ……!」

その言葉は、まるで重みが無かった。異常なほどに、重みが無く、本当にただの冗談で言っているのではないかと思うほど、滑らかで、軽い調子だった。


「返り血が散ってな~、顔に掛かって……俺、完全に固まっちまった。んでその兵士ロリコンだったのか何なのか……俺の事はすぐ撃とうとしやがってな。銃口向けられて、よく覚えてねぇけど、まぁ多分「死ぬ」位は思ったのかもな。そん時、別の中国兵が部屋に入って来て……状況見て、俺の事撃とうとした兵士の事中国語で怒鳴りつけた。何言ってんのかは分かんなかったけど、多分「子供殺すな」とか、その辺りだったんだろうなー」

「…………」

こんな話だと言うのに、やはり太一の顔は笑顔だった、晴れやかでは無くとも、決して苦しそうでも、怒っている風でも無い。仲の良い友人と、他愛ない話をしているだけ。そんな笑顔が、ただただ其処に在った。


「その後は、正直よく覚えてねー。気が付いたら拳銃握ってて、目の前に死んだ兵士が二人と、血の付いたガラスの欠片が有った。まぁ多分、片方から武器奪って滅茶苦茶に撃ちまくったんだろうな。ただどうやって撃ってたのかが謎でよ。肩は脱臼してたし、指のとこちっと火傷はしてたけど、そんだけ。ほんと、九つのガキがどうやって拳銃撃ちまくったのか未だに謎なんだよ……で、妹がホントに死んでんの確認して、気が付いたら自衛隊の野営地だったってわけ」

「……もう……いいよ……」

凪は、首を横に振った。耳から入って来る、太一の明るい声を聞くのが辛かった。


「あんとき、俺の前には二種類大人が居たよ。……“子供にすら躊躇なく銃向けて撃つ軍人クズ”と、“子供に情け掛けて死んだ軍人バカ”だ。聞いてても、片方は人間として、片方は軍人としてアレだって分かるだろ?でも、どっちもあの時俺を殺せる立場だった……」

「……もう……やめて……!」

何の気なしに、話を進めて行くその声が、本当に無邪気で、それが本当に怖い。


「そんな訳で、俺は軍人になったわけ。次にああいう奴等と出くわした時に……次に戦争が始まった時に、殺されないようにな……いや、もっと言うなら……」

「もう……!」

まるで、自分が壊れている事を自分で証明して行くようなその言葉の数々が……怖い……


「“誰かに自分が殺される前に、その誰かを殺す為”に……ってのが正しいのかもな」

「っ……!」

甘かったのだ。そう、凪は理解した。

軍に入る人間は、とどのつまりは“国を守りたい”そう言う意思が根底にあって、この世界へたどり着くのだと思っていた。それは凪の父親がそうだったし、凪だってそうだった。

けれど、そうではない。例えば凪が“守る為”に軍隊に入ったように、太一のように“殺す為”に軍隊に入った物も居る。

それは例えるなら、盾と剣。自らの大切を守る為の盾としての軍隊、そして軍人と、他人を殺し切れる力をもった剣としての軍隊、そして軍人。

手段が同一であっても、絶対的に隔たった二つの目的。


ただそれでも、彼らには同一な部分が有る。


「……もう分かったろ、神崎」

「…………」

「とどのつまりな、目的が違っても、俺達にとっての“手段”は同じなんだよ……俺の目的もお前の夢も、それを実現する為には、“殺す”しかねーんだ。ただ俺は殺す事自体が目的で、お前は殺す事で得られるものが目的なだけなんだ」

「私、は……」

凪を追い詰めてしまったことへの罪悪感なのか、少し申し訳なさそうな声色で、太一は告げた。


「まして俺達は戦闘機乗りだ……個人がこの地球上で操れる中で、多分一番強い“殺しの道具”を使ってる人間だ……だから、納得しろ、っては言わないけど……理解はしろ。何処まで行っても……」

「……うん……」

凪は頷く。

唐突に、理解できてしまった。


どんなに頭の中で否定しても、それは逃げられない事実なのだ。それを呑みこんだ上でそれでも夢を追いかけられないのなら、これまでしてきた全ては水泡に帰すのみである。


瞳に滲んだ涙をぬぐいながら、凪は頭の中で確認した。


──私達は、人殺しなんだ──


────


「なんて、悪かったな。言えねーって行った癖に偉そうに説教して、どうでも良い暗い昔話聞かせて」

そう言って、太一は会話を締めた。

苦笑気味に笑ってから、烏龍茶を煽る。


「っぷは!長話したから喉渇いたわ。烏龍茶うめー!」

その声は、つい先程まで“あんな話”をしていたとは思えないほど明るく、ほがらかだった。その声が、余計に彼女の胸を締め付けて……思わず、彼女は口を開いて居た。


「ね、ねぇ……“太一君”」

「あ?なん……ん!?」

凪の言葉に何となしに振り向いた太一が、驚いたように目を見開く。今、確かに……


「あの、あのね……私に、こんな事言う権利、無いのかもしれないけど……でも、やっぱり言わせて欲しい」

「え、いや、いま、お前、名前……」

混乱する太一に、凪は精いっぱいの声で行った。


「お願い……もう、そんな悲しそうな顔で、無理に笑わないで……?」

「っ…………」

圧されるように、太一はたじろぎながら自分を真っ直ぐに見る凪の瞳を見つめ返す。が、長く見ている事も出来ずに、目を反らした。


「何言ってんだお前。別に過ぎた話だ。無理してるとか、誇大妄想だぜお前の……」

「嘘」

「嘘って……なんでんな事お前に分かんだよっ」

再び凪の方を向きながら少し怒ったように言う。普段の凪ならここで「ごめんなさい」だ。太一としてはそれを狙ったつもりだったのだが、凪の顔を見て当てが外れた事を悟った。


「分かるから分かるんだよ。この基地に来てから何時も一緒に居るんだから、太一君の様子がおかしかったら分かるよ……」

「な……」

なんぞじゃそりゃ。と流そうとして、けれどやはり真剣その物の瞳で自分を見つめて来る彼女から、目を反らす事が出来ない。


「…………」

「…………」

少しの間、二人の間に耳に痛い沈黙が降りる。

しかしにらめっこは長くは続かず……負けたのは、珍しいかな、太一だった。


「はぁ……わかったよ……降参だ」

「あ……」

パッと凪の顔が明るくなる。溜息を吐きながら少し苦笑して、太一はせめてものお返しとばかりに普段しないスキンシップをくれてやる。


「でやっ」

「わぁっ!?」

頭をぐしぐし。二歳年下で、小柄な凪の頭は丁度太一の手の平の位置だった。


「ご心配ありがとうございました。以後気を付けますよっと」

「わぁあぁぁ!?」」

目をまわしたように首をガクガクと振る凪に今度は何時も通り、二ッと笑ってから、太一は手を離してやるのだった。


はい!いかがでしたか!?

と言う訳で今回は太一君の昔話でした。

なに、大した話ではございません。ただラノベの主人公のように体験した悲劇が彼の原動力となって今の道を進ませていた。ただ、それだけの話でございます。


ただ……何時の日か、我々の身にそのありきたりな悲劇が振り落ちて来ない。と言う保証は、何処にも無いのですがね(笑)


さて、次回からは、少し時間が飛び始めます。

此処までで十分に太一の凪の関係性、その土台を作る事が出来ました。まぁ彼等の日常風景はもっともっと書いていきたいのですが、残念ながら其れを書いて行くとストーリーが進みません。

なので次回からは、物語後半に関わって来る人物たちが登場して行く予定です。

では、そろそろ中盤。よろしくお願いいたします。



……ワ-二ング!……

ここから先は、鳩麦がほかの艦魂作者さんのように少しちゃめっけのある事がしたかったために書いた、いわばおふざけです。

そう言ったものがダメだという方。安全のため、スクロールを即時停止。退却されるようよろしくお願いいたします。


では……真アトガキ、始まり始まり~


鳩「はい!どうもです!鳩麦です!さて、今回は君の昔話でした太一君。」


太一「はいはい。ったく、こんなくだらねー事に一話使うなよな」


鳩「酷い言われようだ……理解し合うと言う点では重要な話だと言うのに」


太一「俺にとっちゃ公開処刑だバカ」


鳩「さいで。まぁ良い。でだ……今日は外伝の外伝はお休みにする」


太一「あぁ?ネタ切れか」


鳩「いや、て言うか……まだ艦魂の存在を公開して無いからやれる事が限られ過ぎてて面白そうな外伝が書けないんだよ」


太一「成程な……とりあえず死んどくか」


鳩「は?」


太一「いやお前……まぁやるっつった事を休むんだ。此処は某どっかのドイツ艦魂に曰く「罰です」のお時間だろ?」


ガコン


鳩「まて、君はそのアハト・アハトどっから持ってきた?」


太一「借りた」


鳩「誰に!?まさか向こうの例の艦魂さんじゃあるまいな!?」


太一「ま、いいじゃねぇか細かい事は。多分あの人も自分の外伝進まずに、日本サイドの外伝がやってるからイラついてんだよ」


鳩「待てばか僕はまだ不死身能力がちゃんと身に付いてなぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!?」


ズドォォォォォォォォォォォォォォンッ!!!!!!!!!


太一「うお……すっげ。えーと、また次回もよろしくっす。あ、後何か外伝の外伝、アイデア募集中らしいです。んじゃ」


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