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濁った瞳のリリアンヌ  作者: 天界
第一部 第5章 3年目 前編 2歳
92/250

82,狼君と小さな冒険。


 いざ冒険に出発! ……と言う段階にはまだならない。

 なぜなら目の前で揉めている2人の話し合いが終わらないからだ。



「ですから、リリーの乳母役は私なんですから私が付き添うのは当然です!」


「エリアーナさんもそろそろ子離れをした方がいいと思うわ。わたくしも付き添うのは今回は我慢しますし、あなたも我慢なさい」


「ですが、何かあったらどうするのですか!」


「そのために専属を4人全員行かせるのですし、騎士団からも2人付けますわ」


「ですが……」


「あなたの心配もわかりますが、外に出るわけでもないのですよ?

 今回は屋敷の中ですし、もしもの戦力としてニージャとラクリアがいるのですし」


「それは……。そうですが……」


「わかりました。ではスカーレットも連れて行ってもらいましょう」


「……わかりました。連絡は密にさせますから」


「えぇ、もちろんですわ。わたくしもそれは当然です」



 どうやらやっと話し合いが終わったようだ。

 さっきまでエナがものすごい勢いで同行できないなら許可しないと食って掛かっていた。

 それがやっとお婆様が優位に立ち、エナが折れた。

 エナが折れた理由は騎士団2名の追加と専属4人全員の同行、さらにエナの専属のスカーレットまで同行するというどれだけ人が増えるのっていうほどのものだ。


 せいぜいレキ君とラクリアだけで行こうと思っていたのに、なんとも大所帯になってしまった。

 しかも連絡を密に行うとも宣言しているし。

 屋敷を冒険するだけでこれでは先が思いやられる。



「リリー、危ないことはしちゃだめよ? 1人で歩くのもだめよ? 絶対専属の誰かかスカーレットを連れて行くのよ?

 コートを脱いでもだめよ? 走ってもだめよ? あとはあとは……」


「エリアーナさん。そのくらいにしないとリリーがいつまで経っても行けないわ」


「そ、そうですが……。リリー……。やっぱりやめにしない?」


「エリアーナさん」


「うぅ……。リリー……」


「はいはい、離れなさい。さぁ今のうちに行きなさい。

 ラクリア。あとは頼みましたよ」


「はい。承知致しました」



 心配を通り越して泣きそうになっているエナが何度も何度も確認してくるが、結局お婆様に強引に引き剥がされて出発することになった。

 といっても何度も言うが屋敷内だ。


 自分とレキ君、レキ君の鎖を持つラクリアと前後左右を完全に固めるニージャ、ジェニー、ミラの専属チーム。

 さらに前後に元からの2人に追加された白結晶騎士団の合計4人。

 さらに先行して白結晶騎士団が部屋の点検なども行っている。

 スカーレットさんは後ろの騎士2人との間くらいにいる。


 冒険とは銘打っているが、実質回るルートは決まっているのだ。

 なんともやる気の抜ける冒険ではあるが、お婆様やエナが付き添わないのは初めてのことだ。

 それだけでもちょっとだけど新鮮な感じがする。



「ではお嬢様出発致します」


「あい」


「リリー、寂しくなったらすぐに戻ってくるのよ!」


「リリーちゃん、がんばってらっしゃい」


「いれきまぁふ~」



 ラクリアの号令でレキ君ルームをゆっくりと出発。

 屋敷内はとにかく広いので全室に完備されている暖房を常に作動させているわけではない。

 そんなことをすればさすがに大変なことになってしまうのだそうだ。

 なので自分の進行ルート上の廊下と部屋のみ暖房をつけている。それでも温度がある程度コントロールできるコートを羽織っているのでつけていてもつけていなくても快適なのは変わりない。まぁいつも通りだ。



「お嬢様、まずはエントランスホールに向かいます」


「えんとらんしゅほおりゅ」


「はい、エントランスホールです。旦那様や奥様、テオドール坊ちゃまやエリスティーナお嬢様やその他お客様などが使用されるこの屋敷の入り口になるところです」



 お婆様達を出迎えしたところのことなので説明されなくてもわかっているが、自分は2歳児なので仕方ない。

 ラクリアも良かれと思ってやっているのだし、特に突っ込まずそのまま説明を続けさせる。



「このエントランスホールはオーベントで1番の広さを誇っています。

 エントランスホールの広さが貴族の地位の高さを簡潔に測ることが出来るのです。

 つまりクリストフ家はすごいんです!」


「へ~……しょ~」


「……お嬢様。お嬢様はすごい家のすごいお嬢様なのです」


「んゆ……。にーにゃもらうりあも、しゅごいめいろしゃんらね」


「お嬢様……。私幸せです!」


「……さすがお嬢様。っぱない」



 前方を固めている2人から少しだけ魔力が発露している。喜んでもらえたようだ。

 でも後ろからちょっと怪しげな魔力も流れてきている。


 この魔力は知っている。……嫉妬だ。


 今はいないちっこい様でよくわかっている魔力だ。

 仕方ないなぁ、と思いながら振り返ってにっこりと微笑んであげた。


 その効果は抜群だったようだ。怪しげな魔力も前方から流れてくる魔力に負けないほどのものになってくれた。







◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆







 少し歩くと……といっても自分はレキ君に乗っているので実際に歩いているのはレキ君だけど、すぐにエントランスホールについた。


 元々レキ君ルームに行くにはエントランスホールの近くを通るのでそれほど遠くない。

 何度も通っているうちにだんだん脳内でマップが出来てきている。

 人の配置状況や壁に一定間隔毎に設置されている暖房から流れる魔力で大体の状況を把握できているからこそマッピング出来ているのだ。


 といってもやはり実際に目に出来ていないので完璧には程遠い。あくまでも簡易的なものでものすごくざっくりとした大雑把なものだ。



「お嬢様、到着しました。エントランスホールです」


「あい」



 前方にいるラクリアとニージャが両手を広げて教えてくれるが、来たことあるし特に見るべき物もないんじゃないだろうか……エントランスホール。


 上を見ればシャンデリアにたくさんの魔力が灯っている。

 あとは人が配置されている程度で特に何も見えない。


 ぶっちゃけつまらないので次へ行くことにした。



「らうりあ~。ちゅぎ」


「え、もういいんですか? えっと少々お待ちください」



 自分の言葉にちょっと驚いて慌ててポケットから何かを取り出して少し離れるラクリア。

 どうやらアレは魔道具だ。しかも見たことあるタイプ。確か通信機のやつだ。



「――い、お嬢――トランスホー――り――かったようでして。は――に次――ます。畏まりました」



 最後の畏まりましたっていう言葉くらいしかはっきり聞こえなかったけど、お婆様かエナに連絡していたんだろう。密にっていってたし。



「お嬢様、お待たせ致しました。それでは次へ参りましょう」


「あい」



 最初の場所がエントランスホールだったのが悪かったのだ。こんな広いだけで何も見えないところでは冒険にならない。



「お嬢様、こちらが第2応接間になります」


「……ちゅぎ」


「え! しょ、少々おまちください!」



 即答したのには理由がある。

 そこも来たことがあるのだ。祖父母を出迎えた後に雑談したところだ。ミラを……泣かせたところだ。


 そして知っている。ここにも自分が見ることが出来る物はない。

 そこでわかってしまった。今更すぎるがわかってしまった。



 屋敷の冒険は……見えないんじゃ意味がない!



 魔力があるのは掛けられている時計程度でほとんどの物には魔力がない。

 椅子にも机にもソファーにも。壁にかけられている絵画とか綺麗な花が飾ってある花瓶とか高価な調度品なんかも、何もかも見えない。

 専属達が説明してくれる物は魔力を持たないためにまるで見えないのだ。

 わかっていたことだ。だがわかっていなかった。


 お婆様やお爺様は自分が濁った瞳であっても目が見えないとは思っていない。

 専属にも同じように話しているのかもしれない。でなければ調度品の説明なんてしないだろう。



「らうりあ」


「はい、なんでしょうかお嬢様」


「みえにゃいの」


「お嬢様……?」


「しぇちゅめーしてもりゃっても、みえにゃいの」


「す、すみません、お嬢様!」


「んーん。ばーばにいわりぇたんれしょ?」


「は、はい……。大奥様からお嬢様には目が見えているのと同じように接するように、と申し付かっております……」


「しょっか。りゃーおへあはもーいいかりゃ。きしらんのくんりぇんみたい」


「騎士団の……ですか?」


「あい」


「しょ、少々お待ちください!」



 通信を終えて戻ってきたラクリアがとんぼ返りで、また少し離れてお婆様に連絡を取り始める。

 部屋を見て回っても結局見えないんじゃ意味がない。だったら気分を切り替えて普段見ない騎士団の人達の訓練風景を見てみることにしたのだ。


 これも立派な冒険だ。普段行かないところなんだから。

 しかも人なら見える。これなら退屈しないで済むだろう。



「お嬢様、大奥様から許可を頂きました。それでは参りましょう」


「よおしうー」



 戻ってきたラクリアがすぐに騎士2人に指示を素早く出して出発した。




やっと始まった冒険。


でも魔力しか見えない目にはあまり意味がありませんでした。

まぁよく考えればわかることです。


でもクティがいない寂しさから考えればわかることがすっぽり抜け落ちていました。

クティがいないとだめだめなリリーなのでした。



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