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外伝7,専属達-1の内緒話

 本編にまだ出てきていないような、世界設定が……あれ? 出てこないような。

 あ、出てきてました!

 そういうのが嫌な人はブラウザバックです、はい。





 そこは必要最低限の家具しか置かれていない簡素な部屋だった。

 クリストフ家の敷地はオーベントにおいても王城の次に広大な面積を誇っている。

 そんな広大な敷地の中でも数多くの建物が立ち並んでいる一角。

 使用人の中でも位の高い者で且つ、女性だけが使用を許されている建物の中にその部屋はあった。


 今現在その簡素な部屋には2人の人物がもう1人の帰りを今か今かと待っている。



「まだかなまだかなー。もうそろそろだよねー?」


「えぇ~もぉそろそろのはずよぉ~」



 そわそわと壁にかけられた時計を見ながら1人はベッドの上に腰掛けて、もう1人は化粧台――ほとんど化粧品は置かれていない――の前の椅子に腰掛けている。

 もう1つ用意されている簡素な丸椅子が待ち人の為の椅子だ。

 本来は待ち人の部屋なのだが、この2人は勝手知ったるなんとやら自分の部屋のようにいつも使っている。



「それにしても何時来てもこの部屋は素っ気無いよねぇ」


「あなたの部屋はぁ~ぬいぐるみが多すぎると思うのよぉ~」


「そ、そうかなぁ……あれくらい女の子なら普通だと思うよ!」


「私でもぉ~あんなにはいらないわぁ~。それにぃ~1つ1つに名前もぉ~つけないしぃ~」


「い、いやだって! みんな私の家族のわけだし、ほら……家族に名前がないのはおかしいじゃない?」


「家族じゃぁ~しょうがないかぁ~」


「そうだよ、しょうがないんだよ。うんうん」


「ありえなぁ~い」


「がーん」



 くふふ、と笑いながら項垂れた同僚で暇つぶしを行っているのが、クリストフ家次女リリアンヌの専属メイドの1人――ジェニーだ。

 擬音を口に出して項垂れた暇つぶしの玩具にされた方が同じく専属メイドの1人――ラクリアだ。



「……いいもんいいもん。私はアレッシオとラキストに慰めてもらうからいいもん……」


「この間のぉ~休日に買ってきたぁ~新しい2匹だっけぇ~」


「そうだよ! アレッシオは尻尾の角度がすっごい格好いいんだから!

 ラキストは中の綿の密度がすごいんだからね! 2人とも高かったんだから!」


「はいはぁ~い。わかったぁ~わかったぁ~可愛いぃ~可愛いぃ~ラクリアちゃんはぁ~ぬいぐるみにぃ~癒されているといいよぉ~。

 私はぁ~ニージャと楽しくお嬢様のお話ぃ~するからぁ~」


「ソレはそれ! コレはこれ! 私を抜きでお嬢様の話をしようなんて絶対許さないからね!」


「ほんとぉ~ラクリアもぉ~お嬢様のぉ~虜になっちゃったよねぇ~」


「当たり前でしょう。私達はあのお方の専属なんだよ!

 なーに? ジェニーは虜じゃないっていうの?」


「ふふぅ~……そんなのぉ~決まってるじゃなぁ~い」


「だよねー」



 お互いニヤニヤとした笑みで見ながら2人は自分達の主のことを想う。

 2人があのお方――リリアンヌの専属になってから早数ヶ月が経過している。

 その間に知りえた彼女の情報から2人は……いや4人いる専属全員がすでに彼女の虜だ。

 精巧な作り物のような整った造形美と透き通るような白い肌。表情の揺らぎの無さもそれに拍車をかけ、絹糸のような細い髪は作り物では決してありえない艶やかさと美しさを併せ持っている。

 神の創った最高傑作と言われても過言ではないと2人は思っている。


 2人が尊敬している大奥様であるアンネーラの孫であり、今年行われた魔闘演の個人戦と団体戦の両覇者であるクレアティルの実子でもあることも大きな一因の1つだ。

 リズヴァルト大陸における最強と数えられる2人の血を引き、1歳半という年齢で1人で大勢の人間の前で挨拶をこなすというありえないことをしてのけた人物だ。

 専属の4人だけでなく、その挨拶を目の前で目撃した白結晶騎士団の面々も彼女を主と認めている。

 2歳にも満たない年齢の子供に専属4人と騎士団20数名という人数はクリストフ家クラスの貴族であるならばないわけではない。だがその全てが主と認めるのは稀だ。

 あの挨拶を目撃した者は全員が彼女は本当に特別だということを理解している。

 彼女に流れる血が、彼女の背景となるクリストフ家が。

 そして何よりもリリアンヌという存在が、傑物として育つだろうことは間違いないという確信を彼らにぬいつけ、自らの主であると認める理由だ。


 特に専属である4人は彼女の部屋に入ることを許される特別な立場にいる。

 身近で見るリリアンヌは容姿を除けば物凄く大人しい普通の子供と変わらない。

 だが彼女達は知っている。いや専属でも完全に自身の実力でその地位を勝ち取った3人だからこそわかっている。


 リリアンヌが時折見せる全てを見通しているかのようなナニカ。

 ジェニーが幾度も試した彼女の得意とする隠密行動を全て感知した鋭さ。

 クリストフ家でもトップの実力を持つニージャが自ら主と認めた事実。


 彼女達の主はその年齢では到底到達しえない実力を持っていると専属の3人は理解している。


 もう1人はどうなのかというと……彼女はリリアンヌのお気に入りという理由だけで選ばれている。

 実力などはクリストフ家に勤めている以上申し分ないが、それでも他の3人に比べれば若輩者以外の何者でもない。


 だがそれはソレ。専属の中でいじめやはぶりなどが起こるということはない。むしろ彼女達は最後の1人であるミラを可愛がっているくらいだ。

 だが最後の1人は今現在過酷な訓練を受けた為にダウン中だ。



「……お待たせ」


「おっかえりー!」


「おかえりぃ~それでぇ~どうだったぁ~?」


「どうだった!? どうだった!?」


「……落ち着け。まずはこれを」


「うぉおぉぉおおおおお!!!」


「こ、これはぁ~」


「……持つべき者は改造魔道具の技術を持つ友人」



 ニージャが懐から取り出し物は1枚の白黒の絵だった。

 だがそこには着ぐるみのような服を着た小さな主の姿が描かれていた。



「こ、これはどうやったの!?」


「……ものすごい大変だった」


「どうやったのぉ~。もっとないのぉ~?」


「そうだよ! もっとないの!?」


「……これ1枚しか成功しなかった。

 ……改造してもらった魔道具もこの通り」


「そ、そんなぁ~」


「でもぉ~これだけでもすごいわぁ~」



 ニージャが見せた魔道具は彼女の背中に本体を背負う形で腕に繋がれていたが、すでに壊れていた。

 ニージャの友人は魔道具を改造する達人のような人物だが、通常魔道具の改造はご法度だ。この魔道具も近距離を精密に拡大するための魔道具だったのを改造して作った、紙などの媒体に情報を転写する魔道具だ。

 魔道具の改造は基本的に単一動作を前提として作れているソレを別の動作、またはその動作を無理やり拡張するため不安定となりやすい。改造するにも相当な技量が必要となるがそれでも改造された魔道具は不安定すぎて暴走を引き起こし易く法で禁止されるほどの物だ。

 だがニージャは改造魔道具をこともあろうか主に対して使用している。もちろん改造した人物の腕を信頼しているからだが、彼女は専属になってからの短期間でかなり主に惚れ込んでいる。

 彼女の似顔絵が欲しくなってしまうのも仕方ないほどだ。だが、これがばれれば彼女は死をもって償うしかない。

 それほどまでの危険をおかしてもニージャは主を身近に感じたいがために今回のことを実行している。



「こ、これもらっていい!?」


「ちょっとぉ~それはだめよぉ~私がもらうのぉ~」


「……不許可」


「えー!」


「えぇ~」


「……大変だった。お嬢様が動かない人だったから出来た。

 ……大奥様にも見つかってない。見つかってたら……考えたくない……

 ……おまえらじゃ無理」


「う……そ、それはそうだけど」


「いいなぁ~いいなぁ~これはぁ~たぶんぅ~騎士団もぉ~交えてぇ~オークションしたらぁ~破産してでもぉ~手を出すやついるよぉ~」


「……肯定」


「そうだよねぇ。大奥様方がお嬢様を画家に描かせるようなことをするわけないもんね」


「そうよねぇ~それをぉ~考えるとぉ~これはぁ……」



 一瞬で鋭さを戦闘時のソレに変化させたジェニーの姿が霞むが、次の瞬間にはニージャに羽交い絞めにされ床に叩き落されていた。

 うつ伏せに倒れているジェニーの両手を拘束した状態で片足一本で固定するニージャの拘束術は驚嘆の一言だ。



「……南無」


「ジェニーも馬鹿なことするなぁ……ニージャに勝てるわけないじゃないの」


「……ちなみに模写も禁止」


「ぐっ……だめかー」



 意外と絵心のあるラクリアが図星を突かれてがっくりと項垂れる。

 リズヴァルト大陸における人物画は通常、相当な資金力を持つスポンサーかパトロンを持つ才能ある画家により数日かけて描かれる。

 才能があっても資金がなければ絵を職とすることは難しい。

 ニージャが使用した魔道具はそれを数十分で可能にする物だ。ただしほとんど動かないことが前提となる。

 従ってただでさえじっとしていない子供を相手とする場合は不可能に近いものである。だが相手はリリアンヌ。表情はほとんど動かない上にじっとしていることも多い。

 だがそれでも前提となる時間に問題がありすぎ、リリアンヌがじっとしていてもそれを構う存在が邪魔をする。

 数日かけたニージャの試みは1枚しか完成しなかった。いや、1枚完成しただけでも儲け物だろう。

 そして数日酷使した魔道具はすでに壊れてしまっている。使用した紙と改造した魔道具の費用だけでも相当な出費だ。

 だがそれでもニージャにとっては金や他の何物にも代えることの出来ない代物だ。

 彼女が大事に持っている1枚の絵は誰にも譲ることの出来ない逸品というわけだ。



「……ふふ……お嬢様は素敵だ」


「そうだねぇー。特にこのパジャマを着てるともう天使さまかってくらいすごいよねぇ」


「……超肯定」


「……わ、わたしもぉ~み、みるぅ~……」


「やっぱり兎族のパジャマが1番だと思うんだよね」


「き、狐族のぅ~」


「……ジェニーに賛成」


「でもジェニーのコレはそんなでもないよねー」


「し、失礼なぁ~……がく」


「……お嬢様がつけるから最強」


「あーわかるわー。わかりすぎて怖いわぁー。

 お嬢様ってなんであんなに可愛いんだろう……不思議だなぁ」


「……魔性の女」


「ぶふっ!

 ま、魔性……あ、あるかも……」


「……こくり」



 噴出したラクリアにサムズアップして口角をニヤリと引き上げた半眼少女の瞳には嘘偽りのない確かな確信が秘められていた。



「そ、そろそろどいてぇ~ニージャぁ~……お、おれるぅぅ~」



外伝その1はミラを除く専属3人の休憩時間の話でした。

専属が1人もいなくなるという空白時間は確かに存在します。

とはいってもほんの少しですが。


ミラはお婆様の特訓で起き上がれなくなっています。



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