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濁った瞳のリリアンヌ  作者: 天界
第一部 第5章 3年目 前編 2歳
97/250

87,狼君と解析。


 自分の斜め後ろには常に2つのモノが浮遊している。

 正確には壁を背にしたりすると前の方に移動してきたりもするのだが基本的には斜め後ろに位置している。

 障害物を自動で避けたりする高性能な判断能力以外にもコレが有している能力がいくつかある。


 それはまず、姿を察知させずお婆様の達人の感覚でも捉えられない隠蔽能力だ。

 しかもサニー先生でさえ気づいていなかったものだ。

 コレはクティが設置したものなのはわかっている。だがクティ謹製の既存の魔術にはない高精度の隠蔽魔術を知っているサニー先生ですら気づけない代物。

 それはクティがまだサニー先生に隠しているのか、単純に作ったばかりなのか。


 とにかくコレの存在を知っているのはどうやら自分と作ったクティだけのようだということだ。


 解析してみるとわかるが、コレはサニー先生が当面の目標として掲げたクティ謹製の隠蔽魔術を遥かに上回る物だ。

 どのくらいすごいかというと、目標とする隠蔽魔術が既存の隠蔽魔術の総合複合体であるのに対し、コレはそれを数十倍の精度に引き上げてある感じだろうか。


 詰まるところコレが使えれば当面の目標は達成ということだ。


 さて問題は解析結果だが、意外と難しい。

 いやクティの作った半端じゃないモノなのだから、意外でもなんでもないのだが簡単には解析させてもらえないようだ。

 基本的に隠蔽魔術だとわかっているので精度やそれに伴う能力などはある程度わかったのだがそこから先、つまりは如何にして使用できるようにするかが問題だらけというわけだ。



 さすがはクティ。伊達に世界最高の魔術師というわけではない。

 だが難しいならば逆に燃えてくるというものだ。

 何せ解析できないというわけではないのだから。



【レキ君。私はこれからコレの解析を始めるから……。ちょっとこっちへ】


「わう?」


【そうそう、そこね。はい『ふせ』。よくできました】



 斜め後ろに位置するのでは首が疲れてしまうのでレキ君の位置を調整して見やすいところに来るように移動してもらう。

 レキ君の枕兼お腹にぽすん、と頭をおいてさっそく解析開始だ。



「わふ……」


【眠かったら寝ててもいいよ~】


「わふぅ……」



 ぽて、と出てきた右足が若干しか見えなかったけど、顎を完全に床に落としたレキ君は寝るようだ。

 まぁぶっちゃけ解析は頭の中でやるのでレキ君的には暇になるので問題ない。



「あらあら、リリーちゃんお話はもういいのかしら?」


「あい」


「そう……。あ、でももうすぐじーじが来るからそうしたら少し遊んであげてね?」


「ぅ~……。あい」


「ふふ……。ごめんなさいね。でも少しでいいからお願いね」


「あい」



 じっくり解析したい自分としてはお爺様のお相手はお婆様にお願いしたいところだけど、お婆様の頼みとあっては断れない。

 それに最近お爺様も領地から届く書類の山に追われてなかなか遊んであげることもできていないので我慢の限界が来る前に遊んであげよう。


 一先ず情報をブロック毎のデータに仕分けしつつ、まずは表面部分の掬い上げから開始することにした。







◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆







「おぉ……。リリアンヌよ……。おじいちゃんはもう戻りたくない……」


「じーじ。おしごおがんばって」


「おぉ……。リリアンヌよ……。でも戻りたくない……」


「じーじ。めっ」


「いやだぁ~いやだぁ~。あの書類の山には戻りたくないー!」


「じーじ。いあい」


「おぉ……。すまん……」


「いいこいいこ」


「おぉ……。こんな俺を許してくれるのか、ありがとう……リリアンヌよ……」



 来るなりものすごいスピードで接近して掻っ攫われて頬すりされているわけでして。

 そして愚痴をいい始めるお爺様。

 いつもののほほん笑顔が何か生暖かい感じがするお婆様の視線を受けてお爺様を励ましてみるけど、相当参っているご様子。



 一体どれだけ書類を溜め込んでいたのやら。

 自業自得だろうに……。



 でもそんなことは口が裂けても言えないので、まだまだふさふさの後退する気がまったくなさげな頭を撫でてあげる。

 レキ君やミラには到底及ばない酷い感触だったけど、まぁそれは仕方ない。



「ふふ……。頑張ってあなた。わたくしはお手伝いできないことですもの。あなたに頑張ってもらわないといけないわ」


「うぅ……。しかしだな……やはり俺1人であの量を、というのは無茶だと思うぞ……。せめて誰か補佐をだな」


「そういわれましても。ラッシガンドもユールもヒンギオーユも皆領地の方で手一杯ですし」


「いや、あぁ……。そうだが……なんとかならんか?」


わたくしが手伝えるなら手伝いたいのですけどねぇ」


「い、いや! それは大丈夫だ! おまえの手を煩わせるほどのことじゃない! 大丈夫だ!」



 頬が引くついているお爺様の必死な形相から察するにお婆様は執務が出来ないのではなく、きっと料理をすると爆発させるタイプの人間なのだろう。執務をすると領地が吹っ飛ぶような?


 お婆様だと簡単に想像が出来てしまうのは仕方ないというものだろうか。

 うちのお婆様なら本当に出来るというのが恐ろしいところだが。



「そ、そうだ! こっちによこした執事に何人か雑務くらいなら出来そうなヤツが居たな! あいつらを使おう!」


「ロー……。今更ですのね」


「うっ! そ、それだけあの書類の山を見たら追い詰められたんだよ!」


「まぁアレを見たなら仕方ないかもしれませんわねぇ」



 一体どれほど書類が溜まっているんだろうか……。

 溜めすぎだろう……ほんとに。



「はぁ……。だから今はリリアンヌの成分を補給しないとじーじはもう大変なのだ。

 あぁ……リリアンヌは天使だなぁ……。このまま持って帰りたい……」


「それは駄目ですよ。今日はリリーちゃんは忙しいんですから」


「……忙しいのか……。じゃぁ仕方ないな……。でももう少しじーじとお話してくれるかい?」


「あい」



 溜まりに溜まっている書類のせいで人格が少しおかしくなって喋り方がいつもと違ってしまっているお爺様を慰めながら少しの時間を過ごす。

 その後、御付の屈強な人達に連れて行かれるまでずっと自分を離さなず愚痴り続けるお爺様だった。







◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆







 少し解析してわかっていたことだったが、やはりクティ謹製の魔術を解析するのは難儀なようだ。

 今日1日レキ君に癒されながら頑張ってみたが、結果はあまり芳しくない。

 こんな凄まじい魔術を作れるクティというのは本当にあのドヤ顔様なのかと思ってしまうくらい緻密で繊細で且つ大胆で……そしてたまにおざなりだ。



 なるほど、まさにクティだ。これは完全にクティの作だ。

 特におざなりになっている部分がすごい大胆なくらいに適当だ。

 でもこれがその周りに張り巡らされた部分を支える重要な役割をしていて……。


 すごい……。ただその一言だった。



【レキ君……。クティはやっぱり天才だよ……。こんなの私作れない】


「わふぅん……くあぁぁぁぁぁぁ」


【これが才能の差ってやつなのかなぁ……。私始めてクティに嫉妬してるかも】


「わふ」


【ふふ……。くすぐったいよ。慰めてくれてるのかな?】


「わふ」



 ずっと解析し続けて頭を高速回転させていて疲れたのだろうか。ずいぶん弱気なことを口にしてしまった気がする。まぁ魔力文字だけど。

 それを見て普段は絶対しない顔を舐めるという行為をしてくれるレキ君。

 プライドの高い彼がこういうことをすることは滅多に……いや今までなかった。



【ありがとう、がんばるね】


「わん!」



 レキ君の声援を胸に最初から差なんて天と地ほどあるのを思い出した。

 今はまだ追いつけなくとも、努力し続ければ近づける。

 先生の授業を受ける前はそれすら気づけなかったのだ。今はクティという素晴らしい目標に向かって突き進むのみ。







◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆







 結果として解析に要した時間は4日。

 たった1つの魔術といえ、作り上げたのはクティでありそこに使われていた技法は驚嘆の一言だ。

 魔道具に組み込まれる変質性――発動具を必要としない技法も解析できた。

 それはつまり発動具を使わずとも魔術の使用を可能とすることであり、前提だ。



【さぁレキ君。この4日頑張った成果を見せるときがきたよ!】


「わん!」



 やる気と希望に満ち溢れた自分には今魔力が発露しているだろう。

 それくらい感情の制御ができないくらいに興奮している。


 だって人生初となる魔術だ。


 しかもこの4日。嫌というほど理解し、憧れたクティという愛しき存在の作り出した魔術。


 これで興奮するなという方が無理というもの。



「ふぅ……。すぅ……。ふぅ……。すぅ……」



 深呼吸を何度か繰り返し、心を十分に落ち着けて閉じていた両の瞳を開く。



【では第1回目、クティ製隠蔽魔術実践を始めます!】


「わおおおおおんっ!」



 レキ君の大きな雄叫びと共に少し遠くを見つめ、人生初となる魔術構成を展開した。




まだまだ引っ張るのが濁った流。

色々と賛否両論ではありますが、自分はこういうやり方が好きなので困ったものです。


お爺様が久々の台詞を貰いました。

でも愚痴しかいってませんね。



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