84,狼君と模擬戦。
光を反射し、煌びやかな鎧と剣が交錯する。
全身鎧を纏っているのにその動作は1つとっても素早く鋭い。
翻った剣を大きな盾が受け止め、止まったところに振り下ろされる戦槌。だが槌を阻むように現れたもう1人により払われると再度剣が瞬く。
光の反射は見えないが騎士達の多対多の模擬戦を見ていると幻視するかのようにその光が見える。
きっとこの光は魔力と魔力が交差した残光。
武器や防具を見えるようにしている魔力が織り成す幻想的な花火だ。
1人1人が確かな技量と磨きぬかれたコンビネーションを持って美しくも勇猛な姿を見せ付ける。
騎士とは個であり、群である。
個人の技量もさることながら、複数でこそ力を発揮するのが騎士なのだ。
複数の剣による突きが1人を崩し、なだれ込むように決着がつく。
一角を崩すことにより突破口を開く。
群であっても個の集団であることには変わりない。特に今のような5人対5人の場合は1人がやられると顕著だ。
魔闘演ではなかなかそういったことはなかったが、今のは見事に作戦も決まったらしい。
まさに一瞬で決着がついてしまった。
その様は見てて清々しいまでに洗練された動きだった。
決着がつき、勝った方も負けた方も騎士礼をして下がる。
訓練といえど、ただ剣を振ったり走ったりするようなものを見学に来ている主に見せるわけには行かない。
故に行われているのは模擬戦であったり、演舞であったりする。
そのどれもが見ていて飽きることのない素晴らしいものだ。
これが自分のために結成された騎士団だというのだから堪らない。
今まで警備や護衛で少人数がついてくるだけだったのであまり興味もなかったが、こういうのを見せられると俄然興味が沸くというものだ。
「にーにゃ、しゅごいね!」
「……はい。でもお嬢様、私のがもっとすごい」
「しゃっしゅがにーにゃやね!」
「……ふふ」
「んふふ」
なぜかニージャとの会話は最後が不敵な笑みになることが多い。
彼女のノリに付き合ってあげているのもあるが、それが結構気に入っているのも理由だ。
お婆様の一押しであるニージャだが、複数の騎士を相手にするというのは難しいだろう。
だからさっきの言葉もただの冗談だと思っていた。
「じゃあ、ニージャと騎士団の模擬戦でもしてみますか?」
「んゆ?」
「……どんとこい」
「ぇ? ぇ?」
「副団長! 前へ!」
「ハッ!」
何を冗談を、と思ったけれどニージャもやる気満々といった感じだ。
呼ばれた副団長にそのことを告げると、彼も不敵な笑みを一瞬だけ浮かべすぐに自分の前ということを思い出したのか、真面目な顔に戻って騎士礼をして戻っていく。
不敵な笑みの時に一瞬だけ彼の右目の魔力の流れが強烈な速さになったような気がしたけど、一瞬過ぎたので多分気のせいだろう。
それより……。マジでやるの……?
危なくない?
そんな心配をよそにニージャも先ほどまで騎士達が戦っていた模擬戦場まで歩みを進める。
「らうりあ……あぶにゃいよ?」
「大丈夫ですよ、お嬢様。ニージャはとっても強いですから」
自信満々のラクリアの言葉に益々不安が募る。
ニージャの前には5人の騎士。
ソレに対してニージャは1人だし、騎士達の半分くらいの身長しかない。
その上完全武装の騎士達に対してニージャは無手の上ロングスカートのメイド服。
動きづらいわけではないメイド服だけど、戦闘のような激しい動作をするような造りでは決してない。
5対1の上にアレでは不安になるなという方が無理だ。
「にーにゃ……」
あれよあれよという間に準備も終わり、あとは始まりの合図を待つのみとなり最早止められないところまで来てしまった。
呟かれた自分の言葉は小さく弱い。
発せられた審判役の騎士の声に掻き消されてしまったほどだ。
合図と共に前衛騎士2人が今まで見せた中でも最高速の動きでニージャに接近しつつ、その身長ほどもある長大な剣を上から下からと叩き込む。
横合いから放たれるは逃げ場を後ろに限定するための槍が2本。
すでに最後の1人も堅く握られた拳を突き出してその手の中には魔力の活性化した流れが見えていた。
行動を限定するような嵐のような剣戟に下がればそこに魔道具による攻撃魔術が待っているという戦法だ。
だがそうはならなかった。
嵐のような剣戟を真正面からニージャが捌いていく。もちろん素手で。
刃が潰されているとはいえ、高速で打ち出される剣や槍を素手で触ろうというのは無謀の一言だ。
だがそんな無謀をまるで日常のような変わらぬ無表情で行っていく半眼メイド。
空を裂く音が何十にも聞こえ……。
4人の騎士の背後にはニージャが居た。
あれほどの密度の嵐の壁を一体どうやってすり抜けたのか。まったく見えなかった動きだがすり抜けたニージャが1歩目を踏み出した時にはその背後で4人が崩れ落ちる。
最後に残った1人も唖然としているがすぐに正気を取り戻し活性化した魔道具を起動させようとして崩れ落ちた。
最後に残った騎士の背後にいるのはニージャ。
距離にして10m近くは離れていたはずなのに瞬き1つしない間に移動と攻撃は終わっていた。
目の前で起こったことにも関わらず信じられない光景だったが、事実は事実。
騎士達が手を抜いたとはとても思えない。むしろ殺すくらいの気概がみえていたし、事実放たれた刃はそれに相応しいものだった。
模擬戦でそこまでやるなよ、と思うが今なら言える。アレでも足りないと。
騎士達はニージャの力量を知っていたからこそ本気でかかったのだろう。
だが結果は見るも無残な秒殺。
殺してはいないけど、意識を全員が刈り取られている。
ナイフ1本でも簡単に殺せる態勢が整っているのだから秒殺で間違いない。
「……ぶい」
崩れ落ちている騎士達は他の騎士によって運び出されたが、戻ってきたニージャは相変わらずの無表情で指を2本立てている。
「にーにゃ、しゅごおい」
「……ふふ。私の力はまだまだこんなものではないのですよ、お嬢様」
「おー」
「……ふふ」
「んふふ」
混じり気の無い賞賛を贈り、ニージャも表情こそ変わらないが少し照れている。
それを誤魔化すかのように不敵に……いつものように笑い、それに乗る。
微笑ましい光景だが、端から見たら怪しい2人組みだ。
しかも自分の騎士団を秒殺し終わった後だと尚更に。
「お嬢様……。次が始まります」
「あい」
「……私の後だからつまらない」
「こ、こら、ニージャ」
「んゆ~」
ボソッと呟くニージャに小声でラクリアが叱責するがどこ吹く風のニージャだ。
アレだけの戦闘能力を見せ付けたのだから、ニージャの発言も満更嘘ではない。むしろアレ以上のすごい模擬戦を見せられたらどれだけクリストフ家にはすごい人が集まっているんだということになる。
まぁお婆様ならやってのけるだろうけど。微笑みを絶やさずに……。
予想は的中し、やはりニージャのような凶悪な戦闘結果を残すようなことはなく恙無く模擬戦見学は終了の運びとなった。
「じゅんあんまちあったね。にーにゃはしゃいごにしゅりゅべきらっら」
「……肯定」
「すみません、お嬢様」
「たのしあったかりゃおっけー!」
「……さすがお嬢様。惚れる」
「こ、こら、ニージャ」
ニージャに惚れられたけど楽しかったのは事実なので訓練見学をしてよかった。
ちなみに専属メイドで模擬戦に参加したのはニージャ1人だったけど、ラクリアにいつも使っている武器を見せてもらえた。
その武器には魔術が刻印されていたが魔道具ではなく、ましてや特殊な魔道具と化した武具――魔武具でもなかった。
魔武具とは使い込まれた武具等が特定条件を経て魔道具化した物だ。
その条件は様々だが、迷宮と呼ばれる魔物の体内で魔武具化するのが一般的。
だが極稀に使い込まれた武具が魔武具化することもある。
魔武具化した武具はその性能が極端に高くなる。
例えば剣なら切れ味が極端に高くなり、岩をバターのように切れたりする。
防具ならどんな攻撃を受けても傷1つつかなくなったり、破損しても自動修復したりといったとんでも性能になったりする。
その上、魔武具は魔道具となるためソレ単体で強力な魔術を扱える。
しかも魔武具化した武具は魔力を自動回復する機能を有するようになるため回数制限が実質的になくなる。
もちろん使いすぎれば魔力切れで魔武具自体が壊れてしまうが、魔力切れを起こさないように扱えば強力な手札となる。
ラクリアが使っている武器は魔武具化した物ではなく、魔道具を武器にした物だそうだ。
違いは明快でとんでも性能ではないが魔道具としても使える武器。ただし回数制限はそのまま。
こういった形態の物は数多くあるそうで、結構使っている人も多いらしい。
魔道具なのでもちろん自分にも見え、誰が持ってもその形状を認識できる。
なので興味津々といった自分にラクリアが調子に乗って色々と教えてくれたのだ。自慢げに。
ラクリアが自分で気づいた時には大分ぺらぺらと調子に乗って喋ったあとで頻りに恐縮していたのが面白かった。
かくして、お婆様達を抜きにしたメイドたちを引き連れた初めての冒険は幕を閉じた。
ニージャvs騎士団でした。
騎士団の錬度は相当なものですがニージャはそれを遥かに上回ります。
でもお婆様は更にそれを遥かに上回ります。
この世界において強者とは超人を超える存在にすらなりうるのです。
外伝用に募集していた項目にもニージャと騎士団の模擬戦みたいなことが書いてあったのでちょうどいいのでここに差し込んでおきました。
外伝は外伝ですがたまに本編のネタにもできそうなのは使わせてもらっています。
今度とも色々と要望を書いていただけると助かります。
意味不明なものや無理難題は無理ですけどね。
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