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濁った瞳のリリアンヌ  作者: 天界
第一部 第4章 2年目 後編 1歳
76/250

70,エピローグ


 11の月に入った。

 相変わらずベビールームの中では季節を感じることはできない。

 だが屋外に出れば一目瞭然……一目はできないけれど。

 涼しかった風はだんだんとその身を震わせる寒風になり始めているのがわかる。

 兄姉の訓練も屋外から屋内へとシフトし始め、今では完全に屋内訓練に切り替わっている。といってもここはクリストフ家。

 お婆様が鍛錬室と呼んでいる場所は室という括りで収めるにはちょっと広すぎるような気がする。

 彼らがランニングした箇所だけでも相当な広さな上に、配置されている騎士団達の位置から見ても相当な面積だ。

 この屋敷は一体どれだけ広いのだろうか。いつか探検できる日が来るだろうからそのときには敷地内を大体でいいので見て周りたい。きっとこの屋敷だけでも大冒険になるだろう。


 エリーの誕生日があったということは次は当然エナの番だ。

 彼女の為にクレアが盛大なパーティを開いてくれるという話が持ち上がっていたのだが、エナはそれを断って今年も家族だけの小さなベビールームパーティとなった。

 クレアも無理強いはせず彼女を最大限尊重してくれている。まるで自分にとってのクティのような親愛を感じる。



 あ、でもクティと自分の仲には及ばないけどね。



 エナの誕生日は先の2人の誕生日同様に自分を独占できる日というのは動かないらしい。

 エナの場合はお婆様と2人でいつも独占しているようなものだと思うんだけど。

 それでも久しぶりの独り占めということでその表情も、エナの場合は少ししか出ない魔力の発露も素晴らしいものになっていた。



 家族の自分への愛は非常に強い。

 目が見えないというハンデがあるためにその分愛情も強くなっているというのももちろんあるんだろう。でもそれを差し引いても彼女達の愛は半端ではない。


 たくさんの暖かさに囲まれながらのエナの誕生日会は進んでいった。


 ちなみにこの日クティのジェラシーメーターはぎりぎりで振り切れることはなく、翌日に頬に張り付いているということはなかった。

 エナだと大丈夫らしい。大人の節度ある独り占めだった。



 独り占めには変わらないけど。

 ……誕生日毎に独り占め騒動が起こるのかとちょっとこの先が不安だ。



 ちなみにもふられて恍惚の表情で退場していったミラだが、翌日は復帰することが出来ずお休み。

 2日目はお婆様がお見舞いという名の訓練を課しに行き、その翌日から4日は過酷過ぎる訓練で動けなくなりお休み。

 結果として1巡り(週間)後にやっと復帰してきた。

 ミラがお休みの間はニージャが代わりを務めてくれた。何やら動きが前に比べて堅かったような気がするが気のせいだろう。お婆様も気にしていなかったし。


 訓練内容はお婆様から聞き出すことは結局できなかったが、いつもののほほんとした笑顔の中にちょっとだけ達人さんの魔力の流れが垣間見えたことから想像が出来た。



 ミラ……南無。



 復帰してきたミラだったが、お婆様がベビールームにいるときはガチガチの緊張状態となってしまい顔や体に流れる魔力がおかしくなっていた。

 お婆様に視線を向けられるとビクッと大きいリアクションのあとものすごい震えながら直立不動になるという見てて可哀想な状態だった。

 仕方ないのでお婆様になるべくミラを見ないよう誘導しつつ、先生の授業を受ける日々が続いた。


 エナの誕生日を過ぎる頃にはなんとか元の状態に戻ったミラだったが、その間の緊張による憔悴は結構酷いものだった。

 美しかった並ぶ者のない毛並みも衰え、それでもまだ他の専属たちよりは上ではあったがあの極上のもふもふレベルを知ってしまった自分としては実に残念で、もふもふチャレンジをしようという気は起きなかった。


 極上のあの毛並みに戻るにはまだ時間がかかるようだが、戻ったら再開予定のミッションプランをもう少し手加減の効く物に変更しておこうと思った。



 やるなら最高の状態を狙いたいからね。

 だから早く元に戻りたまえ! 早くあの至宝をこの手に!







◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆







 12の月に入り、ミラの毛並みも順調に回復してきている。

 ミッション再開の日も近いかもしれない。実にワクワクしてくる。


 屋内に移った兄姉の訓練だが、たまに天気のいい日は外でも行われる。

 それで気づいたのだが、どうやら今外は雪が積もっているらしい。

 クティがはしゃいでいたし、お婆様も雪を触らせてくれた。

 やはりこちらの世界でも雪が降るようだ。


 四季があり、生前の母国のような季節の流れ方をする国。

 2度目の人生というだけで不思議な体験をしているのに、1度目の人生のほとんどを送った国と同じような気候。

 魔術があるので文明の進歩などは独自の道を歩んでいるようだけど、似たような物も多い。

 世界が違えども歩む道は同じようになるのだろうか。不思議なものだ。







◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆







 月日は流れ行く。

 授業を受け知識を深め遥か高みの頂のさらにその先を目指す。

 まだまだ霞んで見えないその先を思うと眩暈にも似た何かを感じるが、一歩ずつ少しずつではあるが確実に進んでいると確信しながら進んでいく。

 実践こそまだだが、深まる知識を元にある程度のシミュレーションを行える程度には達しているのだ。

 確実に身に付いている知識を更なる確信へ導く作業。

 まだまだ自分のやる気は衰えることを知らない。







◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆







 転生してから2年が経過した。

 今日は自分の2度目の人生における2度目の誕生日だ。

 1歳の時同様のおめかしだが当然もう1歳の時の服は入らない。あの時と比べてもずいぶん自分は成長した。

 頭部に今回はなしのようだが、スカートはボリュームいっぱいのオーガンジーの3段重ね。

 スカートの底部をハードチュールでさらにボリュームをあげているようだ。

 ウエストの大きなコサージュとスカートのボリュームが目を惹くドレス。

 もう大分スカートにも慣れてしまった。これも一種の成長なのだろうか。深くは考えたくない。


 知識に関してもそうだが、体に関しても大きくなった。

 一番の成長はやはりトイレトレーニングが完成したことだろうか。

 今では無意識に我慢が出来るあの頃と変わらない。

 少しずつだが、着実な自分の成長が実感できた素晴らしい体験だった。

 人が生きるのに欠かせない生理現象をコントロールできるようになったという実感は何物にも替え難いものがある。



 胸を張っていえる!

 自分はオシメを卒業したぞ、ジョ○ョー!




 1歳の時はパーティホールで行われた誕生日だが、今年はベビールームで行われるようだ。

 飾りつけ用のリボンや紙の花を家族みんなで作っては飾っていく。

 自分は主役なので作らせてはもらえなかったが、その様子をチラ見しながら授業を受ける。誕生日だがまだパーティは始まっていないので、サニー先生に頼んで授業をしてもらっているのだ。

 先生は今日くらいは休んでも別に構わないといってくれたが、時間は有限なのだ。出来る限りお願いしたい。


 だがすぐに飾りつけも終わり誕生日会が始まってしまった。

 始まったからには授業は終わりだ。残念だが、これは自分のための会なのだ。楽しまなくては申し訳ないというもの。



「「「お誕生日おめでとう」」」


「「「おめでとうございます、お嬢様」」」



 家族と専属4人とスカーレットさんのおめでとうコールが部屋に響く。

 クラッカーのような物はないけれど、みんなから漏れる魔力が暖かい空間を形成しているのがわかる。



「リリー、僕たちのプレゼントだよ!」


「リリーが喜んでくれると思う本を選んできたの。これからもいっぱい読んであげるからね!」



 どうやら兄姉からのプレゼントは本のようだ。

 本棚のある位置の少し前でじゃじゃーん、とパントマイムのように大仰な動きで両手を広げて指し示している。

 見えないのでわからなかったがすぐにクティが補足してくれた。



「あー。あそこに山積みされてたのってプレゼントだったんだー。

 リリー、テオとエリーの誕生日プレゼントはたっくさんの本だよー。

 読んでもらうのが楽しみだねー!」


【山積み……そんなにいっぱいなの?】


「うんうん、すっごい量積んであるよ!

 リボンも付いてるし、間違いないよ!」


【そっかーそれは楽しみだねぇ】


「ふむ……タイトルを見るに冒険小説の類が多いな。君は冒険が好きなのかね?

 私はてっきり研究の方好きなのかと思っていたよ」


【あー……。どうでしょう。冒険は好きですけど、命を賭けてまではやりたくないですし。

 お話の中でなら好きですよ】


「なるほど、まぁ私は本も冒険や恋愛の物より研究書の方がいいな。そういった類は……ないのか、残念だ」


「そんなのあるわけないでしょー!

 テオとエリーが読んでくれるんだから難しいのがあるわけないの!」


【あはは。確かにそうかも】


「ふむ……確かにそうだな。実に残念だ。

 だがこれだけの本を集めてくるとは……。この屋敷にある蔵書も大した量だが、それでもたりんとはなかなかどうして」


【やっぱりこの家には本がいっぱいあるんですねぇ。

 読んでもらった分だけでも相当な量があるのはわかっていましたけど】


「うむ、これだけの量はなかなかないぞ。オーベントにある図書館もなかなかの量だが、世界の隣の森の図書館の100分の1程度の蔵書量はあるだろう」


【それは世界の隣の森の図書館がすごいのか、うちの蔵書量がすごいのかいまいち判断が……】


「うむ、図書館の蔵書量は――」



 2人に順番に抱きしめられながら妖精ズも本に興味津々だ。

 まぁすぐに片方は興味が違うところに行ってしまって図書館の本の種類とその量についての考察を始めてしまったけれど。


 その後は順番に両親、エナ、お婆様とプレゼントを受け取っていく。


 両親からのプレゼントは2歳になると、オーベントでは慣わしとして贈られるティアラだった。

 贈る物はティアラに限るわけではないらしく頭部に装着するタイプの物なら割となんでもいいそうだ。

 クリストフ家では男子には王冠を、女子にはティアラを贈るそうだ。

 テオとエリーももちろん贈られていて屋敷のどこかにある宝物庫に大事に保管されているそうだ。



「ふふ……お誕生日おめでとう、リリーちゃん。とってもよく似合っているわ」


「あぁ……エリーの時と一緒でお姫様だな、リリーは。とてもよく似合っているよ」


「やっぱりリリーはお姫様だね! 僕はお姫様に仕える立派な騎士になってみせるよ!」


「リリーすっごく綺麗よ。本物のお姫様ね!

 ……でも! リリーの騎士は私が務めるのよ! 負けないからね!」


「望むところだよ! 僕はこればっかりは譲る気はないんだからね!」



 両親に続いてお褒めの言葉を贈ってくれるけど、兄姉の2人はなぜかにらみ合ってしまう。

 いつもはエリーに譲ってあげるテオもこれだけは譲れないらしく、真剣な表情で向かい合っている。

 でも、誕生日会で喧嘩はしないでほしい。



「にーに。ねーね。めッ!」


「「ッ!! はい! ごめんなさい!」」



 叱られた瞬間に大きく見開いた目が丸くて可愛らしかった2人だけど、すぐに平謝りだ。

 周りで微笑ましそうに眺めていた家族達からさらに楽しそうな笑い声も聞こえてくる。

 魔力の流れを見ずとも2人共照れくさそうにしているのがわかる。だがそんな仕草も周りの家族達の暖かい魔力の発露と合わせてすぐに笑顔へと変わる。



「次は私ね。私からは……はい、コレ。

 リリーに似合う服をいっぱい選んであげたからね。色んな服で着飾りましょうね」



 エナからのプレゼントは服だった。

 当然見えなかったのだが、プレゼントの服を見てクティがすごくいい表情をしていた。



「わぁ-さすがエナ……あ、これってリニアードの最新作じゃない! でもあれって子供服は……」


「ふふ……私にかかれば造作も無いことなのよ、エリー?」


「す、すごい! 今度私にも!」


「そうね~でも本当は結構大変だったのよ。だから機会があったらね?」


「やっぱりー。うん、楽しみにしてるね」



 2人の華やかな女性らしい話にほっこりしつつも、どんどんすごいことになっていくクティの表情に一抹の不安を覚える。

 一体どんな服だったのだろうか……。そのうちきっと着せられるだろうけど……不安だ。



「次はわたくしの番ね。

 そろそろ来る頃のはずなのですけど……」



 お婆様がそういった瞬間だった。

 廊下側からものすごい足音と共に何かが接近してくるのがわかる。

 わかった瞬間にはすぐにドアが開かれ見慣れたお人が姿を現した。



「誕生日おめでとう、リリアアアアアンヌ!

 おじいちゃんは間に合ったぞおおお!」



 ドアの縦長の長方形の中に全然収まっていない巨躯。

 魔力の流れもクリストフ家の優秀なメイドを遥かに凌駕する硬質さ。

 当然そこにいたのは領地に戻っていたお爺様だ。



「あなた。遅いですよ?」


「お、おう……。悪かった。来る途中でちょっと生き残りが少々居たので消してきたのだ」


「今日はリリーちゃんの誕生日なのですよ? そういう無粋な話はしないでくださいまし」


「うっ……悪かった。許しておくれ、リリアンヌ」


「じーじ。おあえりなちゃい」


「うおおおぉぉぉぉ。こんな爺を許してくれるのかリリアンヌよおぉぉぉぉ……ごふ」



 物騒なことを吐いていたお爺様は窘められた瞬間小さくなっていたが、自分がおかえりと言ってあげたらすぐにその顔には喜びの花が咲き乱れ、そして恒例の突撃とお婆様により返し技。



 いつも通りの楽しい楽しい光景です。

 開いていたドアに逆戻りしたお爺様をすかさず締め出すお婆様の手際の良さや、床と平行に飛んでいくという漫画のような出来事もこの2人なら日常の光景だ。

 もちろんその後にドアをドンドンと叩きながら何度も謝る声が聞こえるのもいつものことだ。







◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆







「色々あったが、間に合ってよかった。

 俺とアンからの誕生日プレゼントは下に用意してあるぞ! さぁ行こうか!」


「リリーちゃんに気に入ってもらえると嬉しいのですけどね」


「何を言う。俺自ら手塩にかけて教育したんだ問題はあるまい」


「はぁ……あなたはほんとに……教育云々は前提です。問題はリリーちゃんがあの子を気に入るかどうかですよ?」


「う、むぅ……だが大丈夫だ! リリアンヌは狼族を気に入っていたではないか!」


「まぁそれはそうですわねぇ……では行きましょうか」



 2人の会話からして何やら教育が必要なものでしかも狼族――ミラを気に入っていたのが共通するようなものらしい。

 なんだろう。楽しみだ。



 お爺様の硬い腕の中で揺られながら移動する。

 やはりお婆様のような振動を無視するような動きではない。腕も硬いし胸板も硬い。



 乗り心地も悪いとあっては微妙の一言だなお爺様。

 お婆様への乗換えを要求します!



 その思いをお爺様の頬をぺちぺち叩いて訴えてみたが、ガハハと豪快に笑うだけで全然効果はなかった。

 結局乗り心地の悪いお爺様便で目的の部屋まで行くことになった。


 目的の部屋の前まで行くとお爺様が立ち止まり、ニィっと野太い笑顔を見せる。相当な自信があるプレゼントだとそれだけでもわかる。



「さぁリリアンヌよ! これが俺たちからの誕生日プレゼントだ!」



 開かれたドアの向こうには、格子状の魔力とその奥に艶やかな魔力の流れを持つ何かが居た。




70話到達と共に4章終わりです。


4章は予定通りの話数で終われました。

でも内容的には5章に先送りした話がかなりあります。

内容を4章のうちに収めるとなるともう少しかかったと思います。

でも今回は話数を重視してみました。

少し駆け足で2年目後半を駆け抜けましたが、その分外伝でいくつか補完する形になりました。


外伝は活動報告にも記載している通りに4話となります。


次回から4話分外伝を投稿してから5章になります。


気に入っていただけたら評価をして頂けると嬉しいです。

ご意見ご感想お待ちしております。



尚、新規投稿した話は進行スピードを上げる練習を兼ねて書いてみたのですが、やはり今ひとつでした。

難しいものです。

お暇だったらお読みください。


5/11 誤字修正

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